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05

 用事がある、と言って博麗神社から居なくなった文だったが、彼女は鬼々のことを知り、満足をしていなかった。ただの人間があのような力を苦せず手に入れても、なぜあの人間が力に腐っていないのか。さらに、万屋、という人のためになる職をしているのか。文にはそれが、不思議でしょうがなかった。








 明日の依頼に同行することを伝えに……本当は、秋雨弘毅という人間を知るために、彼の仕事場であり家である場所の中に、私はいる。……別に家を漁るのではない、と自分に言い訳をしながら。

 外では、弘毅さんが依頼人とが接触している。先ほど、依頼人だと思われる人が、弘毅さんと一緒に吸血鬼退治に行こうとしていたが、どうなるのだろう。


「……それにしても」


 周りを見渡す。万屋の仕事で応接間のような機能で使われている部屋で、それ相応の雰囲気を持っていた。特に気になる物はなさそうだ。

 部屋は二つしかないので、弘毅さんの部屋はあそこのはず。部屋を確認して、……一瞬の迷いはあったが、私は扉を開けた。


「――へ?」


 そこには洋室が広がっていた。―――普通に感じる。本棚、テーブル、椅子、ベッド。あまりにもありふれた部屋で、間の抜けた声が出てしまった。


「……写真?」


 ふと、テーブルの上にある写真立てに気付いた。それに近づいて、目を向ける。


「弘毅さんと……親?」


 写真には、まだ幼い弘毅さんと、その親らしき人が笑顔で写っていた。


 他に机や寝具や本が数冊があったが、これといって変わったところはなさそうだった。特に収穫といったものがなく、やはりというか、家の雰囲気だけでは弘毅さんの事がよくわからなかった。

 明日、あの依頼人が居なければ、弘毅さんの紅魔館のお手伝いをすると言うつもりだったけど、もし依頼人の思惑通り話が進んでいたならば、せめて紅魔館の人たちを紹介しよう。そんなことを思いながら、玄関の近くに戻った。


「なんでこう、一筋縄に行かないかな……」


 丁度良いタイミングで、弘毅さんが家に入ってきた。そして、そのまま彼と眼があう。


「……は?」


「ふぉっふぉっふぉ」


 全く違う反応を見せる二人。……二人? 大方、その様子だと、一緒行く羽目になったのだろう。

 私は、弘毅さんに呆れながらも、精一杯の笑顔で語りかけた。


「さあ、妖怪退治ですよ、妖怪退治!」








「さあ、妖怪退治ですよ、妖怪退治!」


「って、なんでお前が妖怪退治を勧めるんだよ」


 はあ……、この前の家に侵入すればって言ったことを本当にするか。

 

「なのでまずは」


 俺の言葉が当たり前の様に無視され、話が続く。


「退治する妖怪については色々と教えなければいけません、と思ってですね?」


 どうやら、俺が依頼人と話したことが筒抜けだったらしい。

 後から聞いた話では、依頼人達が身内で話していたことを文がこっそり聞いていた、とのことだ。


「それよりの……烏天狗よ。お主、何が何でここに居るんじゃ? 用があったんじゃろ?」


 勝手に家にあがったからか、怒気のこもった声。文は特に堪えた様子もない。


「いい、って言ったじゃないですか。弘毅さん」


「……まあな。でも、本当にやるか?」


 文は苦笑いをした。それが返事なのだろう。話は元に戻った。


「こんな事態になってるのに、紅魔館ではメイドの事しか知らないですよね。いろいろ困るんじゃないですか?」


 まあ、吸血鬼はドジで自意識高い、ってことを知っていれば、いいと思いますけどね、と笑う文。そこで、俺は――


「とりあえず、お茶出すよ、座ってて」


落ち着いて文の話を聞くことにした。






 いつの間にか雑談をしており、気付いたら紅魔館のメンバー紹介が始まり、それすらも終わりそうになっている。すっかり日は沈み、外は闇に包まれていた。


「……あと最後になりますが。もし、この娘と出会ったら、逃げて下さい。できるだけ刺激をしないように」


 そう言って、文は弘毅に写真を見せる。

 弘毅と文の二人はテーブルに向かい合って座っている。テーブルの上には煎餅がある。弘毅は、それをぼりぼりと食べながら、文の説明を聞いていた。


「……なぜ? 子供だよな?」


 弘毅は、写真に写る笑顔な金髪な少女を見ながら聞く。文は、やれやれ、とため息をつき、煎餅をかじった。


「妖怪に見た目なんて関係ないですよ。彼女はフランドール・スカーレット。レミリア・スカーレットの妹です」


「……そうか。……? どうして危険なんだ? お屋敷に住んでるんだろ?」


「あ、住んでると言っても、彼女は常識がないまま地下に監禁されていました」


 監禁、という言葉に驚いた弘毅は、煎餅をのどに詰まらせ、慌ててお茶を飲む。


「ゲホゲホッ。訳ありなのか」


 文は軽く頷き、弘毅が心配しないように付け加えた。


「はい。でも、もしもがない限り、大丈夫なはずです。この頃は落ち着いていますし」


「ああ。覚えとく。これで最後か?」


「説明するような人はこのくらいですね」


「ありがとな、文」


「いえ。今までのことを挽回できたようですし、良かったです」


 文は取材を始めて約一カ月(最初一週間ほどは単にストーカー)経っていた。それによってできた警戒心を無くせたことが嬉しいようだ。


「記者に信頼関係はとても重要ですよ」


 勝手に人の家に上がった者が何を言っているのか、と言いたいところだったが、満面の笑顔が浮かんでいた。


「……とりあえず、今日は遅くまでありがとな。どうする? 泊っていくか?」


 それに弘毅は少し照れたのか、急に別の話題を振る。が、仮にも女性を泊まりに誘うとはなかなかな勇者である。


「レディーを家に泊まらせるんですか?」


 先程とは違うその笑顔に、弘毅は思わず身震いした。


「妖怪なら大丈夫か。帰るか?」


 急いで、切り替える弘毅だったが


「レディーをこんな時間に追い出すんですか?」


文のどうしようもない言葉を聞くことになる。


「……」


「……」


「ふふっ」


「ははっ」


 なにがしたかったのか、文は結局帰ることにして、この後すぐに家を出た。


 文は――秋雨弘毅という人間を間近で見て、満足した一日を過ごした。










 朝、弘毅は身支度を終えて、鬼々に教わったことのおさらいをするため、家の前の空き地に居た。

 彼は、札で作った剣で、地面に突き刺さっている長さ一メートル半ほどの長さの棒きれを斬っていた。まだ、斬り慣れていない弘毅に鬼々が用意した練習だ。


「……こんな感じか」


 かれこれ一刻程この練習を続けて満足したのか、呟く弘毅。


「そうじゃ、大丈夫そうじゃの」


 鬼々は文から喋るのを好まない、と思われているが、弘毅と二人で居る時はよく喋る。これまた、弘毅に面倒くさがられるほど。


「さあ、ぼちぼち出るか」


 満足したのか、約束の時間よりまだ早いが、家を出ることに決めた弘毅。といっても、もう既に荷物は外に置いていて、鍵も閉めているので、準備はないが。


「そうじゃの」


 弘毅と鬼々の二人は、約束の時間まで人里をぶらつくことにした。

 練習した事を使う事がないように、と願いながら。







 時間は簡単に過ぎて、太陽も真上から下ってきた時間帯。食事処で軽く飯を済ました弘毅は、依頼人の家の前まで向かった。


「やあ、今日はよろしくね」


 依頼人は、門の前で準備をして待っていた。勿論、後ろには護衛の二人が居る。

 弘毅は、依頼人を見て、文と会話したことを思い出した。


『え、弘毅さん。鬼々さんの力はけっこう人里に知られていますよ? あ、でも、正体が札だとは知られてないと思います。私も里で取材していた時に弘毅さんの力の噂を聞いたんです』


 能力のことが探られているのは、昨日からわかっていた弘毅。下手にその話題をするとばれてしまう羽目になる。弘毅は、それだけは避けたかった。

 だが、


「さあ、紅魔館(むこう)では、どんなことをしてくれるかな?」


 嫌でも、その話題は振られる様だ。依頼人は、弘毅のことを魔理沙と同じ、魔法使いかなにかだと思っていて、それに興味があるのだろう。


「はは、頑張りますよ」


 上機嫌な依頼人と、さっそく精神的に疲れはじめる弘毅。


「ああ、頑張ってもらわなければな」


 依頼人の護衛の家内の方が鼻で笑いながら言う。依頼人本人よりも偉そうな態度に弘毅は不機嫌になる。


「……勿論です」


「さ、さて行きましょうか」


 依頼人の護衛のもう一人の青年が、慌てだした。弘毅と家内の護衛が喧嘩しそうな雰囲気になっているため、仕方がない。

 そうして、わずかにギスギスした空気の中、彼ら4人は紅魔館に向かった。







 紅魔館ももう間近になってきた頃。出発以前の空気は少しマシになり、緊張はあるものの、不快な雰囲気ではなくなっていた。といっても、その空気も弘毅の()に触れていないからかもしれないが。


「いや~。秋雨君の万屋の話、面白いねえ。あ、もう着くよ」


 妖怪にも、妖精にも出会わなかったのは偶然だろうか。平和なまま紅魔館が見えてきた。

 弘毅は、必要ないと思いながらも注意を促す。


「気をつけて下さい。依頼人のあなたに怪我されたら困りますので」


「わかってる、心配性だね……まあ、しょうがないか」


 護衛の二人もそれに頷き、もうすこし緊張してください、といった言葉をかける。


 そうこうしている間に紅魔館に到着。そこには門番である(ホン) 美鈴(メイリン)と、咲夜が立っていた。


「……? 女性が二人?」


 青年の方の護衛がこぼした一言に、もうひとりの護衛が怒る。


「紅魔館には女の妖怪の門番が居るんだ。言っただろう?」


「は、はい。でも、あんな方だとは……」


 やはり、というか依頼人の家内の方が偉いのだろう、敬語に近い言葉で話す青年。そんな会話をしている時、弘毅は、咲夜と目が合っていた。

 咲夜は、大層驚いた様子だ。だが、すぐに落ち着き、弘毅たちの方へ近づいた。


「ここから先は、私有地になっています。なぜこんなところへ?」


 状況を判断したいと思われる咲夜が質問した。弘毅は答えて話を合わせようとするが、それより早く、喋る者がいた。


「吸血鬼をぶっ殺しに来たんだよ!」


 突然の護衛(家内)の暴言。弘毅と依頼人と青年が揃って頭に手をやって、咲夜は苦笑いをした。


 依頼は、ここからが本当の難関なのかもしれない。

……やはり、更新の間が空いてしまいました。次こそは、と思いながら頑張ります。

そして、感想、指摘、批評、悪態……待っています! お暇があればよろしく!!



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