04
いやあ、毎日投稿する人ってすごいですよね……。尊敬します。自分も尊敬されるようになりたいですね。
咲夜は、主人である吸血鬼……レミリア・スカーレットが今回の件をどう思っているか、を弘毅と文に話した。文は、聞かずとも大体予想がついていたが。
主人であるレミリアは、暇なのが常だ。特にやることなく、紅茶を飲んだり、妹と遊んだりして過ごしている。ただし、紅茶は血であったりワインであったり、妹と遊ぶことは死闘だったりと多少の誤差はあるが、この場では関係の無いことだ。
要するに、毎日暇しているので逆に大歓迎ということである。
「そうなのか……」
話を一通り聞き、弘毅はなにか気にした様子でいた。どうやら吸血鬼のイメージが違っていたらしい。
「どうしたの? よろず屋さん」
「いや、吸血鬼なのにそんなにのんびりそうに暮らしてていいのか、って」
「ああ……それは」
「お嬢様ですから」
「うん。アイツだからね」
ひどい扱いである。
「どんな吸血鬼だ。一時期、そいつの所為で赤い霧で色々あったし、あまり信じられないんだけどな」
「もう、大丈夫です。今やお嬢様は、色々なものに興味を示している唯の子供のようなものです」
「あ、あってますね。まだまだ子供ですからねえ」
文もしみじみと肯定した。軽く人間の寿命を上回り生きている吸血鬼を、子供、と言うあたり、文は長生きだと思われる。
「……吸血鬼ってそんな和やかだっけ?」
弘毅の中で、威厳ある吸血鬼の像が壊れていった。
●
「さて」
談笑で盛り上がっていた場の中、咲夜が手をパン、と叩きながら、言った。他の三人が一斉に咲夜の方を向く。
「そろそろ、門番がサボる時間なので、ここで帰らさせていただくわ」
「じゃあね、咲夜。それじゃ、今度こそはお酒を持ってきてね」
「霊夢さん……」
文があわれむ様な目で、霊夢を見つめる。霊夢が慌てて咳払いした。
「じょ、冗談よ。最後までそんな意地はったりするわけないでしょ」
なんとか、威勢を張ったが、誰から見ても笑顔がひきつっている。残念ながら虚勢だと一目でわかる。
「それでは、よろず屋さん。明日ね」
明日。弘毅が、レミリアを説得という名の会談する日である。面倒事は早い方が良い、ということでそう決まった。明日でも大丈夫な事を聞いて、本格的にレミリアが暇なんだな、という事を思う弘毅。
繰り返すが、紅魔館の住民は大体暇しているのだ。先ほど言っていたが、門番は居眠りするし、頭脳派は本ばかり読んでいるし、主やその妹も暇している。本当に忙しいのは咲夜だけと思われる。何故、咲夜だけ忙しいかというと、多数いる妖精メイドは仕事ができず、あまり役に立っていないからである。
「ああ。明日の昼ごろ向かうよ」
「わかったわ。それじゃ、今度こそさようなら」
そして、咲夜は帰って行った。そこには、相変わらずお茶を呑んでいる文と、文の隣で彼女と話している弘毅。それと、ホウキで掃除をしている霊夢の姿があった。
文は相変わらず弘毅に質問していた。鬼々のことより、弘毅本人に対しての質問を。それらに答える弘毅だったが、文が突然手帳を閉じ、立ち上がった。
「じゃあ、私も帰りますか」
日も暮れ始め咲夜も帰ったので丁度良い、と思ったのか、文が帰る意思を見せた。
だが、何故か弘毅は不思議そうな顔をして文を見つめる。
「あれ。てっきりついてくると言うと思ったが」
「いえ、用事があるので。さよならですね」
短く、言い捨てた様な口調。そして歩いて帰っていく文。しだいに姿は見えなくなった。
この場に残っているのは弘毅と霊夢の二人。
「文、どうしたのかしら」
霊夢は、ホウキを置いて、弘毅の隣に座った。すると、お茶を差し出す弘毅。霊夢はそのまま礼を言いながら受け取り、一口飲んだ。
「こんな格好な取材対象がいるのに」
「……なんでだろうな」
その後霊夢は、まあ妖怪は自由奔放だからねえと投げやりに答えた。彼女が振った話だというのに。
「あ、弘毅さん。言い損ねてたけど、魔理沙と遊んでいた時のあの技」
そして、話題を思いっきり変えた。自由奔放とはこのことか。妖怪も人間も自由奔放である。
しかし弘毅としてもその話題は気になっていたようで、話に食いつく。
「そ、そうだ。あれはどうやってとめ」
だが、最後まで言う前に、唇に指を当てられ途中で止められた。
「――面倒だから、使わないで」
一言。霊夢は、真剣な顔にしたまま弘毅を見つめた。霊夢は、本当に弘毅の事を心配している。……面倒、というのもあながち間違いではないが。
「? どういうことだ?」
「…………」
真剣な目をして弘毅を見つめる霊夢。それに妙に信憑性が感じられた弘毅は、素直に頷いた。
「……わかった」
「ならいいわ。もう帰るんでしょ?」
「ああ、明日の準備もしなければならないしな」
「じゃあ、ね。弘毅さん、がんばって」
「ああ」
弘毅は立ち上がって、霊夢に挨拶し、身を翻し、歩き出した。
「あの札…………」
霊夢がぽつりと漏らした言葉は誰にも聞こえていなかった。
●
博霊神社から直接帰ると面倒があると思った弘毅は、家のすぐ近くに転移した。そしてそのまま、歩いて家に向かう。人里のはずれにある万屋は、周りが空き地になっていて、ポカンと一軒だけ建っている。
「ふう。おつかれ、鬼々」
毎度の事に、弘毅は転移の礼を鬼々言う。
弘毅と鬼々は、雑談をしている内に家であり店である一軒家の前までやってきた。二人は、自分の家の前に人影があることに気付く。
「あれ、だれだ? って……」
弘毅は、そこに居る人物が誰かを知っていた。彼は小走りして、その人物に近づいた。
「どうも」
「おや、秋雨君。どこに行ってたんだ? 待ってたんだよ」
その人物は、吸血鬼退治の依頼人と、その部下と思われる人たちだった。依頼人の容姿は、髭を生やしているが、不潔感は感じられず、顔も整っており、かっこいいおじさん、という風貌だ。
「すいません。私事で出かけていました。どうかしました?」
「それがね、あの巫女さんが紅魔館を出入りしていたところを部下が目撃したんだ。早急に、救ってほしい、と思ってね」
弘毅の眼だけを見て話す依頼人。弘毅はその眼に何かを囚われた。依頼人は、そんな弘毅の様子を見て、少し笑ったような感じがした。
「そ、そうですか」
「それで、君はいつ行く予定だい?」
「……明日ですけど」
弘毅は、嫌な雰囲気に緊張し始めた。それを知ってか知らないか、淡々と話しを続ける依頼人。
「明日、か。よし一緒に行かないか?」
「はい?」
それは、弘毅の計画にひびが入った瞬間だった。
「きみだけじゃ、心配だしね。不思議なこともできたとしても」
「……そう、ですね」
ちなみに、弘毅は隠せていると思っているが、人里の一部の人には妖怪に類似した力を使える、と知られている。その中には気味悪がる人すら居る。もっとも、彼はそれに気づいていないが。
「でも、危険です。依頼人のあなたなら尚更――」
精一杯、冷静に。そして断る方法を考える弘毅。だが、依頼人は咳払いをして、弘毅を黙らせた。
「部下を二人、連れていく。片方は家内だ。信用できる。全員、武術に心得があるよ」
そう言うと後ろに居た二人の男性が軽く会釈してきた。
ずっと考えていたかのように、言葉を並べる依頼人。それを見て、諦め、弘毅は頷いた。この状況では何を言っても無駄、と思ったのだろう。
「……危険になったら、すぐに逃げてくださいね」
「ああ、頼むよ」
髭を撫でながら、偉そうに言う依頼人。そんな動作一つに弘毅は、いらついていた。
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約束等をした二人。午後1時頃に依頼人の家に集合となった。昼食を食べた後の集合だ。やること終えて満足したのか、連れの二人と一緒にそさくさと帰るようだ。
「では明日。君は、不思議な力を持ってるし安全だね。期待してるよ」
そう皮肉を残して、依頼人達は家に上がることなく去っていった。
「なんでこう、一筋縄に行かないかな……」
退治をしなければならなくなった。あの人では、説得の時をもし演技したとしても、見破られてしまうだろう。話を合わせてもらえればいいな、と思いながら、家に入った。
すると……弘毅の家の中に、文が立って居た。
「遅いですよ、弘毅さん」
「……は?」
弘毅の思考は混濁する。家に帰ったんだろ、なんでここに居るの、あれ鍵は、等の沢山のことを聞きたかったが、頭の思考が追い付かず、フリーズしてしまったらしい。玄関の前で停止する一人の男。
「ふぉっふぉっふぉ」
笑いだす鬼々を見て、文が、満面の笑みで言った。
「さあ、妖怪退治ですよ、妖怪退治!」