03
すいません。私事で時間がとれず、投稿できませんでした。
「早速、お手並み拝見だぜ! 魔符『スターダストレヴァリエ』」
戦の舞台は、縁側の近く。桜の木々があり、春ということで花が美しく咲いていた。まさに花見どころと思われる場所で、美しい戦い――スペルカード戦が始まった。
「っと、多いな……」
弾幕が弘毅の方に弾幕が向かってくるが、弘毅は体勢を崩しながらも避ける。
魔理沙はその様子を見ながら、笑っていた。
「魔理沙、楽しそうだな」
たまに、弘毅は弾に微かにあたっている。が、弘毅はそれでも避け続けている。その必死な彼の姿を見て、笑っているのだろう。
「ははっ! 弘毅と戦りあうなんて思ってもいなかったからな」
「そら……俺もだっ!」
油断している魔理沙に、弘毅が札を投げる。もっとも、札と言っても硬度の変化によってそこらの石ほどの固さはあるのだが。
「うおっと! 卑怯だぞ、弘毅!」
すんなりと避ける魔理沙。牽制とはいえ魔理沙は、少し怒ったのか、
「スペルカードルールでは、美しい者が勝つんだぜ!!」
「なら、これなら文句ないだろ! 道札『いろは坂』」
弘毅は鬼々の分身である札を自分の周りに展開させ、一斉に魔理沙の方へ打ち出した。
魔理沙は札をすんなりと札の軌道から離れる。だが、弘毅の攻撃は終わっていなかった。
「今だ……!」
次の瞬間。弘毅が放った札が、止まりもう一度魔理沙の方へ飛んで行った。今度は一斉でなく、単発ずつに。
これは、遠隔操作の力を利用したものだ。ただし、この能力は自動で追いかけることはできないため、鬼々が操っている。弘毅には、一斉に札を操ることは難しい。
数十秒間、魔理沙と札の追いかけっこが続いた。時折、弘毅自身も札で魔理沙を攻撃したが、どれも当たらない。
魔理沙も、追いかけてくる札をよけながら、牽制程度に攻撃をしていたが、状況は変化しなかった。
そんな状態を破ったのは、魔理沙だった。
魔理沙は帽子の中からミニ八卦炉を取りだし、それを弘毅の方に向けた。
「面倒事は、ぶっ壊すぜ 恋符『マスタースパーク』」
魔理沙の一言に、鬼々が異変を感じた。
「主……ちと警戒じゃ」
だが忠告は遅い。ミニ八卦炉から白い光が飛び出し、弘毅を覆う程の太さの白い光のレーザーが出た。唖然としている弘毅にはお構いなく、光はそのまま弘毅を飲み込んだ。
「……弘毅?」
数秒後、マスタースパークの衝撃か、木々が揺れて、桜の花が落ち、周囲に砂ぼこりが舞っていた。砂ぼこりのせいで、魔理沙は弘毅の姿を確認できない。
「あやや、魔理沙さん。あの威力で、魔力が少しあるだけの『人』に使うなんて、すごいですね」
「うっ……」
戦いを見ていた文が魔理沙に声をかける。
普段、魔理沙がスペルカードの戦いをするのが、妖怪等の人ではない存在のためか、力のセーブが出来なかったのだろう。人間であるが、巫女として、力を持っている霊夢は例外である。
「といっても、弘毅さんも強いですね~」
文が笑いながらそう言う。
「え、文、どういうことだ?」
「それは、見てからのお楽しみですよ」
砂ぼこりが落ち着いてきて、視界が晴れてきた。その先の弘毅が居たところには、大きな壁のようなものがあった。
「う……ん? 札?」
壁のようなソレは、札が何十枚、何百枚と重なり、壁と言える高さまでに固まっている代物だった。
「ふぉっふぉ。主よ、ワシが居なければ今頃眠っていたぞ」
弘毅は咄嗟に札を出しただけで、分身を出し、操作して壁を作ったのは鬼々だった。要するに、鬼々が主である弘毅を守ったのだ。
「……おまえがいなければ、こんな戦いはしなかったけどな」
それに守られたおかげか、弘毅は無傷で立っていた。その姿をみて魔理沙はまた笑った。
「ははっ。弘毅は只者じゃないとは思ってたが……けっこうやるな」
自分の十八番であるマスタースパークが防がれたのにもかかわらず、魔理沙は嬉しそうにしている。
「主よ、もういちどじゃ」
「わかってるよ。……行くぞ、魔理沙。――札剣『巨大な大剣』」
弘毅は、右手を前につき出した。その拳に握られているのは、鬼々。鬼々が分身である札をだし、その札が弘毅の周りに出現する。そして、札が移動し、弘毅の右手が札で覆いつくされる。札が固まり次第に形ができてきて、札は弘毅の右腕の肘から先を札で完璧に覆った。結果、先端から肘まで2メートル近い長さがある大剣となった。
「さっきから思っていたけど、あ、安直な名前だな」
魔理沙が技ではなくカードの名前の感想を口に出した。苦笑いをしながら。
「……」
下を向いて、恥ずかしそうに黙る弘毅。
「ちなみに、スペルカードの名をつけたのは主じゃよ」
「ぷっ」
堪えきれなかったのか、文が笑いだした。
「ふ、札剣『巨大な大剣』ですか。さっきのは、いろは坂でしたっけ。あれも、曲がるっていうところから名づけたと思いますし、こんな安直な名前のスペルカード……弘毅さん、意外とセンスないんですね」
「ああ、ないんだ! ……喰らえ、魔理沙!」
恥ずかしさも力に何割か入っていると思われる一振り。魔理沙との間にそこそこ長い距離があったため、その一振りがあたることはなかった。だが、
「……剣から札が飛んできているんですか?」
「そう……みたいだぜっ!」
一振りするたびに、数にして約十の札が魔理沙を目掛けて飛んでいるのだ。魔理沙はそれらを避ける。弘毅は、直接、剣で魔理沙に攻撃をしようとした。
「っと!」
魔理沙は持っていた箒でなんとか剣を受け流す。そして、そのまま、後ろに飛び退いた。
「ふう……。こりゃ不味いな。」
さて、どうするか、考えようとする魔理沙だったが、此処は戦場である。そんな暇はなかった。
「行くぞ、鬼々。ここからがこの技の本番だ!」
「わかっとる!」
弘毅は、右手を頭上に上げる。彼は、そのまま告げた。
「解放」
その言葉が発せられた後、弘毅の右腕の大きな大剣を造っていた札の一つ一つが、青白い光を纏った。
「……は?」
この先何が起こるかわかっていない魔理沙だったが、身に危険を感じたのだろう。八卦炉を手に、防御の体勢にでた。
青白く光っている札は、弘毅の右腕から文字通り解放され、弘毅の頭上に集まった。一つ一つ重ならずに剣ではなく札としての姿で。
「行け……!」
その瞬間。何十の札が弘毅の頭上から魔理沙に向かって、疾風の様に駆けた。先ほどの札の速さとは段違いの速さで。
「なっ! はや」
い、と言い終わる前に魔理沙は、何者かに頭を叩かれた。
「……へ? 霊夢?」
気付けば、弘毅の札は輝きを失い、地面に落ちていた。
「……な、なにをしたんだ? 巫女さん」
「それは、こっちの台詞よ。あ~あ、折角の春なのにこれじゃ花見が出来ないじゃない」
周りを見てみると、マスタースパークの衝撃と、流れ弾でか大分、桜の花が散ってしまい、地面が桜色に染まっていた。
それを怒っているのだ。
「……縁側からゆったり桜を見たかったのに…………全く」
「と、とりあえず弘毅。また今度決着を着けようぜ」
「ん? ああ、わかった」
魔理沙は慌てた様子で、箒にまたがり、空を飛んだ。
「あ、魔理沙!」
霊夢が怒りながら、魔理沙に叫ぶ。
「……パチェに本返しに行ってくるぜ!」
「なら、さっき私と行けば良かったじゃない!? 後回しでもいいんでしょ?」
「う……そう、研究に必要な本だって言ってたぜ。さっき」
「さっきって何時よ? って、逃げるなー!」
魔理沙は、紅魔館の方へ飛んでいき、姿を消した。
ひらひら、と一枚の紙が落ちる。
「紅魔館に依頼について聞きに行ってくる。パチェに本を返しに行くのも本当だぜ……か」
「……さて。よろず屋さん、手伝ってね」
「……ああ」
魔理沙はこれが嫌で逃げたのだろうか。
「当然、そこの文屋も」
「あやや。そうですか……」
こうして、三人で魔理沙の後始末をするのであった。
●
桜を集め始めて半刻程。桜で散らかっていた場所が、随分と綺麗になっていた。一段落ついたので、縁側に三人で座り、お茶を飲んでいた。
「うん、こうやって見ると、けっこう片付いたわねー。お疲れさま、二人とも」
「あやや……今、考えれば取材に来たはずなんですよね……」
「スペルカード戦でよろず屋さんの力を見てたんでしょ。なら、いいじゃない」
「そうなんですけど……まさか、こんなことするとは思いもよらず」
「当たり前じゃない。桜をこんなに散らせておいて……あ」
「? 霊夢ちゃん、どうした?」
巫女さんは嫌と言われ、呼び名をどうしようか考えた弘毅の結論は霊夢ちゃんだった。
「ちゃん……慣れないわね。よろず屋さんの様子を見にいくって紅魔館のメイドから言われたのよ。そろそろ来ると思うんだけど」
「依頼については、どのぐらい説明した?」
「全部よ、全部。変に隠すとかえってめんどくさいでしょ」
「あ、ああ。なにか怒ってたりは……」
「それもなかったわ。むしろ」
「むしろ、面白すぎて笑わさせていただきました」
……。場に流れる違和感。弘毅は、隣に座っている女性に気付いた。
「……あなたが、例のメイドさんか」
「あら、驚かそうと思ったのに。私は、十六夜咲夜。よろしく、弘毅さん」
今日一日で沢山の厄介事に関わったため、今更というのが、本人の考えだ。
「ああ、よろしく」
「……あの」
文が、悲しそうな声を上げた。
「?」
「私にも説明してください!掃除してた時はあとでって言われたので、機会を窺っていたのに、これじゃ、私がわからないまま話が進んでしまうじゃないですかっ!」
弘毅は、文にも事情を説明した。
その後、
「おバカですねえ。依頼人も」
笑いながら、依頼人に対して呆れていた。同時に、文々。新聞のネタにできると、メモに書いていた。
弘毅は、依頼人のおじさんに対し、心の中で謝った。