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「すっかり修行について忘れていたんだが」

「ぐっすり二度寝したり、弘毅さんと鬼々さんの昔話に浸ってましたからねえ」

「このままじゃ吸血鬼に勝てないまま、辛い毎日を送る羽目になる……!」


 弘毅の様子を見た魔理沙が呆れた様子になる。


「ん、弘毅は修行したら勝てると思ってんのか?」

「まあ、頑張れば……なんとか」

「無理だろ」

「無理ですね」

「うっ……じゃあ、どうすりゃいいんだよ!!」


 弘毅も内心そう思っていたので、正直にそれを指摘されて少し逆上してしまった。

 文は落ち着いた様子でフランとの交戦の時の解決策を出した。


「諦めが肝心ですよ」

「それは堪忍してくれ」

「……そんなことより杏仁豆腐を食いたいぜ」

「それなら安心の品質で美鈴さんが作ってくれるぞ」

「それ続けていると、二人とも炭塵になりますよ……?」


 文は、そう言ってぽかりと二人を叩くと、ため息をして少し真面目な様子に戻る。


「真面目な話しますと、吸血鬼に好かれたらどうしようもないですね」

「真面目な案で諦めろって言うのか……」

「まあ実際問題、吸血鬼と戦って無事に生きているのは奇跡だぜ」

「……あの時は、マジで咲夜さんのおかげだったからな」


 震えだす弘毅。それほどまでにトラウマな出来事だったということだ。


「あ、じゃあ弘毅が紅魔館へ行って、フランに弘毅は弱いからスペルカード戦はダメ、って事を覚えさせればいいんじゃないのか?」

「それは咲夜さんがやってくれているらしい。だけど、問題があってな。昨日、フランちゃんにこう言われたんだ」


『秋雨。また、鬼ごっこしようね?』 と。

 それに納得して、二人は笑みを浮かべた。苦笑いの意味で。


「やっぱり諦めろ、ってことだぜ」

「そうですね。今度行った時だけの辛抱ですよ」


 二人の言葉に、それじゃここに来た意味がない……と弘毅は思ったのだった。


「てか、霊夢ちゃん遅いな」

「たしかに遅いぜ。そういえば霊夢はともかく、なんでフランをちゃん付けで呼んでんだ?」

「うーん、雰囲気で決めてるな」

「……それは私に喧嘩売っています?」

「いや、文の場合は親しみやすいから文なんだが」

「親しみやすい、ですか……?」

「ああ。霊夢ちゃんに至っては、半分はふざけだ」

「ふざけなのかよ」

「……親しみやすい、ですか」


 ふざけ、という事で笑う魔理沙の隣で、なにか気にした様子の文であった。まあ、一カ月もストーカーされれば親しみの心も生まれるのだろう。








 一方、霊夢といえば。


「……疲れたわ」

「まさか、あんなに囲まれるとはの」


 さとりの住居――地霊殿からの帰り道。あれよあれよ怨霊やらに囲まれる始末に陥っていた。

 そして、霊夢の頑張りによりなんとか地上に帰ってきた。


「行きはすんなりだったのに……。そういえば、あんたに言いたいことがあったのよ」


 一段落しても安心することもなく、真剣な表情をする霊夢。


「なんじゃ?」

「あの、『解放』のことよ」

「……あの見習い魔法使いとの戦いの時のかの?」


 鬼々は、なにやら面倒臭そうな様子だった。霊夢は頷いて言葉を続ける。


「あんな強い力。どこから持ってきたの?」

「わしの魔力は、周りの大気等から少しづつエネルギーをもらっているのじゃよ」

「それは、転移とかあんたが宙を浮いたりとか分身とかのことでしょ? 私が聞いているのは、あの『解放』って奴のこと」


 霊夢は、――弘毅が『解放』について忠告した時以来の真剣な声。鬼々は何を思っているのだろう、焦った様子もない。


「……本当の事はわしも知らんぞ。ただいつしかあれを思いついただけじゃ」

「記憶喪失って便利ね」


 霊夢は全てを見透かしている様な眼差しで鬼々を見続ける。


「すまんの。ただ、あの技について本当に何も知らないのじゃ」


 その言葉に霊夢は、怒りの余り足で地面をドンッと踏んで、鬼々を睨む。


「さっきから誤魔化さないで。あの力の元が、弘毅さん本人から供給されているのも知らないわけ、ないわよね?」

「……巫女さんは怖いの」

「幻想郷の平和は第一なのよ」


 そう言って、空に目を向ける霊夢。これ以上言及する気はないようだ。


「さて、弘毅さんは一人でしっかり休んで貰えていると嬉しいわねえ」

「……それで、修行はしてくれるのかの?」

「さとり妖怪の所為で疲れているし、修行程度でただの人間が吸血鬼に勝てることなんてないわ」

「つまり、断るということじゃろうか」

「断るわ。なにより面倒だし」

「本心からの言葉だのう」


 こうして、霊夢と鬼々は帰路に乗ったのであった。





 幻想郷の人里と妖怪の山の丁度真ん中にある、小さな滝のある流れの緩やかな川。文から逃げたチルノと大妖精はそこへ迷い込んでいた。


「それで、チルノちゃん。ここはどこだろう?」

「そ、そんなの、大ちゃんが決めて!」

「!? 場所って決めることだっけ!?」


 ここに来るにあたって、大妖精は付いてきただけである。大妖精はなにも悪くない。


「あ、でも綺麗な滝……。チルノちゃん、水浴びしていこう?」


 木漏れ日で美しく染まった水の姿を見て、大妖精はチルノを誘った。

 彼女は滝を見てチャンスと思った。この頃大妖精は、弘毅を探したりして忙しかったので、疲れを癒したかったのだ。


「うん! ……じゃなくて、あのよろず屋を探すのよ!!」


 チルノも、一瞬その景色に飲まれたが、自分の目的を思い出したようだ。

 そのチルノを見ながら、大妖精は残念そうな顔になった。


「…………あ、あたい、水浴びしたいな」


 大妖精の願いがチルノに伝わったのか、チルノがそう言うと、笑顔になる大妖精。

 チルノもその笑顔を見てにんまり笑う。


「――気持ちいいー!」


 今の季節は春だ。だが、とても寒そうに見えない大妖精とチルノ。それは、妖精だからか、子供だからなのか――とにかく、楽しそうに水遊びをする二人の少女。

 二メートル程の滝があり、滝の下は緩やかな川だ。小さな滝の音しか聞こえず、とてものどかな場所だった。


「湖と違って、こういうのもいいわね!……あ、よいしょ!!」


 チルノが掛け声を出すと共に、水の波紋作りながら優雅に泳いでいた蛙を凍らせた。そのままその氷塊を持って、大妖精に自慢する様に見せる。


「あ、また! 可哀そうだよ……」

「……あ、こっちにも沢山いる!」

「ほんとだ。蛙さん、いっぱい……」


チルノの視線の先には蛙が十数匹。げこげこと蛙特有の鳴き声を発しながら、飛び跳ねている。


「これなら一匹ぐらい凍らせてもいいわね!」

「ダメだよ! 折角だし、滝に打たれて遊ぼう?」


 チルノの手を引っ張り、滝の近くに移動する大妖精。チルノは、持っていた蛙が入った氷塊をするりと落とす。そして、そのまま川に流されていった。


「あ……」

「あれ、どっかいっちゃったの?」

「だ、大ちゃんも|悪『・』ね!!」


 チルノといえば、大妖精に罪をなすりつけたがっていた。その様子に呆れながらも、目の前の滝で遊び始めた大妖精。


「水しぶきだっ!」


 水が目にかからないように目を顔ごと手で隠して楽しそうな姿を見ると、チルノはすっかり蛙の事と弘毅の事を忘れてしまったようだ。


「チルノちゃん!」

「な、なに?」


 突然呼ばれて、びっくりしながら大妖精の方を向くチルノ。その瞬間


「えい!!」


 チルノの顔を目掛けて水を掛ける大妖精。――普段の仕返しのつもりの軽い冗談だったのだが


「!」


 水がチルノの顔の前に迫った時、何を焦ったのか。チルノは、目の前の水を凍らせてしまった。


「きゃあ!!」


 氷が勢いを持ったまま、チルノの顔面に当たり、体勢が崩れる。


「チ、チルノちゃん!?」


 そのまま、つるっと滑ってそれなりの深さの水の中に倒れた。バタバタともがくチルノ。

 急いでチルノを救出しようと動く大妖精。

 

「うっ……ぷはっ!」


 大妖精はなんとか、チルノを陸に運ぶ事ができた。自業自得なのだが、水をいきなり掛けた事は事実だ。大妖精は申し訳ない気持ちだった。


「ありがと、大ちゃん!」

「大丈夫……? …………良かった」


 チルノの力強い頷きを見て、安心する大妖精。妖精は自然の具現化の様な者なので、死ぬようなことはないのだが。


「……あれ? あたい、さっきまでなにしようとしてたんだっけ?」


 そんなチルノの姿を見て、これで今日はこれからゆっくりとのんびり過ごせる……と、不謹慎ながら思う大妖精であった。


 夏休みです。更新はやくなるといいですね。

 会話文、こっちのが見やすい気がしたのでやってみたのですが、どっちがいいんでしょうかねえ……。


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