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第9話 和彦vs玲子

和彦達3人は、「何はともあれ、死体を確認しよう」ということで、第二応接室へ再度行くことにした。祭路も同行したがったが、それは先ほどと同じ理由で武上が断った。


「あんま気が進まなさそうだな。死体を見るのが怖いとか?」


どことなく足取りの重い武上に、和彦がからかうようにそう言う。


「そんな訳ないだろ。警察には管轄ってもんがあるんだ。事件か事故かも分からないのに、捜査一課の、しかも非番の刑事がいきなり動いたら、ここの警察が嫌がる。ましてやそれで重要な手がかりでも消そうものなら、大目玉だ」

「お前はそうだろうな。でも俺と寿々菜は純粋に真相を明らかにしようとしている素人だから、問題なし。な、寿々菜」

「は、はい!」


和彦に促されて寿々菜が頷く。



全く・・・。



武上は溜め息をつきながら、「第二」応接室という割りには立派な扉をノックした。


「何やってんだ?」


和彦が怪訝な表情になる。


「え?何、って何だ?」

「中にはあるのは死体だけだろ。なんでノックする必要がある?」

「あ、そうだな、思わず・・・。こんな立派な扉見たら、ノックしなきゃいけないような気になる」

「相変わらず貧乏性だな」


武上は少し照れたよう肩をすぼめた。まあ、その気持ちは分からなくはない。


中に入ると、なんと死体が消えて・・・なんて漫画のようなことはもちろんなく、秀雄の死体は先ほどと変わらず絨毯の上に横たわっていた。

和彦が秀雄の脇にしゃがみこむ。生前の秀雄を知ってるのでさすがにいい気分はしない。



・・・ん?



和彦は秀雄の死に顔をじっと見た。


「おい。触るなよ」

「分かってる」

「どけ。鍵は俺が探す」


武上は和彦を立たせると、今度は自分が秀雄の横に膝をつき、ビニール製の新しい手袋をつけた。これがないから秀雄の死体を検分するのはやめよう、と武上は和彦に言ったのだが、なんと駿太郎が「生肉を調理する時に使う手袋ならある」と出してきたのだ。


注意深く秀雄の腕を持ち上げ、ポケットの中を探る。


「ん?これかな」


最初に調べたジャケットのポケットの中で、指に金属製の物が当たる感触がした。そっと出してみると、海賊の宝箱についているような古風な鍵である。


「おお、いきなりビンゴじゃん」

「待て。ここの鍵とは限らないだろ」


武上は一旦廊下に出て、鍵穴に鍵を差し込んだ。すっと入っていく。そして右に回すと、カチリと重みのある音がした。


「ここの鍵みたいだな」


鍵を反対に回して扉を開くと、部屋の中から和彦がそう言った。


「ということは、秀雄さんは自分の鍵を使って中に入り、中から鍵をかけて自殺した、ってことだろう」

「誰かが上山の鍵を盗んで、ここで秀雄を殺した後、外から鍵を閉めたかもしれない」

「じゃあなんで秀雄さんはここの鍵を持ってきたんだ?」

「普段から持ち歩いてるんじゃねーの?」

「家中の鍵の束がポケットから出てきたなら、そういう可能性もあるな。でもポケットに入ってたのは、ここの鍵一本だけだ。ここの鍵だけ普段から持ち歩いてるなんて変だろ」

「犯人に持ってくるよう言われたんだ」

「それこそ訳が分からない」


武上は息をついて部屋の中に戻ると、ローテーブルに鍵を置いた。


「触るなよ。後でビニール袋に入れておく」

「分かってるって」

「なんでそんなに殺人事件にしたいんだ?普通に考えれば自殺だろ」

「そんなはずありません!」


突然寿々菜が口を挟んだ。


「寿々菜さん?」

「だって、今日は秀雄さんのためのパーティなんですよ?それにあんな素敵な婚約者を残して自殺するなんて考えられません!」

「寿々菜さん・・・」

「俺も寿々菜に一票」


と、和彦。


「アレが素敵な婚約者かどうかは置いといて、このタイミングで自殺する理由が分からない。パーティの後にやっぱり静香に猛反対されて自殺やら心中やらするならともかく、なんで今死ぬ必要がある?」

「・・・」

「遺書もなさそうだしな。秀雄の性格からして死ぬなら遺書の一通も書くだろ」

「それは探してみないと・・・あ」


武上が言葉を切る。


「どうした?」

「忘れてた。婚約者---玲子さんに秀雄さんのことを言ってない」

「あ」

「あ」


寿々菜と和彦も絶句する。


「・・・寿々菜。あの女はまだ寝てるっつってたな?」

「はい」

「・・・」

「・・・」

「・・・」


3人は秀雄の死体を中心にしばし立ち尽くしたのだった・・・。




「嘘よ!」


倉庫で昼寝しているところを和彦に叩き起こされ祭路達がいる最初の客間に招かれた玲子の第一声は、案の定この言葉だった。


「秀雄さんが死ぬ訳ないわ!」

「落ち着いてください、玲子さん」


武上が、誰にともなく噛み付きそうな玲子をなだめる。


「残念ですが本当です」

「信じないわ!秀雄さんはどこ!?」

「それは・・・」


武上は口篭った。言えば玲子は飛んで行き、秀雄の身体を揺さぶったりしかねない。和彦もそう思ったのか、珍しく武上に加勢する。


「本当だって。秀雄は死んだ。でもあんたに居場所を教えたら、証拠やらなにやら全部吹き飛ばしちまいそうだから、言わない」

「なんですって!?」

「ほら、そんな猪みたいな勢いの奴に教えられるか」

「失礼ね!あんただって、人のこと言えないでしょう!」

「はあ?」


磁石のN極同士とでも言おうか、どうもこの2人は反発しあう。武上も玲子の気持ちが嫌と言うほど分かるが、今回は和彦の言ってることが分からないでもない。


一方で寿々菜は別の人物のことでハラハラしていた。静香だ。玲子が客間に現れた時、寿々菜達以外の全員が驚いたが、なんとなく事情を察したのか誰も玲子がここにいる理由を訊ねなかった。それは静香も同じで、別に玲子に対して怒るでもなく、黙って玲子と和彦のバトルを見ている。



玲子さんに「出て行きなさい!」とか言うかと思ったけど・・・。いつも通りに見えるけど、やっぱり息子の秀雄さんが死んだ事にショックを受けてるのかな。



またその一方で玲子vs和彦を呆気に取られて見ているのが祭路だ。そう言えば祭路はKAZUモードの和彦しか知らない。そして玲子の本性も知らなかったらしい。


「お、落ち着きなさい、君達」

「うるさい!」

「黙ってて!」

「・・・はい・・・」


といった始末である。

とにかく、武上はこの場を収拾することにした。


「秀雄さんが亡くなったのは事実です」

「・・・」

「状況から考えると自殺だと思われますが、秀雄さんの所へ勝手に行かれるのか困ります。玲子さん」

「・・・何?」

「秀雄さんは1階の奥の第二応接室です。でも、警察が来るまでは辛抱してください」

「何よ、偉そうに」


玲子が鼻を鳴らす。相当頭にきているらしい。

同じく若干頭に血がのぼり気味の和彦が言う。


「こいつはこう見えても刑事だ」

「刑事?だったらこの人が一緒に秀雄さんのところに来てくれればいいでしょ」

「だから、てめーは刑事が一緒でもお構い無しに現場荒らすだろ」

「それじゃあ、結局私は警察が来ても秀雄さんのところに行けないじゃない!」

「そうだな。葬式まで大人しくしてろ」

「何ですって!?」

「それくらいにしておきなさい」


不意に客間の一角から冷静な声がした。ソファに座ったまま膝の上に置いた自分の手をじっと見つめている静香の声だ。

その冷ややかさに、一瞬にして客間内がシンっとする。


「みんな、静かにしなさい。秀雄が・・・死んだのよ」



静香さん・・・



寿々菜は何故かその冷たい声の中に、母の悲しみを感じた。





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