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第3部 魅惑の美女

「ぅきゃあ!」


・・・猿ではない。寿々菜の声である。


天蓋付きのベッド、バラの模様のカウチソファ、猫足のバスタブ。

秀雄によって割り当てられた3階の寿々菜の部屋は、女子なら誰しも「一度はこんな部屋に住んでみたい!」と憧れるようなお姫様ルームだった。そして寿々菜は今、バスルームの中・・・の、猫足のバスタブに飛び込んだところだ。



夢見たい!!!



昼食の前に軽く汗を洗おうということで各人部屋に入ったのだが、寿々菜はとてもじゃなが「軽く」で済みなさそうである。湯が見えないくらい泡でいっぱいのバスタブで思い切り手足を伸ばし、窓から山を眺めてみる。



映画の中みたい・・・こんな世界が本当にあるんだ。



しかし、残念ながら映画とは違って長く風呂に入っていればのぼせてくる。寿々菜はしばらくバスタブの中で湯と感傷に浸っていたが、やがてフラフラしながらバスタブからあがった。



きっと和彦さんみたいな一流芸能人だったら、映画みたいにお風呂でのぼせたりなんかしないんだわ。

私はまだまだ修行がたりないなあ。



などと訳の分からないことを考えながら、窓を開ける。窓といっても一般的な風呂にあるような小窓ではなく、部屋にあるのと同じ立派な窓だ。

寿々菜は「外から見えないかな」と心配し、腕で胸を隠しながら窓の外を覗いた。

しかしそんな心配は無用だったようだ。風呂の窓は屋敷の裏側に面しており、窓から見えるのは山の木々だけ。唯一寿々菜をヒヤリとさせたのは窓の真下にある小さな倉庫---物置だろうから、小さくはないか---だが、それも随分と古びたもので人が出入りしている気配はない。

寿々菜はホッとして、再び山々の鑑賞に戻った。真昼間からの風呂というだけでも贅沢なのに、この部屋、このバスタブ、この景色!



きっとご飯も・・・



寿々菜は急に空腹を覚え、バスルームを出る事にした。と、その時。



あれ、何の音だろう。



耳を澄ませてみると、遠くからかすかに「ブルブルブル・・・」という音が聞こえる。お察しの通り寿々菜の成績はそんなにレベルのよろしくない高校の中でもそんなによろしくないレベルである。が、目と鼻と耳は利く。実はもう1つ「利く」ものがあるのだが、それは今はおいておいて、とにかくこの音は空耳などではない。

やがてその音は形となって現れた。原付バイクだ。原付バイクが一台、山道を登ってくる。しかしどうもおかしい。先ほども書いたが、バスルームの窓は屋敷の裏側に面している、つまり、今寿々菜が見ているのは山の裏手にあたり、寿々菜達が歩いてきたようなきちんとした道はない。つまり・・・オフロード用でもない普通の原付バイクが道なき道(しかも山の中)を果敢にも走っているのだ。


さすがに寿々菜も目を丸くした。一体誰が乗っているのか。


しかし原付バイクが寿々菜のいる3階のバスルームの真下に止まった時、寿々菜は更に驚いた。外されたヘルメットから流れ落ちたのは綺麗な長い茶髪だったのだ。

若い女性だ。

黒いタイトなライダーススーツを身に纏った美女である!(しつこいが、乗っているのは原付バイクだ)

それを見た寿々菜は・・・



チャーリー・ブラウン!

じゃなかった、チャーリーズエンジェル!



と、バスタオルを身体に巻きつけ、バスルームを飛び出した。




「で、どこにジュリア・ロバーツがいるんだよ」


寿々菜の怒涛のノックで部屋から引きずり出された和彦は、寿々菜の部屋の真下を探索しながらぼやいた。


「ジュリア・ロバーツじゃありません。チャーリーズエンジェルです。スヌーピーは残念ながらいませんでした」

「は?」

「ここに間違いなくキャッツアイがいたんですけど・・・」


もう何がなんだか訳が分からない。だがやはり武上は違う!


「つまり、美女泥棒がいた、と」

「そう!そうなんです!」


寿々菜が激しく頷く。が、


「誰もいないじゃねーか」


と、和彦が辺りを見回した。確かに今屋敷の裏には人っ子一人いない。もちろん原付バイクもない。


「さっきはいたんです。おかしいなあ」

「それにどうして泥棒だと分かる?」

「あれは間違いなく泥棒です。ライダーススーツの美女は泥棒に決まってるんです!」

「・・・あっそう」


和彦は敢えて否定しないことにした。目の前にあった倉庫の扉に手をかけたのは、別に寿々菜の言うことを信じて美女泥棒を探そうと思った訳ではなく、単に手持ち無沙汰だったからだ。だからその倉庫の中に下着姿の美女を見つけても、余り深く考えることなく「あ、悪い」と言って扉を閉めただけだった。


「さ、戻ろうぜ。そろそろ昼食だろ。腹減った」

「・・・おい和彦、ちょっと待て。今何か中にいなかったか・・・?」

「へ?」


和彦は閉じた扉を見た。確かに「何か」いた気がする。和彦はもう一度扉を開いた。


「きゃあ!」


美女が、脱いだライダーススーツで胸を覆い隠した。

そうそう、女たるものこういう「きゃあ!」でなくては。ねえ、寿々菜君?


美女が勝気な瞳で和彦を睨む。


「ちょっと何見てるのよ!出て行きなさい!」


しかし裸の美女ごときで怯む和彦ではない。ちなみに武上は既に真っ赤な顔で怯みまくり、倉庫の外から耳だけで中の様子を窺っている。

和彦は腕を組んで扉にもたれかかった。


「いい光景だな。こんなとこで何やってる?」

「うるさいわね!さっさと出て行きなさい!レディの着替えを覗くなんて、失礼よ!」

「レディが裏小屋の中でこそこそ着替えたりするかよ。しかもライダーススーツって。てめー、誰だ?」


美女がぐっと詰まる。やはり祭路家に正式に許可を取ってここで着替えているのではないらしい。

寿々菜は和彦の背中に隠れたまま倉庫の中の様子を見た。美女の横に原付バイクが止まっている。さっき上の窓から見た原付バイクだ。



やっぱり!この人がさっきのチャーリーズエンジェルだ!



綺麗な髪、露になっているくびれたウエスト、美しい顔立ち。いかにもそれっぽい。寿々菜はその美しさに一瞬みとれた。しかし。


「あれ?あなた、もしかしてKAZU?」

「ああ」

「へえー。テレビじゃもっと好青年って感じだけど、本物はちょっと違うのね」


ちょっとどころの騒ぎではないが・・・。

とにかく美女は、ライダーススーツを原付バイクに掛けると、紫のブラジャーとお揃いのショーツといういでたちで和彦に近づいてきた。興味津々、といった様子だ。


「うわあ、本物?すごい、触っていい?」

「どうぞ。減るもんじゃなし」

「じゃあお言葉に甘えて」


美女が和彦の顔に向かって手を伸ばした・・・ところに、寿々菜が両手を広げて飛び込んだ!


「ダメ!!!ダメです!!!」

「何、あなた?」

「和彦さんの後輩ですっ!」

「後輩?じゃあ、あなたも芸能人なの?見たこと無いけど」


こんなことでめげる寿々菜ではない!


「そんな姿で和彦さんに近づかないでください!ライオンの檻に肉を放り込むようなものです!」

「・・・寿々菜・・・お前な・・・」


和彦が後ろから寿々菜の頭のてっぺんを苦々しい表情で見下ろす。寿々菜も和彦のことをだいぶ分かってきたようだ。


「とにかく!あなた誰なんですか!?和彦さんを誘惑しにきたんですか!?」

「違うわ。あなた達と一緒だと思うけど」

「一緒?」

「ええ。私もパーティの招待客よ」


美女は腰に手を当て、もう片方の手で絹のような髪を掻きあげた。


「私、秀雄さんの婚約者なの」





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