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第14話 恋人

「うーん、まずはどっからいこうかなー」


和彦が一人ひとりの顔をゆっくりと見ていく。一様に緊張の面持ちだが、和彦の視線が止まったのは、その中でも一際緊張してる顔だ。


「祭路さん」

「な、なんだね」


祭路の声が上ずる。


「あんたは俺らに、本当に自殺か、と聞いた。つまりあんたは、今回のことはあの手紙に書かれていた『復讐』のせいかもしれないと思ったって訳だ」

「そうだ。・・・違うのか?」

「違う」


バッサリと言い捨てる和彦に祭路は、どうして分かるんだという感じで、窺うように和彦を見た。


「あんたは手紙の主に心当たりはないと言った」

「ああ」

「本当か?」

「本当だ」

「じゃあ、手紙の内容に心当たりは?」

「・・・」


祭路が急に口を噤む。やはりあの手紙に心当たりがあるらしい。


「手紙ってなんのことなんですか、おじ様」


玲子が祭路に尋ねる。


「その手紙と秀雄さんのことは、何か関係があるんですか?」

「そうかもしれないと思っていた。だが、彼の話では・・・」

「関係ねーっつってるだろ」


玲子の瞳が怒りでキラリと光り、和彦を睨む。


「どうしてあなたはそんなに偉そうなの!」

「どいつもこいつもうっせーなあ」

「なんですって!なんなのよ、その手紙って!」

「あー、もう、ほんとうっせー。25年以上も前に祭路さん宛てに届いた手紙だよ。復讐するってさ」

「25年前?復讐?」


部屋の中に動揺が走る。そして全員の視線が祭路に集まった。

中でも静香の視線は険しい。

祭路が、どうしたものかと困っていると、武上が仕方なしに助け舟を出した。


「これですよ」


今度は武上に視線が集まる中、武上はポケットか手紙を取り出した。

それをいち早く奪い取ったのは玲子だ。


「私は貴方を許さない。愛する彼女に代わって私が貴方に復讐する・・・?おじ様、なんですか、これ」


尋問するように玲子が祭路に詰め寄る。


「25年前も手紙だよ」

「でもおじ様はこのせいで今回のことが起きてしまったと思ったんですよね?昔、何があったんですか?」

「何もない」

「おじ様!」

「あなた」


急に静香が冷たい声を発した。和彦風に言えば、キャンキャン言っていた玲子が急に大人しくなる。


「私も聞きたいわ。ちゃんと説明をして」

「それは・・・」

「秀雄は気づいてたみたいだぞ」


和彦の言葉に祭路が驚いて顔を上げる。


「なんだって?」

「だから。秀雄は気づいてたみたいだって言ったんだよ。な、武上?」


突然話が自分の方に飛んできたが、こんなことも和彦といれば日常茶飯事だ。武上は驚かない。が、狐につままれたような顔をしているのは寿々菜だ。


「え、武上さん、何か知ってるんですか」

「寿々菜さん・・・えっと、実は・・・」


武上が「なんで俺に振る!」という目で和彦を睨んだが、和彦は口笛でも吹き出しそうな様子で知らんぷりを決め込んでいる。

武上はまた仕方なくため息をついた。


「実は秀雄さんが僕の部屋にきたんです」

「なんですって?」


今度は静香が驚く。


「本当なの?」

「はい。昼食の後、秀雄さんは僕の部屋に『相談がある』と言ってやってきました」

「相談?」

「はい。どうやら秀雄さんは、そのために今夜のパティに僕を招いたようです」

「で、どーゆー相談だったんだよ」


と、和彦が「さっさと言え」とばかりに武上をせかす。


「命を狙われているかもしれない、と言うんだ」

「えっ・・・」

「命?」


誰とも無くそう呟く声が聞こえた。

武上が、祭路の手紙が入っていたのとは反対側のポケットから二つ折りの紙を取り出す。さっきの手紙とは違って真新しい紙だ。


「1ヶ月ほど前、秀雄さん宛てに手紙が届き、中にこの紙が入っていました」


広げてみんなに見せる。そこには印刷された文字でたった一行、こう書かれてあった。


「『貴方に恨みはないが、死んでもらう』か」


和彦が繁々とその手紙を眺める。


「手書きじゃねーから分かんねーけど、さっきの手紙と似た文体だな」

「俺もそう思う。祭路さんの予想通り、今回のことと25年前のことは繋がっているんだ」

「いや、違う。さっきも言っただろ。関係なくはないが、秀雄の死の直接の原因じゃない」

「どうしてそんなことが分かる」

「お前だって分かってるだろ?」

「・・・」


和彦にそう言われて武上は黙った。だが和彦も今はそれ以上つっこまず、話を戻す。


「この手紙を秀雄に見せられてたから、お前は祭路さんが『秀雄は他殺じゃないか』と言った時、祭路さんが外で読んでた手紙と秀雄の死が関係あるのかもしれないと思って急に手紙のことを持ち出したんだな?」

「ああ。2人とも手紙を持ってたからな。でもまさか祭路さんの方の手紙が25年以上も前ものだとは思わなかったから、驚いた」

「秀雄の方は?秀雄はこの手紙の差出人に心当たりがありそうだったか?」


和彦も、他の人間も当然「いや」という答えが返ってくるものだと思っていた。ところが。


「ああ」


武上が頷く。


「え?」

「秀雄さんは差出人が誰か、心当たりがあったみたいだ。でも、教えてくれなかった」

「なんだそりゃ。命が狙われてるかもって相談しに来たくせに、怪しい奴を教えなかったのか?」

「そうだ。その理由は多分、」

「ちょっと待つんじゃ!!!」


2人の会話にこの口調で割って入ったのは、もちろんモンさんである。


「イワシ!お前たちさっきから『秀雄が死んだ』とか言っとるが、そりゃあ本当か!?」

「ここに来る間にそう言っただろ、このボケジジイ」

「言っとらん!お前は『ジジイの御主人様が死んだ』と言った!御主人様は生きてらっしゃるじゃろが!死んだのは秀雄坊ちゃんだったのか・・・!」


モンさんは俄然とした様子で膝をついた。


「ああ・・・あのかわいかった坊ちゃんが死んでしまわれたのか・・・」

「待ってください」


武上が慌ててモンさんの横に屈む。


「今、御主人様は生きてらっしゃるって言いましたか?」

「そうじゃ!そこにいらっしゃるじゃろ!」


そう言ってモンさんが指を差した方向にいたのは・・・祭路である。


「え・・・御主人様って祭路さんのことですか?秀雄さんじゃなくて」

「当たり前じゃ!」

「今の祭路家の当主は秀雄さんですよ?」

「そんなこと・・・」


モンさんが口を尖らせて遠い目をする。


「んー、そう言われればそうじゃったな。でもワシにとって御主人様と言えば御主人様じゃ。秀雄様は坊ちゃんじゃ」

「そのジジイは秀雄が生まれるずっと前からここで働いてきた。まだ祭路さんを御主人様って呼んでるんだよ。な、ボケジジイ?」

「ボケとらん!」

「ちょ、ちょっと待て。つまり・・・」


武上は立ち上がると、必死に頭の中を回転させた。何かとんでもない勘違いをしていた気がする。

すると、急に寿々菜が声を上げた。


「あ!」

「どうした、寿々菜」

「モンさん、御主人様の恋人が『花子さん』だって言ってませんでしたっけ?」


和彦がニヤリと笑う。


「そうだ。よく思い出したな。偉いぞ、寿々菜」

「えへへ」

「おい、和彦。じゃあ、花子さんの恋人だったのは秀雄さんじゃなくて・・・」


武上はぐるりと首を回して、和彦の正面にいる人物を見た。







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