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第12話 分からないことだらけ

「よし、ちょっと整理だ」


和彦は地面に座り込んだ。寿々菜も膝を曲げて丸くなる。

遠くの方でモンさんがのん気にも剪定をしているのが見えた。


「今朝、俺達がここに着いたのが11時頃。あのジジイに山賊だイワシだって言われてうっとうしかったから、無理矢理屋敷に入った」

「はい」

「で、中から上山って使用人が出てきた。おい、寿々菜。上山の下の名前って知ってるか?」

「いいえ、知りません。どうしてですか?」

「もしかしたら花子って名前かなって思って」


寿々菜が首を傾げる。


「花子さんって秀雄さんの前の恋人ですよね?でも花子さんは自殺したってモンさんが、」

「あのジジイの言うことなんてアテになんねーよ。でも秀雄と玲子の話から、秀雄が以前身分違いの恋をしてたのは確かみたいだから、もしかして相手は上山かなって思ったんだ」

「確かに、秀雄さんが亡くなった時、上山さん、随分呆然としてましたね」

「秀雄の死体を最初に見つけたんだし、自分の雇い主が死んだことにショックを受けて呆然としててもおかしくないけどな。なんか引っかかる」


和彦は地面に落ちている枝の切れ端で土の上に「上山」と書いて「秀雄の死に動揺?」と付け加えた。


「話が前後したな。ここに着いた俺達は客間で---秀雄が死んだとこじゃなくて、最初の客間な。そこで秀雄と会って話をした。秀雄は何か企んでそうだったけど、それはパーティでの婚約発表のことだった訳だ」

「はい」

「その後俺達は別々の部屋で休憩する。その時寿々菜が急に『チャーリーズエンジェルだ、ジュリア・ロバーツだ』って騒ぎ出した」

「えへへ」

「えへへ、じゃねーよ。あの女のどこがジュリア・ロバーツだ。まあ、とにかく俺達は玲子を裏庭の倉庫で見つけて、秀雄から紹介される」

「その時、花子さんのことも聞きましたね」

「そうだったな」


和彦は地面に「花子」「秀雄」「玲子」と書き、それぞれを線で繋げて「花子」と「秀雄」の間の線にバツを打った。


「半年前、花子と玲子の間にはなんかあったのかな」

「あ」

「秀雄と玲子の話だと、秀雄が一方的に振ったみたいだけど、実は裏で女の争いがあったのかもな」


「花子」と「玲子」の間の線に「?」を書く。


「何かあったとしたら、花子の自殺も単なる自殺じゃないかもしれない」


「花子」の横に「自殺?」と付け加える。しかしここで寿々菜が反論した。


「玲子さんが花子さんに何かしたってことですか?そんな!ありえません!」

「なんで?」

「あんないい人が、変なことするはずありません!私にクッキーとアップルティーを振舞ってくれたんですよ!」

「・・・それがどーした。それに、こんなとこにライダーススーツ着て原付乗って来る時点で、充分変なことしてる」

「チャーリーズエンジェルですから!」

「・・・」


和彦はわざと「玲子」の上に「変な女」と書いた。


「ああ!ひどいです、和彦さん!」

「うるさい。その後、昼寝するっていう『変な女』を残して」

「和彦さん!」

「残して、俺達と秀雄は昼飯を食った。1時くらいだ。そん時に祭路と静香に会ったな。静香も玲子に負けず劣らず変な女だぜ」


ここは寿々菜も否定しがたい。が、ふと玲子の言っていた言葉を思い出した。


「でも!静香さんは随分熱心に秀雄さんを育てたらしいですよ!秀雄さんも静香さんに感謝してます!」

「本当かよ」

「玲子さんが言ってました!」

「アテになんねーなあ」


地面に「祭路」「静香」の文字が追加される。


「そういや、昼飯の時、秀雄がなんか変に動揺してたな」

「フォークを落としてました」

「婚約発表を秘密にしてるから緊張してたかな」


「秀雄」の下に「昼食時に動揺」が加わる。


「その後、俺達はまた部屋に戻った。俺達はこれ以降、秀雄に会っていない。つまり2時から4時くらいの間で秀雄は死んだ」

「はい」

「その間、みんな何してたんだ?」

「私は・・・えっと、部屋に戻ってすぐに玲子さんのところに行きました。それで倉庫でお茶会をして、」



あんだけ昼飯とチョコレート食った後にまた菓子食ってたのか。



と、呆れる和彦。


「その後モンさんと話して、リンゴを貰いました。それから家に入ったところで和彦さんと武上さんに会ったんです」

「リンゴ?」

「はい。秀雄さんがリンゴ好きらしいです」

「そーいや、駿太郎もそんなこと言ってたな」

「駿太郎・・・?ああ、あの若い男の人ですね?」

「コックだってさ」


へえ、と寿々菜が驚く。あの立派な昼食を彼が作ったのか。


「俺は昼飯の後、寝てた。で、起きて暇だったから屋敷の中をうろついてたら厨房で駿太郎と会ったんだ。パーティの飯を作ってた」

「すごーい。私、お米も研げないのに」

「・・・。そうそう、あのガキ、逢引の手紙を持ってたな」


「駿太郎」「逢引」という文字を追加する。


「それから武上が来て、静香が来て、駿太郎が静香に命令されて厨房を出て行ったから俺と武上も厨房を出た。んで、寿々菜と合流した」

「その後、上山さんの悲鳴がしたんでしたっけ?」

「違う。外を祭路が歩いてるのを見つけたんだ」


和彦は屋敷の裏手の方を指差した。


「向こうの切り株で祭路は手紙を読んでた」

「そうでしたね。それがあの、」

「25年以上前の『私は貴方を許さない。愛する彼女に代わって私が貴方に復讐する』」ってやつだ」


「祭路」の下に「手紙」と書く。


「上山の悲鳴がしたのはこの時だ。奥の部屋で秀雄が死んでた。部屋の2つの鍵は、1つは上山が持っていて、もう1つは秀雄のポケットに入ってた」


和彦は、「上山」の横に「鍵1」、「秀雄」の横に「鍵2」と加えると胡坐を組みなおした。


「うーん」

「何か分かりましたか?」

「分からん」

「あらら」


寿々菜が困っているようであまり困っていないような声を出す。


「寿々菜が違和感を感じたのは、昼飯の時の秀雄と、手紙の『愛する彼女』って言葉に反応してた祭路、それとなんか変な武上。それだけか」


と、「昼食時に動揺」「手紙」に丸を付けながら聞く。


「はい。でも武上さんは、」

「分かってる。でもあいつもなんか隠してる」


「武上」と書き、「?」を付ける。


「こんなとこか」

「はい。・・・あれ。何かもう1つ違和感を感じたような・・・」

「え?」


寿々菜は「むー」と唸り、記憶を辿った。


「むうー」

「思い出したか?」

「---、ぷはあ。無理です」

「あのな・・・。まあいい、思い出したら言え」

「はい」

「でもこうやって見ると、なんかみんな怪しいし、アリバイはねーな」


和彦が立ち上がって尻をはたくと、寿々菜もそれに倣った。


「怪しい、って、和彦さんは秀雄さんが殺されたと思ってるんですか?」

「わかんねー。でもただの自殺じゃねー気がする」

「そうですね・・・」

「玲子は寿々菜と菓子食った後1人だし、駿太郎も1人の時間がたくさんある。上山はなんと言っても第一発見者だし部屋の鍵を持ってる。祭路だって外で俺達が見つけるまでは1人だし、静香も厨房で見た時以外は何やってたかわかんねー。武上も、厨房に来るまで何やってたんだ、あいつ」

「部屋にいたんじゃないでしょうか」

「証拠はない」

「そんな。それに、祭路さんと静香さんは秀雄さんのご両親ですよ」

「じゃあ、玲子・上山・駿太郎の誰かが秀雄を殺したのか?」

「・・・」


それもピンと来ない。だからと言って他の人物もピンと来ない。


「・・・やっぱり自殺なんじゃないでしょうか」

「わかんねー」


こうして2人の会話は堂々巡りとなったのだった。






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