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顔の良さは特典じゃなくて自前です  作者: アダルトデイズ
第一章 疫災のドレスは己の血で紅く染まる
7/10

そう思ったらそうなんだ

トーストの上にポーチドエッグ、その隣にカリカリのベーコンが3枚添えられている。

時刻は7時、市場は商品を並べ終え、店によっては客がボチボチ入り始めている。

活気づく前の市場を、テラス席から眺めながら食べる朝食は、質素な物でも格別に感じる。

トーストを頬張りながら、さっき買った新聞を広げる。

一面の見出しには『デメテラの村に巣食っていた魔族』と、太字で書かれている。


上層部は公表内容を入念にチェックし、最低限の情報を村人から聞き取り、10日前にエルクラークの存在を公表した。

それから新聞の内容はエルクラークのことばかり、村人達の心配・国への糾弾・倒されたことへの歓喜・私に対する賞賛…喜怒哀楽が活字から伝わってくる。


概ね隠蔽はなく公表されたが、エルクラークの魔法(支配魔法)については「混乱の種になる」「村人の尊厳を傷つける」として伏せられ「魔族に家族を人質に取られ、脅されていた」と公表した。

「今でも生きていて、上層部が操られてるのでは?」という陰謀論を生まないためだが、これにより上層部や騎士への不信感が生まれてしまい、潜伏できた経緯について様々な意見が飛び交ったが、国は完全に口をつぐんだ。


新聞には『なぜ一年もの間、潜伏できていたのか?』について、歴史学者が意見を述べている。

見て見ぬふりや、見回りが杜撰だった可能性を考慮しながらも「恐怖政治のみで、一年間も隠し通せるとは思えない」「魔法によるものと考えるのが妥当」「ウエディングのように、他者を操作するものだったのでは?」と指摘する。


さすがは学者、完全に正解だ。

しかし公式発表は「脅されていた」であり、どれだけ核心を突こうとも妄想でしかない。

民衆に不安こそあれど、次第になくなっていくだろう。


エルクラークを討伐して2週間、私は国外に行く場合を除いて、完全な自由行動が認められた。

魔族を倒した功績や、帝国に管理されたくなくて転がり込んできたことを考慮してくれた。

生活費の全てを国から補助され、住まいは王城、服まで用意させるという至れり尽くせりっぷり。


なのでありがたく、下町でモーニングを楽しんでるわけだ。

城でも豪華な朝食が食べれるけど、どうせなら土地に根付く料理と雰囲気を楽しみたかった。

そして、理由はもう一つある。


新聞を読んでいると、カチャンと音がした。

顔を上げると、店員が机にティラミスを置き、微笑んだ。


「これウチ自慢のドルチェ!お金はいいから!」


上機嫌に鼻歌を歌いながら厨房へ帰っていった。

充分な金銭はあるけど、無料で食べる物は格別の味がする。


これこそが外食する理由の2つめ、サービスが多い。

デメテラ国民は明るくノリがいい、自分の料理に誇りを持ち、料金よりも料理を振る舞うことに重きを置く。

黒髪黒目という一目で"デメテラの人間ではない"とわかる容姿の私は"他国からわざわざ地元の料理を食べに来た人"として饗される。


新聞を閉じて、ティラミスにスプーンを入れる。

粉末コーヒーは濃くて苦味も強いが、マスカルポーネチーズの風味と、メレンゲの甘みで調和が取れている。

脳を震わされる砂糖の塊のようなスイーツも好きだけど、こういう上品なスイーツも好きだ。


市場が活気付いてきたので、店を出た。

先程のモーニングは前菜である。


「さぁ…食べ歩きの時間よ」


市場は、食材が陳列されている。

しかし品質をアピールするため、自慢の食材が使われたストリートフードが数多く並んでいる。


農家直送の八百屋には、揚げたてのポテトが並んでいた。


「ポテトください!」


普通なら持てないほど熱い、だが私なら口に含んでも火傷などしない。

熱々を口に頬張り、味と食感を100%楽しむ。


チーズ屋には、パンの上にモッツァレラチーズを乗せ、焼窯で焼いたあと、胡椒とオリーブオイルのみで味付けしたパンが売っている。


「このパンください!」


パンと同量のチーズが乗って…もはや、被さっている。

顎が外れそうなほど、口を広げて頬張る。

意外にも味は繊細で、後味や風味が豊かだった。


「いい食べっぷりだな!油物の口直しに桃はどうだ?皮は手で剥ける」


並べられた桃からは、繊細ながらも甘い香りがする。

香水のように香りを引き立てた物ではない、それでも嗅覚のみで糖度を理解させられる。


手を伸ばすと、しなやかな指と重なった。


「あっ、すいませ─」


顔を上げると、その手の主は…美しい女性だった。

彫刻のような均一な顔、銀髪の髪、碧い目の人間離れした美貌…なんか見たことあるな。


「え!?なんでっ…あっ、えっと…」


その女性は、目があった瞬間にギョッとして、キョロキョロと目を動かして動揺している。

この容姿、この雰囲気─


「ウーベルもご「わー!わー!ストップ、ストップッ!!!?」


女性に口を抑えられ、言葉が紡がれることはなかった。


「ちょっと!こっち来てください!」


手首を掴まれ、路地裏へ先導される。


「あれ?桃いらない?」


店主の声を聞いて、女性はピタッと止まり、クルッと向き直る。


「ください」


「私もください」


「桃2つね!まいどあり!」


───────────


桃は果汁が多すぎて、齧ると手に滴る。

沈黙が続いたが、私の声が静寂を破った。


「よく来られてるんですか?ウーベルタース様」


女性は桃を齧るのを止めて、深く息を吐いた。


「はい…週一で」


思ったより多かった…そんなこと、どうでもいいわ。


「転移者が祈ってるときしか、顕現できないのでは?」


「実は信仰心が高まってる場所では、人間の肉体を用意して顕現できるんです。

 デメテラ豊国はありがたいことに、殆どの国民が私を崇拝してくれています」


やや神妙な顔つきをしながら、一拍置くたび桃を齧っている。

かくいう私も喋ってないときは、桃がほっぺに入っている。

桃を食べきったウーベルタースは、手の平を見つめている。

「もう一個、買えばよかった」とか考えてるんだろうな、私も同じこと考えてるもん。


「あっそういえば、アリーナさんのレストランには行かれましたか?」


アリーナ…イタリアレストランを経営している、転移者の名前だ。

一ヶ月前から予約が必要らしくて、まだ行けていない。


「アリーナさんの料理は美味しいですよ!私もよく身分を隠して行っています」


「隠さなかったら、サービスしてくれるんじゃないですか?」


「アリーナさんは貧困層の方も来店しやすいように、料金が極めて低く設定されています。

 私も同じ立場で椅子に座るのが、彼女に対する礼儀です。

 それに…食い意地張ってる女神って…バレたら威厳なくなっちゃいますから……御二人には、威厳あるお姉さんで通ってるので」


悲しいかな、ほぼ間違いなくバレている。

見た目も雰囲気も変わってないのに、気付かれないはずがない。

それでもサービスをしないのは、ウーベルタース様の意思を理解してのことなのかな?


カーン!カーン!カーン゛!!!゛


街中にある鐘が一斉に鳴り響く、和やかな空気を切り裂かれ、すぐに路地裏から大通りに出た。

民衆は驚き歩を止めて、慌てふためく。


「これは…危険なモンスターが出現した合図です」


それを伝えるウーベルタースの顔は、先程よりも引き締まっているが、焦ってはいない。


「距離的にミュラーさんが対応するでしょう。

 行ってみてはどうですか?他の転移者がどう戦うか、見てみて損はありませんよ」


思い返してみれば、転移者の魔法を見たことがない。

国外に出ずに、観戦するだけなら問題ない、行ってみることにした。


「今度会ったら、二人で食べ歩きしましょうね」


ウーベルタースはニコッと笑い、指でグッドサインを作った。

城壁に近づくほど鐘の音が大きくなり、騎士達が待機している。

事情を伝えると「城壁の上から眺めるだけならいい」と、観戦の許可がでた。


階段を登り、城壁の歩廊に出ると、そのモンスターが視界に入る。

デカい…それが一目見た印象だった。

四足歩行でありながら、10mは優に超える黒い羊。

丸まった巨大な角、体毛の上からでも伝わる筋肉、漆黒の体毛は並大抵の剣では刃が立たないはず。


足元には騎士が…正確には騎士の鎧が3体いた、しかしそれを人間だと思う者はいないだろう。

兜が潰れている者、胴体に風穴が空いている者、片腕がない者…肉体や血が見られない、鎧だけが動いている。


カランと音が鳴る、左を向くとミュラーが矢を筒から取り出していた。

私の存在には気が付いていない。

ミシミシと地面から音がする、羊が動きを止めた…その瞬間、木の幹のような物が地面から生え、羊と鎧の身体に巻きついた。

叫び声を上げながら、地面を蹴り暴れる、その振動は地震と誤認するほど強い。

それでも木はさらに強く、全身に巻きつき締め上げる。

骨が圧迫され軋む、首を絞められ声が出せていない。


ミュラーは弓を構える、その所作は素人目でも完璧だとわかる。

弦を引かれて、弓が大きくしなる。

空気を叩く音と共に射出された矢は、羊の脳天を射抜いた。

木は締めつけるのをやめず、次第に羊は動かなくなった。


「もう終わったの…?」


先程の地響きは静寂に変わり、戦闘が終わったことは誰が見ても明らか。

騎士達が羊の死亡を確認したのち、縄を巻き始めた。

鎧は台車に乗せられ、運び込まれる。

騎士達は手を合わせ、積まれた鎧に礼をする。


それを見て、グレーノが言っていたことを思い出した。

「死んだ騎士を乗っ取る、胸糞悪いモンスターがいる」


「あの鎧がそれか」


そのモンスターは、乗っ取った騎士の剣術だけでなく、生前の癖や動きまでコピーする。


各国は、このモンスターを『殉職した騎士の鎧に憑依し、その騎士の力量や技術も模倣する、極めて卑劣なモンスター』『騎士達の罪悪感を煽り、狩りを安定させている』と説明している。

だが、魔法がない人間は詳細な仕組みを把握できない。


この説明は『ただの想像』である。


それでも確定事項のように、憑依したモンスターだと流布している。

騎士や家族のトラウマ削減のため。

そんな忌むべき存在であるはずの鎧に向かって、本人の遺体かのように祈りを捧げている。


亡き同胞を思って祈るなんて普通のこと、ただしその祈っている先が『過去の同胞』なのか『この鎧』に対してなのか、それは彼らのみぞ知る…いや、彼らもわかっていないかもしれない。


私にできることは、同じように手を合わせ、黙祷をすることのみ。

私は神がいることを知っている、彼らの行く先にきっと苦しみはない。

そう信じている。

植物魔法《樹縛》

視界に入った敵に、強靭な木を巻きつけて拘束する。


・ミュラーが使っている騎士の弓

弦が鋼鉄ウールの体毛で、ありえないぐらい引いても千切れない。

普通の人間は構えることすら不可能な重量であり、引ける人間は更に少ない。


・鋼鉄ウール

体躯:10〜13m

大きな黒い羊、動体視力や身体能力が高い。

体毛は鋼鉄のように硬く、鋼鉄のような靭性を持つ。

多種多様な装備や加工品に使用されるが、非常に強力なモンスターのため、市場に出回ることはまずない。


・騎士の亡霊

身長:生前の騎士により変動 体重:鎧の重さで変動

騎士の姿をした魔物。

道半ばで死んだ騎士の亡霊か、真似てるだけのモンスターなのか不明。


・ウーベルタース(人間形態)

APP:18 身長:182 体重:70「人間形態の体重ですからね?」 AGE:その都度作るため可変式

性別:女

種族:人間

信仰が集まっている場所でのみ、力を大幅に落として自由に動ける。

たまにやってきては豊国で食べ歩きをしていて、アリーナのイタリアンレストランにも行く。

とんでもなく美人なのに、店でしか目撃情報がないので人々から「デメテラの精霊なのでは?」と囁かれている(初耳です!)。

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