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魔王選定~魔神バルデス

「ねぇこれ、そろそろ魔神バルデスが出現しちゃう頃じゃない?」


 出勤中、すれ違った魔族の誰かがそんな話をしていた。


 普段はバラバラで種族ごとに好き勝手している魔族達だが、皆が一致団結する時がある。魔王が現れた時だ。


 人間の戦争が巨大化し、種族を超えた魔族連合が発足した際に、魔神バルデスがこの世界に現れ、相応しい者に魔王を託すという。


 確かに、南のほうでは魔族と人間の戦争が長期化し、全面戦争が始まってもおかしくないという噂だ。そうなると、魔神バルデスが出てきて、相応しい者を選定してもおかしくはない。


「魔王、ねぇ……」


 私には関係ない話――では無い。いや、直接は関係無いんだけど、間接的に関係がある。


 魔王は魔神から見て相応しい者が選ばられる。その時のために、戦闘が得意な魔族は日々色んな生き物と戦い、力をつけている。知力が高い魔族は相手を陥れる罠とか仕掛けとかを沢山作っている。魔神に認められるため、選ばれるために頑張っている種族達が居る。


 私は、その頑張っている種族の長が全員知り合いなのだ。


 知り合いというか、客だ。


 なんの客か?


 ()()だ。


 搾精とは何か?


 そう、セックスだ。


 私は魔族の中でも弱いほうに位置するサキュバスで、本当なら上級の魔族からは逃げるか搾取されるか殺されるくらいしか道は無いんだけど、ある時セックスしまくりたい欲望が理性を上回り、半ばやけくそでセックス屋を開いてみたら搾取されるどころか繁盛してしまった。


 店を気に入った魔族や、時に人間すらも店を気にかけて守ってくれるようになり、ここに来れば安全なんだと判断した一部のサキュバス・インキュバスが避難してきて店を拡張。従業員が増えたら客の数も増え、客の数が増えたら店を守ってくれる連中も増え、気付いたら魔族領土唯一にして最大の娼館となっていた。


 私が始めた事なので娼館の代表は私だし、一番人気も私だ。客の数が増えたはいいが私とセックスしたい者が増えすぎて、大金を叩ける者以外は私を抱けなくなった。


 そうなれば必然的に、私の客は魔族の上位層に偏る。


「誰がなるんだろうなぁ、魔王」


 ぼんやりと呟き、上を見る。


 魔界と呼ばれる魔族の生息域は空が赤い。赤黒い空に白い粉雪が降り始めて、白い息が視界を少しだけ遮った。その白い息の中に、常連たちの顔を浮かべる。誰もが魔王の器だろう。皆、精力が凄いのだ。セックスを始める前の熱量もすごいし、セックス中の必死さもすごいし、セックス後の勧誘もすごい。


 セックスの感想しか出てこないのは、セックスしか関係が無いからだ。娼館の従業員と客の関係性しかない、という意味じゃなく、私がセックスにしか興味が無いのだ。だから、他の所を見ていない。


 セックスに愛されセックスを愛するスーパーサキュバス。それこそがこの私、イルマ・サーキュレイだ。この世はセックスが全てなのである。


 そんなセックスの亡者である私だが、セックス以外にひとつだけ興味のある事があった。


 人間界と呼ばれる人間の生息域は空が青いらしい。


 木々も赤くないらしい。地面も赤くないらしい。


 空気が美味しいらしい。水が澄んでいるらしい。


 どれも魔界では想像もつかない景色だ。


 見てみたいという気持ちだけはある。


 でも私みたいな雑魚が人間界に入ろうものなら速攻で駆除されてしまうだろう。


「次の魔王様が連れてってくれないかな」


 聞いた話では、歴代で人間に勝てた時代は無いらしい。この魔界は人間にとって住みよい環境じゃないから、ここに籠っているうちは戦争にならないけど、人間界に来たら戦争だよ、みたいな感じらしい。客の中の誰なら、青空を私に見せてくれるだろうか。


「いいや、君だよ」


 低い声がどこからか聞こえた。声が低い知り合いは沢山居るけど、どれとも違う。


 辺りを見回すと、その正体はすぐに分かった。


 悪魔族にも見える。竜人族にも見える。ハーピー族の亜種かもしれない。黒い翼を黒い鎧のような肌。人のような顔、手足。私の知らない魔族だ。


「魔族では無い、私は、君達が魔神バルデスと呼ぶ存在だ」


「…………ぇ」


 風は吹いていないのに吹き飛ばされそうな、とんでもない威圧感。そんなもの魔族の上位層とベッドの上で色んな威圧プレイをしてきた私は慣れているから平気だ。心を読まれるのも羞恥プレイの一環で慣れているからそこも平気。


 だけど平気じゃない事が一点あった。


「魔神……バルデス!?」


「そうだ。人間と魔族の戦争が激化した今、世界が魔王の存在が必要と判断した。ゆえに私は顕現した」


 と、魔神様は言う。やっぱりさっきの噂は本当だったんだ……。


 という事は、まさか次の魔王って!!


 私は言う。


「次の魔王ってゴブリンキングさんなんですか!?」


「そう、その通……え、ゴブリンキング? ……なんでそう思ったの? 私、君に会いに来てるんだけど?」


「今日の予約はゴブリンキングさんなので」


「予約とか知らない。私、君に会いに来てるんだよ?」


「あ、そういう事ですか!」


「解かってくれてよかったよ」


「あらゆる魔族のありのままの姿を曝け出してきた私のアドバイスが必要なんですね!」


「解かってくれてなかったね。私、君に会いに来てるんだけど?」


「因みに一番チンコが大きいのは勿論ドラゴンですが、全身との比較比率的に最高効率な巨チンはケンタウロスです」


「聞いてないからね。私にその情報が必要だと思った? 魔王を告げに来たんだからね、私」


「え、要らないんですか? チンコのサイズ。魔王を選ぶのに?」


「魔王にチンコのサイズ関係無いからね。なんなら無くても良いからね」


「魔王なのに!?」


「ちょっといったん黙って話を聞いてもらっていい?」


 怒られてしまったので黙った。


 すると魔神様はゴホンと咳払いをし、乱れていた威圧感を整える。あ、これ手動で操作可能なオーラなんだ。


「さて、サキュバスクイーン、イルマ・サーキュレイよ。君を、5代目魔王に任命する」


「普通に嫌です」


「え」


 当たり前に断った。

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