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第8話「農具は剣より強し」

 地響きとともに迫りくる魔物の大群。その先頭を走るオークジェネラルが、醜悪な顔を歪めて雄叫びを上げた。

 彼らの狙いは明白だ。この農園から溢れ出る、世界樹の雫にも似た濃厚な生命力の香りに理性を焼かれているのだ。

 普通の村なら、この絶望的な光景を前に悲鳴を上げて逃げ惑うだろう。

 けれど、ここは僕の農園だ。

 手塩にかけて育てた野菜たちを、虫けら一匹に触れさせるつもりはない。

「フェン、左翼は任せた。右翼は僕がやる」

『承知!久方ぶりの狩りだ、血が騒ぐ!』

 銀色の閃光と化したフェンが、風を巻き起こして敵陣へ突っ込む。

 その一撃一撃が重い。鋭い爪が空を裂くたびに、強固な鎧をまとったオークたちが紙細工のように吹き飛んでいく。

 一方、僕はゆっくりと右手を振り下ろした。

「総員、収穫開始バトル・スタート

 ズズズズズ……ッ!

 農園の最前列に植えられた巨大なヒマワリたちが、一斉に太陽の方角へ花盤を向け、光を充填し始めた。

【太陽砲ヒマワリ(ソーラー・キャノン)】。

 品種改良によって光合成の効率を極限まで高め、余剰エネルギーを熱線として放出する対空・対地迎撃用植物だ。

「発射!」

 カッ!!

 無数の花盤から、極太の熱線が放たれた。

 それは正確無比に空を飛ぶワイバーンの翼を焼き切り、地上を走るゴブリンライダーたちを蒸発させる。

 魔物たちの進行がピタリと止まった。混乱する敵陣に、さらなる追撃を加える。

「次はトウモロコシ部隊、一斉射撃!」

 背丈が三メートルほどあるトウモロコシの並木が、ガサガサと葉を揺らして身を震わせる。

 次の瞬間、パンパンパンッ!という破裂音とともに、黄色い粒弾がマシンガンのように発射された。

【爆裂コーン】。着弾と同時にポップコーンのように弾け飛び、その衝撃波で敵を気絶させる非殺傷(手加減調整済み)兵器だ。

 雨あられと降り注ぐコーンの嵐に、魔物たちは成す術もなく薙ぎ倒されていく。

「グルァアアア!!」

 それでも、一部の強力な個体が包囲網を突破し、結界の境界線まで迫ってきた。

 巨大な棍棒を振り上げたトロールが、ソフィアの張った結界を叩き割ろうとする。

 家の中で祈るように杖を握るソフィアの顔が蒼白になるのが見えた。

 させない。

「そこまでだ」

 僕は地面に掌を押し当て、魔力を流し込んだ。

 トロールの足元の土が液状化し、そこから太い蔓が蛇のように絡みつく。

「【捕食蔓プレデター・ヴァイン】、いただきます」

 ズプッ、という嫌な音とともに、蔓の棘がトロールの皮膚に食い込む。

 トロールの巨体が急速に萎んでいく。彼らの持つ膨大な生命力が吸い取られ、大地の養分へと変換されていくのだ。

 数秒後には、トロールはミイラのようになって崩れ落ち、代わりにその足元から美しい花がポンと咲いた。

 肥料になってくれてありがとう。

 圧倒的な火力の前に、千体いた魔物の群れは十分とかからずに壊滅した。

 静寂が戻った荒野に、焦げた匂いと、ポップコーンの香ばしい匂いが漂っている。

『主よ、掃除は終わったぞ。デザートはあるか?』

 返り血一つ浴びていないフェンが、尻尾を振って戻ってきた。

 僕は安堵の息を吐き、ポケットから完熟トマトを取り出して投げ渡す。

「お疲れ様、フェン。最高だったよ」

「カイル様……!」

 家からソフィアが飛び出してきて、僕の胸に飛び込んできた。

 その身体は小刻みに震えている。

「怖かったでしょう。もう大丈夫だよ」

「いいえ……怖かったのではありません。あなたの背中が、あまりにも頼もしくて……私、感動してしまって」

 涙目で僕を見上げるソフィアの頭を、僕は優しく撫でた。

 この日、僕の農園は「鉄壁の要塞」としての評価を(主にフェンの中で)確立したのだった。

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