第7話「迫りくる魔の足音」
ベルナルドの提案は魅力的だった。
「万博」の準備を進めることになった僕たちは、役割分担を決めた。
僕はひたすら作物の質の向上と種類の拡大。
ソフィアはベルナルドと共に企画立案と、彼女の元王族としての知識を活かした招待状の作成やマナー指導。
フェンは……まあ、つまみ食いと警備だ。
ベルナルドが物資調達のために一度街へ戻った数日後。
農園に不穏な空気が漂い始めた。
風が生温かく、湿っている。
動物たちが姿を消し、鳥の声が止んだ。
『主よ、来るぞ』
フェンが低く唸り、牙を剥いた。
その視線は、荒野の北側、黒い雲が垂れ込める山脈の方角に向けられている。
僕は地面に手を当て、【植物使役】で根のネットワークを通じて遠くの振動を探った。
「……数が多い。数百、いや千か」
地面が微かに震えている。
スタンピード(魔物の大暴走)だ。
僕の農園から溢れ出る濃厚な魔力の香りが、飢えた魔物たちを引き寄せてしまったのだろう。
通常の開拓村なら、即座に放棄して逃げ出すレベルの規模だ。
だが。
「逃げるわけにはいかないな」
振り返ると、そこには大切に育てた野菜たちが、太陽の光を浴びて輝いている。
ソフィアが心配そうに駆け寄ってきた。
「カイル様!北から魔物の群れが!」
「ああ、わかってる。ソフィア、君は家の結界を維持していてくれ。外は僕とフェンでやる」
「でも、あの数は……!」
「大丈夫。ここが誰の『庭』だと思ってるんだ?」
僕はニヤリと笑ってみせた。
農民をナメてもらっては困る。
僕はただ野菜を作っていただけじゃない。
この農園全体を、巨大な要塞植物園に作り変えていたのだから。
「フェン、暴れる準備はいいか?」
『ウズウズしていた所だ。夕飯前の運動には丁度いい』
地平線の向こうから、黒い津波のような魔物の群れが姿を現した。
オーク、ゴブリン、巨大蜘蛛、ワイバーン。
欲望に塗れた咆哮が、空気を震わせる。
「ようこそ、僕の農園へ。ただし、肥料になる覚悟がある奴だけな」
僕は右手を高く掲げた。
それに応えるように、農園を取り囲む巨大なヒマワリたちが、一斉に砲塔のように魔物たちへ頭を向けた。
戦いの火蓋が切られる。
これは、最強の農民による、一方的な蹂躙劇の始まりだった。




