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第6話「猫耳商人の驚愕」

 農園の入り口にある結界が反応した。

 敵意はない。ただ、何者かが侵入してきた合図だ。

 僕とフェンが様子を見に行くと、そこには一台の荷馬車と、二足歩行の猫がいた。

 いや、猫の耳と尻尾を持つ獣人だ。立派な口髭を蓄え、上等な服を着ている。

「おやまあ、これは驚きました。死の荒野に、こんな楽園があるとは」

 男は丸いサングラスを押し上げ、僕たちを見て丁寧に帽子を取った。

「怪しい者ではございません。わたくし、行商人のベルナルドと申します。風に乗って流れてくる、あまりにも芳醇な魔力の香りに誘われてきましてね」

 彼の鼻がヒクヒクと動いている。

 どうやら僕の野菜が放つ匂いに釣られたらしい。

「農場主のカイルだ。こっちはソフィア、それにフェン。迷い込んだってわけじゃないんだな?」

「ええ、商人の鼻は宝の在り処を逃しませんからな」

 ベルナルドは興味津々といった様子で畑を見回した。

 その視線が、一本のナスに釘付けになる。

 濃い紫紺色で、大人の腕ほどもある【ドラゴン・エッグプラント】だ。

「……失礼ですが、あれを一つ、売っていただけませんか?金貨一枚出しましょう」

 金貨一枚。普通のナスなら一生かかっても買えない値段だ。

 だが、僕は首を振った。

「試食ならタダであげるよ。その代わり、感想を聞かせてくれ」

「なんと太っ腹な!」

 僕はナスをもぎ取り、その場でスライスして軽く塩を振り、火魔法で炙って彼に渡した。

 ベルナルドは恐る恐る口に運び……次の瞬間、全身の毛を逆立てて飛び上がった。

「ニャ――ッ!?」

「どうした?」

「な、ななな、なんですかこれはァアア!!」

 彼は私の肩をガシッと掴んで揺さぶった。

「口の中で溶けました!トロトロです!そして爆発的な旨味!何より、長年悩んでいた腰痛が一瞬で消えました!これは野菜の皮を被ったエリクサーですか!?」

「まあ、品種改良してるからね」

「品種改良のレベルを超えています!」

 ベルナルドは興奮冷めやらぬ様子で、懐から手帳を取り出し、猛スピードで何かを書き込み始めた。

「カイル様、あなたは知っていますか?今、世界は食糧危機と、それに伴う魔力枯渇に喘いでいることを」

「え、そうなの?」

「はい。特に隣国の王国などは悲惨です。ですが……この農園には、世界を救う可能性があります」

 ベルナルドは真剣な眼差しで僕を見つめた。

「カイル様、商談です。わたくしと組んで、この作物を世界に売り出しませんか?いや、ただ売るだけじゃもったいない」

 彼は芝居がかった仕草で両手を広げた。

「世界中の王族や貴族、大商人を集めて、ここで見本市を開くのです。名付けて『異世界万博』!あなたの作った野菜と、それを使った料理、そしてこの楽園そのものを展示するのです!」

「万博……?」

 想像もしなかった言葉に、僕は呆気にとられた。

 だが、隣で聞いていたソフィアの目が、強い光を宿した。

「それ、いいかもしれません。カイル様の素晴らしさを世界に知らしめ、私達を捨てた人たちを見返す、最高の機会になりますわ」

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