21話
春の陽が、王都の街並みを優しく照らしていた。
《慈善財団》は新たな形で再出発を遂げ、王家後援の認可を正式に受けた。
その名は《リチャード・アムール記念財団》。
彼の理想は、今も確かに生きている。
《財団》の発足式の日。
私は式典会場の広場に立ち、集まった人々の中で心を落ち着かせるため、深呼吸をした。
遠くで鐘の音が鳴り、空は澄み渡り、雲ひとつない。まるで、誰かが見守っているようだった。
「アリーシャ様」
声の方を見ると、クラーク卿がゆっくりと歩いて来る。
黒の正装に身を包み、胸には財団関係者の証しである金のバッジ。
その姿は、厳格でありながら、不思議と穏やかだった。
(クラーク卿だからこその独特の雰囲気ね)
「おめでとうございます。今日という日を迎えられたことを、心から嬉しく思います」
私は微笑んだ。
「ありがとうございます。貴方のおかげです」
「違います。貴女が最後まで諦めなかったからこそ、ここまで来られたんです」
風が吹き、花びらがふわりと舞った。
そのひとひらが、彼の肩に落ちる。
私は思わず手を伸ばして、それをそっと払った。
その時、ほんの一瞬、彼と目が合う。
その瞳の奥に、温かく見守るような光。
言葉にせずとも、互いの心が通じ合うのを感じた。
「リチャードさんが残した理想を、ようやく現実にできました」
「ええ。そして、これからは貴女自身の理想を」
その言葉に、胸が少し熱くなった。
過去の痛みも、別れの辛さも、気づけば静かな力に変わっていた。
私は空を見上げた。
どこまでも広く、どこまでも青い空を。
あの人も、きっとこの空の向こうで微笑んでいるに違いない。
「クラーク卿」
「はい」
「これからも、共に歩んでくださいますか?」
彼はかすかに目を見張り、それから優しく微笑を返した。
「もちろんです。私は貴女と共に、この国の未来を見てみたい」
その言葉に、私はそっと頷いた。
隣を歩く誰かがいる、それだけで、世界がほんの少しだけ優しく見える。
過去の辛い別れを乗り越えられたのも、今日という日が待っていたからなのかもしれない。
そんな想いを胸に新たな道を歩んで行こう。
侯爵夫人ではなく、一人の女性として。




