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《完結》どうぞ、私のことはお気になさらず  作者: ヴァンドール


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19/22

19話

 その後、月日は流れていった。


 《財団》の新しい体制が少しずつ形を作り、王都の民たちの間でも再び動き出したと噂されるようになった。


 その陰には、クラーク卿の尽力があった。

 財務補佐として、彼はあらゆる政治的障害を乗り越えて来た。


 そしてリチャードが去ってからは今までのつまずきが嘘のように解消された。


『今まで、彼方の国はどれだけ酷い妨害をしていたのかしら。私の大切人を傷つけた人間を許すことはない』


 アリーシャは怒りに震えた。そして去って行ったリチャードを懐かしく思い出し、切ない気持ちにとらわれていた。

 すると急に声がかかった。


「何を考えているのですか?」


 クラーク卿だった。私は自分の頬を軽く叩いた。


『今は感傷に浸っている時ではないわ』

 そう頭を切り替えた。


「いつも助けていただいてばかりで……」


 アリーシャがそう言うと、クラーク卿は首を振って否定した。


「私はただ、貴女の理想を信じているだけです。

 貴女が向かう先を見ていると、不思議と正しい道が分かる気がするのです」


 その言葉に、胸の奥が僅かに熱くなった。

 いつか、リチャードが語った《理想》とは違う、もっと静かで、確かなもの。

 それは時間をかけて、心の底からゆっくりと温めてくれる優しさだった。


 彼は自分の名をひけらかすことなく、ただ誠実に向き合ってくれる。

 彼の働きがなければ、今の《財団》の活動は続けられなかっただろう。



 ある晩、会議を終えたあと、アリーシャとクラーク卿は屋敷の前で立ち話をしていた。


「クラーク卿、貴方はなぜそこまで私を助けてくださるのですか?」


 一瞬、彼は答えを探しているように見えた。

 そして、ゆっくりと顔を上げた。


「理由を言えば、すべてが壊れてしまう気がしていました。でも、もう隠すのはやめます」


 彼の声は、とても真っ直ぐだった。


「私は……貴女に惹かれています。貴女が理想を語る時も、誰かのために涙する時も。その姿を見て、何度も心を奪われた」


 そして彼は少し沈黙した。


「本当は貴女を初めて見たあの舞踏会、周囲を気にかけることも忘れ、ただ貴女のもとへとダンスを申し込みに行きました。多分あの日からずっと……」


 そう言いかけてまた沈黙した。


 アリーシャは息を呑んだ。

 心臓の音が、高鳴り、平静を保つのに必死だった。


「私、まだ人を想うことが怖いのです」


「分かっています」


 クラーク卿は、微笑んだ。


「だから急がなくていい。ただ、貴女がまた誰かを信じてもいいと思えるその日まで、私は隣にいます」


 その言葉が、心に静かに広がっていく。

 リチャードが与えてくれた《理想》が、彼を通して今、《信頼》に変わっていくようだった。


 アリーシャは微笑みながら頷いた。


「なら、私も、もう一度信じてみたい。理想も、人も、そして私自身の未来も」


 クラーク卿の顔がほんの少し赤みを差した。

 空には雪が舞っていたが、二人の心は温かさで満たされていた。


 それはまだ恋の始まりには早すぎる、だけど確かに、二人の間の空気感が変わった。

 これは、間違いなく何かが、動き出す瞬間だった。


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