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Feather 3 ଓ 予兆 〜ill omen〜


    ଓ


 そしてまた、数週間が経ち。

 エリンシェは忙しいながらも、充実した学舎(まなびや)生活を送っていた。


 あの日――研究室に招かれて以来、エリンシェは「世界学」の授業を終えた後、必ずガイセルを訪ね、その授業の内容をより深く教わるようになっていた。

 そうしているうちに、エリンシェはガイセルと自然と交流を深め、いつしか彼のことを「せんせい」と親しみを込めて呼ぶようになっていた。

 今はまだ授業の補講程度の知識しか教わっていなかったが、エリンシェはガイセルととある約束を交わしていた。それは「世界学」のより深い知識(こと)を教えてもらうというものだった。約束がいつ果たされるのかまだ分からないが、その日を待ち望み、エリンシェは熱心に、「世界学」の勉学に励んでいた。

 その一方で、「お隣さん」の二人――ジェイトとカルドとは式の日に初めて会って以来、まだ何の進展もしていなかった。せっかくだから仲良くしたいと思っているのだが、授業の初日に一度、機会(タイミング)(のが)して以来、話し掛ける勇気が持てなくなっていたのだ。

 ……おまけに、ジェイトにはヴィルドから助けてもらったお礼すら、ちゃんと言えていない。このままじゃいけないと、エリンシェは自分を(ふる)い立たそうとするものの、二人と話すきっかけすら見つけ出せずにいた。

 そんなエリンシェとは反対に、ミリアの方はカルドとかなり仲良くなっているようで……――。


「ねぇ、エリン、次の『薬学』でカルドと一緒に座ってみたらどう? あいつ(・・・)、得意みたいでさ、きっと手伝ってくれるよ。 心配しなくて大丈夫だよ、顔ちょっと怖いけど、意外と優しいから」

 ――なかなか行動に出られないエリンシェに助け舟を出すかのように、ある時ミリアはそんな提案をしたのだった。

 ……ミリアが異性(カルド)を「あいつ」呼ばわりするなんて。そんなところをみると、ふたりはよっぽど気が合うらしい。エリンシェはいつの間にかそこまで進展しているふたりのことが(うらや)ましく思えた。

 もちろんカルドとも仲良くしたいが……。エリンシェはジェイトのことを思う。……ミリアとカルドのふたりみたいに、(ジェイト)と仲良くできたらいいのに。

「早く仲良くなるためにもさ、まずカルドと話してみたらどう? きっと力になってくれると思うよ」

 エリンシェの気持ちを察知して、ミリアはもう一度そんな助言(アドバイス)を口にする。

 ……ミリアの言う通り、まずはカルドと話してみるのもいいかもしれない。それに、彼女が太鼓判を押しているくらいなのだ、仲良くなれば本当に、色々と相談に乗ってくれるのかもしれない。エリンシェはそんなことを考え、ミリアにうなずいてみせた。

 それを見たミリアが満足そうに、うんうんとうなずいていた。……かと思えば突然、悪戯(いたずら)っぽく笑うと「ところで……」と話を切り出した。

「コンディー先生とはどうなってるの?」

「……なんでそこにせんせいが出てくるの。 ただ色々教わってるだけだよ、関係ないでしょう」

 どうやら「探り」を入れられているらしい。エリンシェはそっぽを向きながら、答えてみせた。

 ……でも。――でも、「世界学」のことを教えてくれるガイセル(せんせい)の表情はいつも真剣そのもので、どこか優しくも見えた。そんな彼に()かれたことはあるが……。それが一体どうしたというのだろう。

 そんなことを考え、ガイセルのことを思い浮かべていると、エリンシェはなぜか顔がだんだん熱くなるのを感じた。そのことに気付かれまいと、エリンシェはミリアからさらに顔を(そむ)けた。

「……ふ〜ん、なるほどね」

 視界の隅ではミリアはまだ笑みを浮かべていて、からかうようにエリンシェの方をまじまじと見つめている。

「ほ……ほらっ。 そろそろ行こう」

 そのうちに、また何を考えているか読まれてしまいそうだと考え、エリンシェはごまかすかのように口を開き、足早に教室へと向かうのだった。


    ଓ


 そして、次の「薬学」の時間になり……。

 エリンシェはミリアの提案通り、カルドと隣同士で席に着くことになった。

 いつの間にかミリアが話をつけていたらしく、開始時間が近くなると、カルドは「よろしく」と短く言って、エリンシェの隣に座った。

 けれど、カルドの表情は固く、エリンシェは思わず(ひる)んでしまう。そのせいもあってか、二人の間に沈黙が降りてしまった。

 ……でも、このままじゃ何も変わらない。仲良くするために頑張るって決めたんだから、勇気を振り(しぼ)って話し掛けなきゃ。

「あ……あの、ソルディス君。 今日はよろしくね」

「よろしくな、エリン(・・・)。 俺もそう呼ばせてもらうから、エリンもカルドって呼んでいいからな。 えっと……薬学苦手なんだっけ? そこんとこも含めて、俺に任せとけ」

 エリンシェが思い切って口を開くと、カルドはふっと顔を(ゆる)めて微笑んで、調子よく(こた)えてみせた。

 さすが、ミリアが懇意(こんい)にしているだけある。――相手(エリンシェ)のことを思いやり見守るかのように優しく、頼りがいのあるカルドのその表情(かお)を見た瞬間、エリンシェはすぐに思った。

「ありがとう。 ソル……違った、カルドって怖い人なのかと思ってた」

「よく『顔が怖い』って言われて、勘違いされる。 けど、俺は普通にしてるつもりなんだけどな」

 ほっと胸を()で下ろして、エリンシェが冗談まじりに(からかいながら)そう話してみせると、カルドも応じてみせた。

 エリンシェとカルドは顔を見合わせ、少しの間笑い合った。それだけで二人の距離は一気に縮まった。そしてしばらく、授業の合間を()って、他愛のない話をし、より仲を深めたのだった。

 そうしているうちに、授業が難しい部分(ところ)に差し掛かった。エリンシェが困っていると、すぐにカルドは分かりやすく説明をして、助け舟を出した。

 カルドのおかげで、エリンシェは普段(いつも)より授業の内容を理解することができたのだった。

「なぁ、エリンってあいつ(・・・)のこと……どう思ってる?」

 一段落ついてふと、カルドがそんなことを(たず)ねてきた。

 カルドの言う「あいつ」とはジェイトのことだろう。返答(こたえ)に悩みながら、エリンシェは前方に視線を移した。

 そこにはジェイトとミリアが並んで座っていた。二人が時々、会話を交わしているのを見て、エリンシェはミリアのことが(うら)ましく思えた。

 ……どう(・・)と聞かれても、この胸の中に()る気持ちが一体「()」なのかは分からない。ただ、確かなのは……――。

「よく……分かんない。 でも、仲良くしたいとは思ってるの。 それに、私、彼に言わなくちゃいけないことがあって、話ができたらいいなって……」

 ――今はただ、彼と話をしてみたい。はっきりと言えるのは今のところ、その思いだけだった。もしかすると、彼と仲良くできれば、この「気持ち」が何なのか、いつか分かる日が来るかもしれない。けれど、そうするには何とか勇気を振り(しぼ)るしかないのだろう。

 エリンシェの答えを聞いて、カルドは何やら、物思いにふけっているようだった。

「ねぇ、そういうカルドは彼とどういう関係なの?」

 そんなカルドをじっと見つめていて、エリンシェはジェイトと彼の関係が気になり、逆に質問を投げ掛けてみることにした。

「俺とあいつか? そうだな……かなり深い関係だとは思うけど。 ――俺にとって、あいつは小さい頃からずっと一緒で、幼なじみとか兄弟みたいな存在でもある『親友』ってとこかな。 エリンもミリアと大体そんな感じだろ」

 急に質問されて、最初は面喰(めんく)らったような顔をしたカルドだったが、ジェイトのことを話し始めた瞬間、それまでとは違う、穏やかで優しい表情(かお)を浮かべていた。

 その表情(かお)を見て、カルドにとって、ジェイトはとても大切な存在だということがすぐに理解できた(わかった)

 おそらく、二人は互いを思い合うとても深い関係なのだろう。カルドが話していたように、エリンシェとミリアも同じような関係を築いているだけに、それがよく理解できる(わかる)

「うん、そうだね。 私もミリアと小さい頃からずっと一緒なんだ。 あのね、私達が仲良くなったきっかけがお母さん達でね、お母さん達も親友同士なんだ。 今でもお母さん達はすごく仲良しでね、ずっとそれを見てきたから、ミリアと二人でいつも『私達も同じくらい親友でいようね』って約束してるんだ」

 それだけに、エリンシェはミリアとの関係性をカルドに打ち明ける。

「いいな、それ」

 すると、カルドも同じように共感して、優しい表情のまま、微笑みを浮かべてくれた。

 そして、そのまま思い出話を互いにしながら、笑い合っていると、ふと、カルドが「……なぁ」と話を切り出した。

「次の授業でジェイトと話してみるか?」

「えっ、いいの?」

 思いがけないカルドの提案に、エリンシェは嬉しく感じて、声を上げた。それとほぼ同時に、ジェイトと話したいという気持ちが()き上がってきた。……もし本当に話すことができたら、あの時のお礼を伝えられる。

「あぁ。 というか、そうでもしないと、なかなか話すきっかけもできないみたいだからな。 ここはひとつ手伝うことにするよ。 まずは……そうだな、ちょっとあいつら見てみろ」

 ……ミリアの言った通りだ。まだ仲良くなって間もないのに、カルドは積極的に力になってくれている。

 エリンシェは小さく「ありがとう」とお礼を口にした後、何か言いたいことがあるらしいカルドの話に耳を傾け、彼が指差したジェイトとミリアの二人に注目する。

 見たところ、ジェイトとミリアはただ普段(いつも)通り、授業の合間を縫って会話を交わしているだけのように思える。エリンシェはカルドの意味するところが(つか)めず、首を傾げた。

「遠目には『普通』に見えるかもしれないけど、実はそうじゃない。 あれはミリアがジェイト(あいつ)を引っ張って、成り立ってるようなもんだ。 ミリアの性格はエリンが一番知ってるはずだから、考えてみたらよく分かるだろ? で、ジェイトの方は昔から俺と同じで女ってものに慣れてないし、それに元々自分から積極的に話し掛けていく性格でもないんだ。 つまり、ミリアくらいじゃないと、ああは簡単になれないってことだ」

 ……確かに、ミリアは性別や年齢を問わず、積極的に話し掛けることができる上に、誰とでも仲良くなれる性格だった。そのことを踏まえてもう一度、二人に注目すると、カルドの言った通り、主にミリアからジェイトに声を掛けていることが理解できた(わかった)

「仮に話すことができても、ジェイト(あいつ)は恥ずかしがると思う。 けど、それじゃだめなんだ。 ――思い切って、どっちかが勇気を出さないと。 ……ミリアもいるし、きっかけはいつだって作れる。 でも、その後はお前ら次第だ。 なぁ、エリン、できそうか?」

 カルドに問われ、エリンシェははっと息を呑む。「どちらが勇気を出さないと」――カルドのその言葉に心を突き動かされていたのだ。

 ……そうだ、今まで話すきっかけがなく、後込(しりご)みしていたが、まだ仲良くなって間もないのに、カルドがそのきっかけを作ろうとしてくれているのだ。いや、カルドだけでなく、きっとミリアも手伝ってくれるはずだ。ふたりが背中を押してくれているのに、今こそ勇気を振り絞る時だろう。

「うん、私、頑張る!」

 そう答えながら、エリンシェは必ず、あの時の礼を伝えて、ジェイトと少しでも距離を縮めることができるように努力しようと決心したのだった。

「おう、あいつのこと、よろしく頼むな」

 「何」に対してそう言ったのか分からないが、エリンシェの返事(こたえ)を聞いた瞬間、カルドはまたあの穏やかで優しい表情(かお)を浮かべて、そう小さくつぶやいた。

 彼の意味しているところは理解できないままだったが、エリンシェはカルドのその表情を見ていて、うなずかずにはいられなかった。

 そして、何か言葉を掛けようとしたところで、授業がちょうど終了した。

 ひとまず、エリンシェはカルドに礼を伝え、今後の「薬学」の授業でも同席しようと約束を取り付けた。そして、カルドと段取りを話し合った後、次の授業へと(のぞ)むのだった。


    ଓ


 ――そして、その日の午後。

「お前に会わせたい(やつ)がいるんだ」

 カルドにそう言われ、ジェイトは隣を空け、独り「予知学」の授業で席に着いていた。

 「絶対、隣に誰も座らせるな」とカルドに念押しをされ、少し前に通り過ぎたミリアが悪戯(いたずら)っぽく笑みを浮かべているのを見て、ジェイトはその人物(ひと)が誰なのか、検討がついており、緊張していた。

 ……それにしても、どうしてカルドとミリアはあんなに仲が良いのだろう。この授業でも当然のようにふたり隣同士で席に着いている。そんなふたりの姿を見て、ジェイトは自分もそうなれるだろうかと少し不安に思っていた。

 そして、授業が始まる少し前。

「こんにちは」

 ――ついに、〝彼女〟が現れた。

 少し顔を赤らめ、微笑みながら挨拶(あいさつ)を口にするエリンシェに、ジェイトはかろうじて会釈(えしゃく)を返した。

 ……情けないことに、それが精一杯だった。いざ〝彼女〟を前にすると、心臓が早鐘(はやがね)を打ち、息が詰まりそうになっている。思っているよりも緊張していることを自覚したジェイトは授業はこれからだというのに、きちんとエリンシェと話ができるだろうかと先が思いやられた。

「あの、この間は助けてくれてありがとう」

 何とか口を開けるよう、必死に緊張をほぐそうとしていると、隣に座ったエリンシェから礼を言われた。

 一瞬、理由を聞かれないだろうかとジェイトは少し不安になる。……あの時はとにかくいてもいられない気持ちになって、気が付くと身体が先に動いていたのだ。未だに、ジェイト自身の中でもはっきりとした理由は分かっていなかった。

「いや、いいんだ」

 そんなことを考えながら、ジェイトは首を横に振って、何とかそれだけ答えた。

「私ね、あの時あなたが来てくれて、何だかすごく安心できたし、嬉しかったの。 だから、ずっとお礼を言おうと思ってたのに、遅くなっちゃってごめんね」

 無愛想に見えるだろうに、エリンシェからそう言われて、ジェイトは顔が熱くなるのを感じた。黙ったままもう一度首を横に振ると、顔を見られまいとうつむいた。……これじゃ、余計に話せそうにない。

 そんな中、授業が始まり、「予知学」の賢者が水晶玉を皆に配り始めた。前回までは理論を学ぶ座学が主だったが、どうやら今回からは実践を交えて授業が進められるようだ。

「えっと、ユーティスくん。 一つ、聞いてもいい?」

 授業に耳に傾けていると、ふと、合間を()って、エリンシェから声をかけられた。

「あ、うん、どうぞ」

 集中していたせいか、先ほどよりは緊張もほぐれていたジェイトはすぐにうなずいてみせた。

 エリンシェは「あのね……」と照れくさそうに前置いて、躊躇(ためら)いがちに口を開いた。

「ジェイト、……くんって呼んでもいい?」

「いいよ、もちろん」

 思いがけない「お願い」に面()らいながらも、ジェイトは二つ返事をする。

 ――すると次の瞬間、エリンシェははにかみながらも、とても嬉しそうに笑みをこぼしていた。

 〝彼女〟のその笑顔に、ジェイトは思わず、目を吸い寄せられていた。

 どんどん胸が高鳴り、つられるようにして顔が熱くなるのを感じて、ジェイトは必死にエリンシェから顔を()らした。そして、こみ上げる気持ちを抑えるかのように顔を(ぬぐい)ながら、心の中で独りごちた。……こんなの、反則だ。

 とはいえ、このまま恥ずかしがっている場合ではない。ジェイトは「熱」を振り払うかのように頭を何度か振った後、エリンシェの方へと振り返った。

「あ、あの! 僕もエリンって……――」

 けれど、最後まで言い終わるまでに、運悪く、各々(それぞれ)に水晶玉を配っていた「予知学」の賢者がジェイトの前に現れた。

 目の前に水晶玉が置かれたのを(うら)めしく眺めながら、ジェイトはちゃんと聞こえただろうかとエリンシェに視線を送った。

「――はい、ではここで、試しに水晶玉を(のぞ)いてみましょう。 皆さん初めてなのであまりないかと思いますが、もしも何か()えたら教えて下さいね」

 その上さらに、賢者から指示が出され、話すことすら難しくなった。

 気付いたエリンシェが小さくうなずいてみせるのを目にしたものの、実際に呼ぶ機会を失くしてしまったようだった。残念に思いながらも仕方なく、ジェイトは水晶玉を覗き込むことにした。

 最初(はじめ)は賢者が話していた通り、何も視えなかった。けれど、しばらく眺めていると、何か視えてくる――……気がする。その不可思議な感覚に、ジェイトは思わず真剣になり、目を細めて注意深く水晶玉を覗き込んだ。

 少しの間そうしていると、何か黒い「もの」が水晶玉の中に視え始めた。

 気のせいかもしれないと考えながらも、ジェイトはその黒い「もの」に注目した。ふと、それが黒雲だということに気付いた。

 今にも雷を落としそうな黒雲の下に「何か」()るんじゃないだろうか。そんなことを考えて、さらに水晶玉を覗き込んだ。

 意識を集中させていると、また新しいものが視えた。今度は……「人影(ひと)」だ。――よく視ると、黒雲のすぐ下にその「人」はうずくまっていた。

 ……ただの「(かん)」だったのに、やっぱり「何か」在ったのか。偶然かもしれないが、この水晶玉に視えている「もの」には一体どんな意味があるんだろうか。漠然(ばくぜん)とそう思いながらも、ジェイトは次にその「人」に注目する。

 すると、ぼんやりとその「人」の姿が視えてきた。……金色の髪の女性だ。最初(はじめ)そう直感した(おもった)が、ジェイトはすぐに考え直す。――その「女性(ひと)」が「誰か」に似ている気がしたからだった。

 でも、一体「誰」に……? 考えながら、水晶玉を覗き込んでいると、だんだん顔がはっきりと認識できる(視える)ようになった。

 ――そしてついに、ジェイトにその「女性(ひと)」が誰なのか、はっきりと理解し(わかり)、思わず息を呑んだ。



 ――その次の瞬間。今まで水晶玉で視えた「もの」が突然、動き(再生し)始めた。

 

 黒雲から一直線に、雷が「女性」へと向かって落ちていく。

 だが、雷がうずくまる「彼女」を(とら)えるより先に、突然、まばゆいほどの〝光〟が放たれた。

 〝光〟は全て(辺り)を包み込み、雷すらも消し去った。そして……――。


 ――〝光〟が消えると、水晶玉(そこ)に映し出されたのは、まるで天使のように、その背中に真っ白な〝羽〟を生やした「女性」の姿だった。


 そして、苦しそうな表情(かお)を浮かべている「彼女」の姿が一瞬視えたのを最後に、水晶玉は何事もなかったかのように沈黙したのだった。



 先ほどまで視て(目にして)いたものが信じられず、ジェイトは唖然(あぜん)とした。

 そんな中、ジェイトは息を()らしながらも、横目で隣に座る〝彼女(・・)〟を見つめる。

 〝彼女〟は……時折うなり声を上げながら、水晶玉を覗き込んでいた。

 どうか気のせいであってほしいと願いながらも、〝彼女〟の顔を改めて見て、ジェイトは確信してしまった。

 ――間違いない。水晶玉で視たあの「女性」は……〝彼女〟――エリンシェだ。

 ……けれど、どうして偶然とはいえ、水晶玉でおそらくこれから起こ()るだろう「未来」のことが視えたのだろう? いや、そもそも、視えたからといって、本当にその「未来」は「実現」するのだろうか?

 そんな疑問が浮かび、「予知学」の賢者に声を掛けようとした。――が、すぐに思いとどまった。

 ……でも、どうやって水晶玉で視た「もの」を説明するんだ? それに、話したところで信じてもらえるだろうか? おまけに、「当人(本人)」が隣にいる。起こる起こらないを別にしても、こんな不吉そうな「こと」を目の前で口にするだけで不安にさせてしまうんじゃないだろうか?

「……っ」

 そう考え、ジェイトは唇を()んだ。

 ……言えない。――言っては、いけない。口にすすれば本当に、現実になってしまいそうな気がするから。

 確信はないが、強く感じるそんな予感に、ジェイトは先ほど視た「こと」を胸の奥へとしまい込んだのだった。


 けれど、そうしたことでジェイトは独り、大きな不安に(さいな)まれることになるのだった。


    ଓ


 その一方で……――。


 とある森の中に建てられた石碑(せきひ)に「動き」があった。

 その石碑にはめられている珠が太陽の光を受け、一瞬まばゆい「輝き」を放ったのだ。

 そして、次の瞬間、別の珠がまるでその「輝き」に対抗するかのように、赤く染まり、小さく「振動」した。

 やがて、二つの珠の「動き」に呼応するかのように、森の上に黒雲が立ち上った。


 ――世界に「何か」が起ころうとしていたのだ。

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