やまぐらし! MOUNTAIN-LIVE!
また新しい人物が現れる。
ただこの状況では熊から視線を外せない。
「え、誰ですか」
「オイラのことは後でいいよ。それよりコイツ何とかしないとさ」
そう言って声の主は俺の背後から熊の前へと歩み出る。
風采の上がらない五〇代くらいの男性である。
紺色に白いラインの入ったジャージ姿で、頭はゴマ塩、右手には大型のシャベル。
腰回りに作業用ウェストポーチを巻いていて、ペンや工具やライトなどを提げている。
男はノーモーションでシャベルを熊の脛に振り当て、怯んで頭を下げた所に腰から提げたスプレーを素早く吹き掛ける。
「グアアアアアアアアアア!」
顔を押さえて悶える熊に対し、男は少しの間も空けずにスコップで熊の鼻先を殴りつけ、返す刀で今度は首元を素早く何度も突き刺す。迷いがなくテンポよく繰り出される攻撃に、堪らずたたらを踏んでその場から逃げ出す大型肉食獣。
それを見送った男は首をポキリと鳴らして手をパンパンと払う。
「これ、熊撃退用スプレー。アイツら、鼻先と首元が弱点だから、そこを攻撃してやれば怯ませることは難しくないんだよな。さすがに殺すまではいかないけど」
淡々と、飄々と話す男に俺たちは絶句する。
「……それで、アンタら何? ゲームの参加者?」
何者かを尋ねたいのはこっちだったが、先を越されてしまう。
「ゲーム? 何ですかそれ」
「分かんないなら分かんないでいいよ。部外者ね。あ、そう。何しにこんなトコ来たの」
一番聞きたくないことを聞かれる。思わず利人と顔を見合わせる。
「ああ、いいよいいよ。言いたくないなら言わなくて。別にオイラも警察じゃないんだから、詮索なんかしないよ。フン――お兄さんたち、真面目そうに見えてなかなか悪いネ」
利人を指差し、ニヤニヤと笑う男。見透かされている。と言うか、手慣れている。
「まあさっきので分かったと思うけど、今この山はヤバいことになってるから、悪いこと言わないから、今すぐ帰った方がいい。それで、今日見たことはすぐ忘れるこったね」
「でも――」
「元々の用事が済んでないって? いい、いい。どうせ今日はこの山、滅茶苦茶になるんだから、お兄さん達が埋めようとしたものなんて、埋もれちゃうんだから」
そう言って肩を震わせる。笑っているらしい。俺たちが死体を埋めにこの山に来たことを完全に見抜いている。
「あ、でも、壊した祠――」
「お前ら、祠壊したのか!」
言葉に被せて、男が怒鳴る。突然の大声に俺たちは飛び上がる。
「それを早く言えよバカヤロー! 全然話変わってくるだろうがコノヤロー!」
ついさっきまで飄々としていたのに、突然の豹変に面食らってしまう。やはり、この山の祠を壊すというのはそれだけヤバイことだったらしい。
「……参ったな。そしたらお兄さんたち、もうアレだよ。生きて帰るのは諦めた方がいいかも分かんないね」
「そ、そんな……」
利人が悲痛な声を上げる。
確かに、今まで意味も解らずにいくつものモンスターと戦わされてきたけれど、事情が分かってるらしい人間にはっきり言われてしまうと、別の絶望感が襲ってくる。
「何とかならないんですか!?」
「何とか? 何とか、ね。まあ、生き延びる可能性もゼロじゃないよ。ゲームなんだから、勝てばいい。最後の一人になれば、そりゃ生きて帰れるけどね」
「さっきも言ってましたけど、ゲームってのは……」
「順を追って話すよ。立ち話もなんだから管理人小屋においで。茶くらい出してやるからさ」
がっこうぐらし!(2019) 原作:海法紀光(原案)千葉サドル(作画) 監督:柴田一成 主演:長月翠
#祠ネタ(ジジイ)




