生き返りの悪霊
一ヶ月後――
デス山は周囲から死の匂いのする存在を呼び寄せる。
デス祠を壊すことで現れる悪魔、デスデビル。
デスデビルの素手が光ると周囲が死ぬ。
デスデビルの「素手」の部分。
ろくでもない思考を、五時のチャイムが遮る。
オレは滝のように流れる汗を首にかけた白タオルで拭い、立ち上がり腰を伸ばす。もうこんな時間か。八月下旬、五時を過ぎても日は高く、気温も比例して高い。縁側に置いてある麦茶のペットボトルを手に取り、キャップを外して流し込む。もう今日だけで二リットルは飲んでいるが、飲まなきゃ、死ぬ。菓子盆に置いておいた塩飴の包装を外して口に放り込み、すぐにバリバリと噛み砕く。この塩飴も今日だけで二〇個は消費しているだろうか。この酷暑の炎天下で草むしりをさせるなんて、あまりに非人道的だと思うのだが――まァ、オレには抗議する権利などない。
別宅の裏庭は荒れ放題で、草むしりだけでもとても今日中に終わるとは思えない――が、やるだけやるしかない。オレは首筋の汗を拭って縁側から下りる。
その時、建物の脇に人影があるのに気が付いた。
ギンガムチェックの制服に身を包んだ女子高生である。
髪を真ん中から几帳面に分け、黒マスクをしている。
現代的で都会的な容貌と、手にした風呂敷包みが不釣り合いだ。
その人物はオレと目が合うとペコリと会釈してくる。
オレは慌てて白タオルを頭に巻き付けたのだった。
「驚いたな。まさか如月のトコのお嬢さんがウチに来るなんて」
数分後、オレは突然の来訪者である如月八千代を別宅の応接スペースに迎え入れていた。
応接スペースとは言っても座卓と座布団があるくらいの殺風景な空間だ。
旧式とは言えエアコンがあるのが救いか。
彼女とは二、三度面識があるがまともに話すのは初めてだ。杉原の回想では悪臭をごまかすためにペストマスクをしていたらしいが、今は普通の黒マスクだ。あれは人殺しと会う時専用の装備なのだろう。オレは除霊は沢山しているが人を殺めた経験はない。
……あの山では、怨霊を使役して二人の人間の首を飛ばしているのだが、直接手を下した訳ではないのでノーカンなのだろう。
「申し訳ありません。アポなしにいきなり」
「いいヨ。オレなんてそんな大層な人間じゃないんだから。何か飲む?」
「お構いなく――と言いたいところですけど、水分補給はしないといけませんね。冷たい水をください」
「できたら氷もください、ってか?」
「……? はあ、まあ、入れてもらえるなら……」
うわ、スベッた。
現役JKにポルノは分からないか。平成一桁生まれはすでにジジイということだ。最近の子って何を聞くんだろうか。ミセスとかか。あれはオレも聞いたが、集中力がないZ世代のガキが途中で再生止めないように一定間隔でメロディに変化を加えてて、ドーパミン中毒のガキ相手の商売って大変だなと思った記憶がある。
そんな取り留めもないことを考えながら、オレは八千代の前に水を置く。
「……寺生さん、何だか戸籍がないタイプの殺し屋みたいですね」
「誰が沖縄旅行の時のオードリー若林ダヨ」
「そうは言っていません」
澄まし顔でマスクを外し水に口をつける八千代。その顔からは如何なる感情も読み取れない。
「でも元気そうでよかったです。あの状態から生還できたなんて奇跡ですね」
一ヶ月前、鮫島主催の祠バトルロイヤルに強制参加させられたオレは因縁の深いおタカさんを相棒に暴れ回った。途中、頭脳明晰な殺人鬼である杉原利人と奴が召喚したゾンビ・東野史也と共闘しながら、何とか最終盤まで生き残った。
だが合成鮫を操る古賀がなかなか手強く、そこでオレは相棒を失い、自身の霊力ほとんどを使い尽くして何とか鮫を爆散させた。
鮫を失って精神崩壊した古賀は鮫島の誘導で山頂の祠を根こそぎ破壊し、妖怪軍団を召喚。
そこからはもう、混戦に次ぐ混戦だ。
杉原はゾンビ軍団を形成し、自身もゾンビ化。
一方の鮫島は吸血鬼軍団を率いて戦争が始まる。
ゾンビと吸血鬼の戦争なんて、決着がつく訳がない。
こんなの、無為だ。
徒に血と四肢と臓物が飛び散るだけだ。
命がもったいない。
そりゃ、禍々しいモンスターは人類にとって害でしかないだろうし、幾つもの人命を奪った殺人鬼は法的にも倫理的にも許される存在ではないのだろう。
だからと言って――その命を玩具にしていい訳ではない。
オレはどうしても鮫島が許せなかった。
だから、祠を壊した。
あの山を元々支配していた《存在》はその時に山にいたゾンビも吸血鬼も残った他の妖怪も、残らず消滅させた。
杉原と東野も、やられた。
離れていてもそれは分かった。
幽霊も人間もモンスターも、どんな存在でも必ず霊力はある。オレはそれを数キロ範囲内なら察知することができる。だから、下山の途中ではっきりと分かったのだ。
杉原と東野の霊力が消えた――と。
残念だとは思ったが、歩みを止める訳にもいかなかった。
結果、オレは無事に下山できた。
「……これのおかげだろうナ」
そう言ってオレは常に携帯している数珠を座卓に出す。
「それは?」
「現役時代の爺様――先々代が使っていたものダヨ。《存在》は先々代が当時の弟子全員とで苦労して封印したんだけど、この数珠には爺様の霊力が染み込んでいる。だから絶えずその霊力の波、霊波を発している。爺様の霊波を、《存在》は嫌がる。だからオレの前には現れなかったんだろうナ」
「それが分かってたから、祠を壊したんですか」
「違ェよ。あの時はそこまで頭回ってねェって。結果論だ。だいたい霊波を嫌がるって言ったって、ンなもん熊よけの鈴とかモスキート音とかと変わらねェレベルだよ。出る時は出るし、そうなったらオレも消えてた。だからまァ、やっぱり運が良かっただけダヨ」
杉原はことあるごとに自分の強運を誇っていたが、この件に関してはオレの運が勝っていたようだ。
「そうですか。まあ理由はどうあれ、生きて帰れたならよかったではないですか。人間、生きてこそですから」
その言い方に引っ掛かった。
そうだ、この娘はアイツの――。
「……えっと、アンタの兄貴のことは……」
「私が今日ここに来た理由は三つあります」
そう言って指を三本立てて見せる八千代。
色んな三選を教えてくれる男みたいだなと思ったが、黙っておいた。
「その一つが兄のことについてです。もし兄の死に関して責任を感じているのなら、やめてください。兄はあんなでしたが、プロの霊能力者で我が如月家の当主です。あの日あの山に入っていくことがどういうことなのか、理解し、覚悟を持っていた筈なんです。と言うより、日頃から口にしていましたからね。『いつも死ぬかもと思って仕事してるよ。これで死ぬなら、僕はそれまでの人間だったってことだ』と」
「アイツがそんなことを……」
オレが思っていたよりずっと覚悟が決まっていたようだ。元々有能ではあったのだし、オレ――と言うか寺生の家への過剰な対抗意識さえなければ別の未来もあったのかもな、と残念な気持ちになった。
「だけど意外だな。アンタ、兄貴のこと馬鹿にしてるのかと思っていたけど」
「尊敬はしていませんでしたけど、仲は悪くありませんでしたよ。歳が離れていたので相応に可愛がられてましたし。尊敬はしていませんでしたけどね」
「強調しなくていいっての」
「とにかく理由の一つ目に関しては以上です。二つ目――ここからが大事なんですが――あの山のこと、寺生さんはどうするつもりですか」
八千代の鋭い双眸が真っ直ぐにオレを捉える。
「《存在》のことか。如月の家は動いてないのか」
「《存在》、ですか――私は厄神の隠語と見ています。勿論、動いています。と言うか、上を下への大騒ぎですよ。ウチに残された人間たちにははっきり言って《存在》をどうこう出来る程の力はありません。一番優秀だった当主の兄もいない訳ですからね。今こそ寺生の家と協力すべきだと思うのですが、俗物の老人たちは沽券だの面子だの下らないことに縛られて、話になりません」
クールな八千代が家のことを愚痴る。相当に溜め込んでいるいるようだ。
「それで、オレにどうかしろと?」
「――責任、ありますよね」
スッと目を細め、低く言う。
そう言われると何も反論できない。
「責任しかないわナ」
「分かってますか。戦犯ですよ。戦犯ちゃんです」
「変な敬称つけるな。別の意味が乗っかってくる」
「あの状況で祠を壊した寺生さんの心情は分からないでもないです。ただ、それはそれとして事態を収拾させる責務も寺生さんにはありますよね」
「分かってるよ。分かってる。オレだってどうにかしたいと思っている。ただ二つの理由で今オレは動くことが出来ない」
そう言って二本の指を立てて見せる。
「一つ目、オレはあの山で霊力を使い果たしてしまった。もちろんそれで再起不能になった訳ではない。時間をかけて回復すれば以前の力は元に戻る――が、今はまだ万全じゃない」
「一か月経っても、ですか」
「一か月経っても、だ。まァ低級霊を祓うくらいは出来るだろうが、今回の相手はそんなレベルじゃねェ」
「寺生家は他にも霊能力者がいるでしょう。その人たちにフォローしてもらっても駄目なんですか」
「それは二つ目に関わってくるんだが――簡潔に言うと、オレは今、謹慎中の身なんダヨ。だから身内に協力は頼めねェ。祠を壊した件は寺生の家でも大問題になってな――特に先々代の爺様にはこっぴどく叱られたヨ。『お前、あの祠壊したんか!』ってサ――まさかその台詞をオレが言われる側に回るとは思ってもいなかったぜ」
「謹慎――それが貴方に課せられた罰則ですか」
「当然、それだけじゃねェ。ほら」
そう言ってオレは頭に巻いていた白タオルを取る。
八千代はオレの頭を見て一瞬目を丸くしたが、すぐ下を向いて肩を振るわせ始める。
「……人の坊主頭見て笑うのは流石に失礼じゃねェか?」
「申し訳ありません。いえ、あの、サッパリしましたね。夏らしくていいと思います」
声も震わせて適当なことを言っている。
「これだから嫌なんだヨ。まァ、これでもまだ伸びた方だけどナ。あのジジイ、容赦なく丸刈りにしやがって」
「よく似合ってます。私は今の方が好きですけどね――それにしても罰で坊主って、久々に聞きましたよ」
「それだけじゃねェ。一ヶ月の奉仕活動もプラスだ。掃除に洗濯、家の人間の飯の支度までしなきゃいけねェ」
「この時期なんて、簡単に素麺にでもしたらいいじゃないですか」
「素麺が簡単⁉︎ カー! これだから家のことしたことのないお嬢様はやんなっちゃうな! クソ暑い台所で人数分の素麺茹でるのは重労働なんだからな! 薬味や付け合わせも用意しないといけないしヨ!」
軽薄な見た目だから誤解されやすいが、修行中にしっかりと仕込まれたおかげで家のことは一通り出来るのだ。ただ、一人立ちした今になってまたやらされるとは思ってなかっただけで。
「……重ね重ね申し訳ありません。世間知らずの小娘が。失言でした」
「いいよ、オレも大人気なかった――んで、奉仕活動の総決算がこの別宅裏庭の草むしりだ」
応接スペースの掃き出し窓は裏庭に面していて、草ぼうぼうの様子がよく見える。
普段全く使っていないだけに、一切人の手が入っていないのだ。
「……広いですね」
「無駄に土地だけはあるからな。サッカーコート一面分はあるんじゃねェかな。見ての通り、半分も終わってねェ。謹慎期間は一ヶ月、つまり今日まで何だが、それはそれとして課された仕事は終わらせないと駄目だ。たかが草むしりって馬鹿にするかもしれねェが、けじめだからな。筋通しましょうや、ってヤツだ」
「……差し出がましいようですけど」
おずおずと小さく右手を挙手する八千代。さっきオレが強く言いすぎたせいで萎縮させてしまったようだ。
「いいよ、何でも好きに言いな」
「機械を使ったら駄目なんですか。芝刈り機とかあるじゃないですか」
「機械の使用は禁じられている」
「そうですか――謹慎は明けるって仰いましたけど、それなら協力者を集めることは出来るのではないですか。もう禊は済むのですから」
「いやァ、どっちみち難色を示されンじゃねェかな。これはあくまで如月家の案件な訳だし」
「厳しいですか……」
「オレの霊力は回復しきってない、協力者も集められない、庭の草むしりも終わらない、ついでにこの頭で人前に出たくねェ、以上四つの理由からオレは動けない。悪ィ、二つって言ったけど四つだったわ」
八千代は納得したのか諦めたのか無言で水のグラスに口をつける。カラン、と氷の音が鳴る。
「じゃあ私の方も三つ目にここに来た理由を話します――これが、出ました」
そう言ってずっと傍に置いていた風呂敷包みを座卓に上げる。
「それ、ずっと気になってたんだよな。とらやの羊羹なら嬉しいんだけど」
「そんな訳ないじゃないですか――見てもらえば一目瞭然です」
風呂敷を広げる。
中から出てきたのは、一枚の絵だった。
それを見て、オレは大きな声を出す。
「そ、それ――『指輪』じゃねェか!」
生前の川町孝子が描かれた肖像画で、巷では『呪いの絵』として有名だ。
捨てても埋めても燃やしても、返ってくる。
そして絵の所持者はそれを手にしてからきっかり一週間後に、首が捩じ切れて死ぬ。
噂は本物で、全ては川町孝子の底なしの呪力がさせること。
寺生の家は過去三度にわたり川町孝子と死闘を繰り広げてきた。
「また復活したのか」
そう、その呪いの絵は何度も復活する。
そして災厄を撒き散らす。
十五年前に先代が阿波鬼山に封印してからは完全に大人しくなったと思っていたのに。
ああ、そうか。
その祠も、オレが壊したのだった。
あの時は、祠を壊したオレをマスターとしてオレの相棒になってくれた。
その後、古賀のサメの餌になって、消えてしまったと思っていた。
それなのに、ここに来てまた復活するなんて――
「……でも、そしたらどうなるんだ」
「何がでしょう」
突然の出来事にぐるぐると自問自答を繰り返すオレに対して、半分ほどの歳の少女は静かに尋ねてくる。
「ここに来ておタカさんが――川町孝子が復活したとして、その中身はどうなる? 記憶は連続してるのか? 昔のようにひたすら怨嗟の呪力で首を捩じ切る怨霊なのか、それともオレに味方してくれる相棒なのかどうかって意味だが……」
「――この絵、兵庫県のとある資産家邸宅の蔵でちょうど一か月前に発見されたそうなんですが」
オレの疑問には答えず、八千代は淡々とこの絵が発見された経緯を話し始める。
呪いの絵は毎回ランダムな場所で唐突に発見される。
因縁も脈絡もない完全なる無差別で、何も知らずに一週間、絵を保持し続けるとその所持者の前に川町孝子が現れ、首を飛ばされ絶命する。
毎回そのパターンの筈――だったのだけど。
「今回、絵の所持者は亡くなっていません。今も元気に暮らしています。ただ――妙な夢を見ると言うんです」
「夢?」
「生首の夢です」
不意に体の奥がカッと熱くなるのを感じた。
「巨大な蛇の鎌首が吹き飛ぶ映像を始め、中年男性の生首、オレンジ色のリボンをつけた少女の生首、縦長の頭をした宇宙生物、巨大なゴリラ――そんな脈絡のない面子の生首が飛ぶ夢を、延々と見るそうです。絵の持ち主は恐怖よりも意味が分からな過ぎて、色々と周囲に相談したらしいんですが、誰かが突如として現れた謎の絵のせいじゃないかと推察して、それで如月の家に相談案件として寄せられたんです。ここに持ってきたのは私の独断です。川町孝子のことなら寺生家の方が適任だと判断した訳です。バレたら私も糾弾されるでしょうが、老人たちが何を言おうが知ったことではないです」
「……その夢に出てくる生首ってのは、あの山でおタカさんが実際に吹き飛ばした面々だ。つまりあの山での記憶が残っているってことだ。でも、何でそれを夢として見ず知らずの他人に見せたりするんだ」
「貴方に対するメッセージじゃないですか。自分はここにいて、あの山での出来事を覚えているぞという――」
八千代の言葉を聞きながら強烈な違和感を感じた。
そしてそれはすぐに分かる。
ずっと座卓に置いたままになっていた『指輪』の絵が――
空っぽになっているのだ。
本来そこに描かれている筈の川町孝子が、いなくなっている。
それは、つまり。
「いつの間に外に出たんだ⁉︎ 気を付けろ! 部屋のどこかにいるぞ!」
霊能力者でもない女子高生に気を付けろも何もないのだが、そう言うしかなかった。
オレは慌てて数珠を握りしめて周囲を警戒する。
その必要はなかった。
彼女は、オレの真後ろに立っていたからだ。
白いワンピース。大柄。裸足。前髪が目を覆い隠している。
全ての要素があの日あの山で見た、そのまま。
本当に復活したのか。
オレに、会いに来てくれたのか。
「お、おタ――」
声をかけようとしたが、すんでのところで飲み込む。
彼女の髪がうねり、持ち上がり、ほとんど黒目部分のない双眸が露わになる。
一瞬でオレの警戒心はピークを超える。
呪いモード発動だ!
首が飛ぶ!
いや、彼女の呪力に対してオレは無効スキルがあるから大丈夫だが、すぐ後ろにいる女子高生は違う!
この距離感では八千代まで巻き添えを喰う!
いきなりの連続で狼狽える八千代の前に立ち、数珠を構えて臨戦体勢をとる。
何が記憶は連続していて、オレの味方の相棒になってくれるだ!
昔と変わんねェじゃねェか!
オレは混乱する。
しかし――生き返った悪霊はオレも八千代も相手にせず、静かに庭に面した掃き出し窓に向かう。
触ってもないのに、勝手に開く掃き出し窓。
そして、彼女は外に向かって『呪力』を放つ。
ザザザザアアア――
地面が持ち上がったのかと思った。
庭を、緑の津波が走っていく。
違う。
庭の雑草が全て端から抜かれているのだ。
おタカさんの『呪力』で。
誰もが目を奪われてく、庭の雑草を全て抜く悪霊。
抜き取られた雑草は庭の隅にまとまって草の山を作る。
呆気に取られるオレの方におタカさんは向き直り、両手を差し出す。
「え、な、何だ?」
困惑するオレの手を取り、再び髪をうねらせ、目を剥くおタカさん。
瞬間、二人の繋いだ手が光る。
熱いものがオレの体に流れ込むのがはっきりと分かる。
体温が上がって発汗し、頭がクリアになり、肉体労働の疲れが吹き飛ぶ。
無限の呪力をエネルギーに変え、オレの体内に流し込んだのだろう。
それによりまだ当分かかると思っていたオレの霊力が、完全に回復する。
むしろ以前より強力になってるぐらいだ。
「あ、髪が……」
後ろで八千代が呟く。
坊主だったオレの髪が伸び、瞬く間に襟足を隠すのが分かる。
霊力だけでなく、オレの長髪まで復活したのだ。
「草むしり、機械の使用は禁止でしたっけ。機械は使ってないですもんね――討伐に行けない四つの理由、全部なくなりましたね」
「庭の雑草が全て抜けて、霊力は前以上になって、髪も伸びて――ん? 協力者は?」
「強力な助っ人が目の前に現れたじゃないですか。風呂敷の中で今までの会話聞いていて、障壁を払いに出てくれたんでしょうね。この怨霊さん、寺生さんが使いこなしたらさぞ強いんでしょうね」
「『このバイク、マッキーが乗ったらメッチャかっけぇだろうな』みたいに言うな」
八千代に軽く言ったオレは改めておタカさんの方を向く。
「……おタカさん、オレと一緒に、あの山に行ってくれるのか?」
オレの誘いに、コクコクと頷くおタカさん。
庭の向こうを散歩中の背の平らなモンゴル犬がワンと吠えた。
今年の夏は、まだ終わりそうにない。
犬神の悪霊(1977) 監督:伊藤俊也 主演:大和田伸也
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