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残影 -近付いてはいけない山-

 叫び声がした方から、鮫島の姿が見える。

 尻もちをついて後ろ手に後ずさっている。

 

 その前に出てきたのは――吸血鬼伯爵だった。


 この大戦争の発端になった、鮫島陣営の大将格だ。

 幾つかある弱点攻撃以外は通じず、仮にダメージを与えても瞬時に回復してしまう不死身の化け物貴族――


 の、筈だったのだけど。


 様子がおかしい。


 両手を前方に伸ばしてヨロヨロと歩いていたかと思えば、すぐその場に膝をついてしまう。


 裏地が赤い夜会服のマント――その裾が、サラサラと崩れている。


 いや、マントだけではない。

 足が、腕が、顔半分が、瓦解していく。

 砂浜に作られたサンドアートより、更に脆い。


 俺らが呆気にとられる前で、不死身な筈の吸血鬼伯爵は完全に塵芥(ちりあくた)になってしまう。


 吸血鬼が、すぐ死ぬなんて。


「ああああああ! ああああああああああ!」


 それを目の前にした尻もちの鮫島は限界まで目を見開いて喉が潰れんばかりの絶叫を上げている。


 その奥から、来たモノ。


 悪魔が、出てきた。


 頭には鋭い角を、尻には先の尖った尻尾を生やし、全裸で、口元には薄ら笑い。


 中でも特徴的なのは宣誓をするように上げた右手で――五指が、眩く光っている。


「な、なんだコイツウウウウウウウウウウーッ!?」


 利人が頓狂な叫びを上げる。

 俺も同じ気持ちだ。

 これが、この山に最初に封印された怪異だというのか?


『見た目に騙されンなよ』


 まだ通話が続いていたらしく、スマホの先の寺生が警告してくる。

『そこに杉原と東野、いるんだろ? もう誰かやられたか』

「吸血鬼が砂になりました。『アベンジャーズ/インフィニティウォー』のクライマックスみたいです」

 その映画は俺も見た。既視感の正体はそれか。

「でも吸血鬼は不死身じゃなかったんですか」

『オレ達は《存在》と呼んでたが――ソイツの前では、不死身とか強い弱いとか関係ない。目をつけられたら塵になるんだ。必ずなる。そういう不条理に形を与えたのがそこにいる《存在》だ』


「だ、誰でもいいから私を守れ! 吸血鬼たち!」

 少し冷静さを取り戻したらしい鮫島が誰に言うでもなく命令する。

 すぐにいくつもの蝙蝠が鮫島の前に現れ、それはぬらりひょんになり、おかっぱの少女になり、ミイラ男になってダッシュ婆になった。鮫島を守る眷属だ。


《存在》の人差し指が光る。

 

 吸血鬼ぬらりひょんは蒼い炎に包まれ、ただでさえ大きい頭が極限まで膨れ上がり爆散する。


《存在》の中指が光る。


 おかっぱの少女は口から大量の水をマーライオンのように吐き出し、ぶよぶよに膨れてその場に倒れる。


《存在》の薬指が光る。


 ミイラ男の内側から無数の槍が体を突き破って現れ、巨大な剣山になって動かなくなる。


《存在》の小指が光る。


 ダッシュ婆はぺしゃんこに圧縮されて、薄汚れた大きな丸い紙になる。


「う、うわああああああああああ~!」


 鮫島が泣き叫んでいる。涙と鼻水で顔がグショグショだ。


『《存在》の攻撃は完全ランダムだ。砂になって消えたのは優しい方だな。ちなみに、過程はどうあれ指が光ったなら対峙した相手は必ず消える。例外はない』 


「ななな、なんてものをふ、復活させたんですか!」


 思わず声が出た。


『悪く思うな、って言っても無理だろうナ。オレなりに、この戦争を終わらせようと思ったんだ。だが今のオレには力がねェ』

「それで破壊神復活ですか!? やってること自爆テロですねェ!? 今、僕は冷静さを欠こうとしていますよォ!?」

『言い訳はしねェヨ。オメェらも、逃げるなら早い方がいいぞ』

「ににに、逃げるって!? しゅしゅしゅ、瞬間移動するんでしょ!?」

『それでもその場に留まるよりマシだろ』


「わが吸血鬼軍はまだ敗けてオリマセン!」

 そこで現れたのが吸血鬼愛理である。

 すっかり戦意喪失かつ精神崩壊してしまった鮫島を担いで走り出す。

「あ~、でもでもこのあたりってじめんがデコボコで歩きにくくてえ~」

 ヤドンか。

 数瞬遅れて、利人も僕を肩に抱えて猛ダッシュを始める。

 関節が硬直している俺はもう走れない。

 だから代わりに、ゾンビ化して怪力を手に入れた利人が足になってくれるらしい。

 一時間前とは完全に立場が逆転している。


「さっきから不思議だったんですけど、この山のモンスターは鮫島村長には手出しできないんじゃなかったんですっけェ!?」

 俺を抱えて走りながら、スピーカー状態のスマホと通話を続ける利人。

 

『そりゃあくまでゲームのために用意した他のモンスターに限った話ダナ。『祠を壊したらモンスターが召喚されて、そのモンスターは祠を壊した人間を守る』ってのは、このデスゲームのために作られたルールだ。んで、『鮫島は山の所有者だから召喚モンスターは攻撃できない』ってのもあくまでその延長線上の話。元祖の《存在》にはゲームなんて関係ない。普通に封印が解かれたから出てきて暴れているだけ。相手がどこの誰だろうが関係ねェよ』

 むしろ――と、スマホの向こうの寺生は言葉を続ける。

『この山にある馬鹿みてェな数の祠は、真に封印しておきたかったモノをカモフラージュする意味合いもあったんじゃねェかな』

「どこかの誰かが壊したおかげで、文字通りぶち壊しですけどねェ!」

『壊したのは鮫島自身だヨ。こんな馬鹿げたゲームを開催しなきゃ、自分の首を絞めることもなかった』

「ファラリスの雄牛を製作したのに自分自身を処刑するのに使われたペラリウスみたいですねェ!」

 利人が言うが、俺は消しゴムマジックのCMに出ていたのに自身の失言による炎上のせいで後になって出演番組から丸ごとカットされる憂き目にあった女性タレントのことを思い浮かべていた。


「ああああああああ~~~っ!」


 愛理に担がれている鮫島が叫ぶ。


「ううううるさい!」

「やばい史也、前だ!」

 利人に言われて前を見ると――


 ――そこに、奴はいた。


 薄ら笑い。


 指が――光る。


 愛理はなす術もなく、両手を後頭部で組み肘を上げて『無理でござる』のポーズを取る。


 降伏したようだ。


 瞬間、愛理の体がサイコロステーキのような無数の小さな立方体に分解し、バラバラと崩れる――と思ったら、小さな立方体はその場で積み上がり、巨大な一つの立方体になる。

 その表面の一つに、大きく愛理の顔がある。


「いや、そうはならんやろ」


「ナットルヤロガイ!」


 利人のツッコミに愛理が返す。

 次の瞬間、立方体愛理はパカッと開いて展開し、平べったい紙になる。

 中には何も入っていない。

 そして、そのまま――消える。


 愛理に担がれていた鮫島はその場に落とされる格好となり、這いずって逃げようとする。


 指が光る。


 鮫島の目と鼻と口から大量の血液が溢れ出る。

 それは全身に巡り、全ての毛穴から血が噴出し、それは噴水のように噴き上がる。

 血の柱だ。

 全ての血を吹き出した鮫島はミイラになり、そのまま粉々に砕かれて、消える。


 とうとう、鮫島がやられた。


 利人は俺を抱え直して、《存在》とは別方向にダッシュを始めた。

残穢 -住んではいけない部屋-(2016) 原作:小野不由美 監督:中村義洋 主演:竹内結子


#吸血鬼すぐ死ぬ

#ヤンガンティタン

#ONE PIECE(この戦争を終わらせに来た)

#風の大地(今、僕は冷静さを欠こうとしています)

#日本は敗けておりません

#ギャルヤドン「あ~、でもでもこのあたりってじめんがデコボコで歩きにくくてえ~」

#消しゴムマジックで消してやるのさ

#無理でござる

#鬼滅の刃(サイコロステーキ先輩)

#ポプテピピック(「そうはならんやろ」「なっとるやろがい!」)

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