マウンテンウォー ZvsV Mountain War ZvsV
戦争が始まった。
ゾンビモンスターvs吸血鬼モンスターの総力戦だ。
あちらこちらで血が飛び散り、四肢が舞い、胴が切断されて首が飛ぶ――文字通りの地獄絵図だ。
『生きている』と『死んでいる』の間に、『生きてないけど死んでない』がたくさんある。
少なくとも、ここではそうだ。
咬まれてゾンビ化して、吸血されて吸血鬼になっての繰り返し。
顔が青くなったり白くなったり、忙しくて仕方がない。
ただ徒に凄惨なバトルが続くだけで、これでは千日手、ステイルメイトだ。
利人の狙いはただ一つ――鮫島の首。
だけど村長を傷つけることが出来るのは利人と愛理、あとは桃と杏子姉妹しかいない。
利人は必死になって鮫島に近付こうとするが、無数の蝙蝠に邪魔されてなかなか前に進めないようだ。
「あァ! うるさい眷属たちだなァ! 屠っても屠ってもキリがないですよォ!」
叩き潰し、蹴り落とし、捕まえては咬み千切ってを繰り返すが、次々と蝙蝠は湧いてくる。吸血鬼モンスターが変身して主である鮫島を守っているのだ。
「絞殺専門で三〇人弱の人間を殺した殺人鬼とは言え、完全頭脳派だったのに随分とアグレッシブになりましたね……。アルジャーノン現象ですか? 不意に得た力でまあ、元気いっぱいだ」
眷属が守ってくれる鮫島はポケットに手を突っ込んで余裕のポーズである。
「アルジャーノンに花束を! いいですねェ! 僕はねェ! 降ろした霊が稀代の飲兵衛で酒の力で能力を発揮するんですが、主人公にアルコール耐性がないせいでベロベロに酔っ払う場面が好きでねェ!」
「……何の話をしてますか」
「やだなァ! そこは『それは《アルジャーノンに花束を》じゃなくて《あるシャーマンの赤ら顔》じゃないですか』って言ってくれないと!」
「分かる訳ないでしょ。君、あの名作を読んだことないんですか」
「読んだうえでの軽口に決まってるでしょうがァ! 主人公はアルジャーノンじゃなくてチャーリイ・ゴードン! ユースケ・サンタマリア版のドラマでは藤島ハル、山下智久版では白鳥咲人ですよ! 僕は怪力で活躍してくれている首にボルトに刺さった彼のことをずっと『フランケン』と呼んでますけど、それは博士の名で彼は『フランケンシュタインの怪物』です! もっと言えば、殺し屋に守られるおかっぱ頭の少女は『レオン』ではなく『マチルダ』! 剣を振り回す緑色の少年は『ゼルダ』ではなく『リンク』! バイクを乗り回す赤いジャケットの少年は『AKIRA』ではなく『金田』、その彼と対峙するデコ助も『AKIRA』ではなく『鉄雄』です! あと貴方さっき僕が殺したの『三〇人弱』って仰いましたけど、三十二人だから『三〇人強』の間違いですからね! 弱ってのはその数値より少し少ない値であることを示す言葉なので!」
襲い掛かる蝙蝠に翻弄されながら、よくもまあべらべらと喋れるものだと感心する。
それに対し鮫島は何も答えず唐突に話題を転じる。
「……あそこに街の灯が見えますね」
「申し訳ない! 今よそ見している余裕ないんで!」
「見えるんですよ、ここからだと。君はだいたい年に何人の女性を絞め殺しましたか?」
「五人くらいですかねェ」
「最初に殺人をしてから何年になりますか」
「六年くらいですか」
「君が殺した女性、三十二人でしたか? あの向こうに見える街の灯――その一つ一つが、平和で穏当な暮らしの証です。もし君がそんなことをしなければ、今頃君もあの中で平穏な暮らしが出来ていたんですよ」
「平穏な暮らしなんか大ッ嫌いだ!」
一際大きな声を出す利人。
「平和、安穏? 大ッ嫌いだ! そんなモン求めるかバーカッ!」
しつこくついばもうとする蝙蝠を握り、頭を咬み千切り、その死骸を地面に叩きつけ、吐き捨てる。
「畜生めーッ!」
「……なんで総統閣下みたいなキレ方なんだ」
「僕はね、世間一般の人々が当然のように抱く欲望や欲求が欠落しているんです!」鮫島の当然のツッコミを無視して利人は続ける。「食べ物なんて最低限でいいし、可愛い女の子とデートしたいとも思わない! 人より優位に立ちたいとも、認められたいという気持ちも皆無だ! 何にも興味がないから、何も楽しくない! 虚無だよ! 虚無人間だ! 僕には首が美しい女性を絞め殺したいという欲求しかない! それが全てだ! だから、それを脅かすアンタは消さなければならない!」
「……それで? 生き残って、この山を下りて、絞殺人生に戻るんですか――そこのゾンビと共に?」
「そこのゾンビ? ……史也のことを――史也のことを言ってるんですかァ! あのなァ、史也は親友だ! そりゃ最初は僕の手駒の一つとしか思わなかったよ! でもねェ、コイツは今まで僕のことを本当に命をかけて守り抜いてくれた! 今となっては誰より大切な存在だ!」
「手足を切り取って十字架に利用したのにですか?」
「史也はね! 硬直が進んで、今はもう戦うどころかまともに歩くことすら難しい体になってるんですよ!」
俺を一瞬見て、史也は言う。
ちなみに吸血殺人鬼たちの胸を刺した手足は回収して、今は五体満足な体に戻っている。
だけど――そう、もう俺はほとんどまともに動けない。
愛理や妖怪、そして利人自身がゾンビ化して集団で戦ってくれているおかげで目立たないが、僕はもう、戦闘では役に立たないのだ。せめて邪魔にならないように端によって観戦するだけ。体調不良で体育を見学している児童みたいなものだ。
お荷物だと、思っていた。
「でも関節が硬直してピンと張っているおかげで、十字架にしても杭にしても美しい出来栄えになった! あれは史也の手足じゃないと駄目だった! 動けなくなっても、史也は必要なんですよねェ!」
そんな俺にも、利人は役割を――存在理由を与えてくれた。
どうやら、俺はまだここにいていいらしい。
「美しい……? まあ、ゾンビの美的感覚など知ったことじゃないですけどね――ん?」
そこで、鮫島が何かに反応する。
ポケットから取り出したスマホが振動しているのが分かる。
着信したらしい。
その画面を見た鮫島の眉間に皺が寄る。
「如月さん……?」
ワールド・ウォーZ(2013) 監督:マーク・フォースター 主演:ブラッド・ピッド
#『できる』と『できない』の間に『できるけど疲れる』ことがたくさんある
#アルジャーノンに花束をってこんな話だよね
#〇〇弱ってどのくらいの数字
#あれは私のベンツですけど。
#総統閣下シリーズ
#クリリンのことか




