死霊の四肢 The Moral Dead
「いい加減、こちらから仕掛けて構いませんかね」
それから数分して、待ちくたびれたように鮫島が声を上げる。
利人や俺が裏でコソコソしてる間、鮫島と吸血鬼軍団はピクリとも動かずに待機してくれた。紳士協定と言うより舐めプであり、こちらがどう出るのかを楽しみにしているのだろう。悪趣味がアルマーニを着ているような男だ。
「いやァ! お待たせしましたねェ! どんどん来ちゃってくださいよォ!」
威勢のいい利人の言葉がゴング代わりになる。
とは言え、吸血鬼化した殺人鬼三人は依然として脅威であり、今はそれに加えて機動力と火力に優れた愛理と口裂け、巨大な体から繰り出すダイナミックな足技が売りの八尺様が敵に寝返ってしまった。まともに受け入れたのなら苦戦は必至。
だから。
モンスターゾンビ軍団の影に隠してあった『それ』を、さっさと出してしまう。
二つの、十字架だ。
一つは猩々が、一つはフランケンが掲げている。
いわゆるラテン十字で、縦の長い方は八〇センチ、横の短い方は六〇センチ。
形だけ見るなら、普通の十字架だ。
形だけ見るなら。
問題は素材である。
それは、俺の脚と腕で作られていた。
姦姦蛇螺が吹き飛ばした俺の四肢だ。
てっきり片腕しか吹き飛ばせないものと思い込んでいたが、本人がその気になれば両手両脚全て吹き飛ばすことができるらしい。
それを膝と肘の位置で括って、十字架の形にしたのだ。
右脚と右腕で作った十字架はフランケンが、左脚と左腕のは猩々が持っている。
幸いと言うべきか関節の硬直が進んでいたため、うまいこと垂直に交わらすことが出来た。
括ったのは桃が持っていたタッセルだ。
かつてポルターガイストの手先になり拘束具として活躍したタッセルが、何故桃のワンピースのポケットに入っていたかは知らない。
何かの拍子に入ったのかもしれないし、何か意図があって取っておいたのかもしれないし、まあどうでもいい。
とにかく、俺の脚と腕で拵えた十字架が二つ。
残された俺は四肢を失った、いわゆるダルマ状態になっている。
俺のこともどうでもいい。
問題は、この十字架を見た吸血鬼たちだ。
効くか。
効くのか、これが。
利人、信じているからな。
最初に反応したのは吸血鬼愛理だった。
「――フッ」
空気が漏れる音。
「アハハハハハハハハ! エー! マジ手足! キモーイ!」
抱腹絶倒である。
『そんな発想が許されるのなんて、小学生マデダヨネー!』
八尺様も愛理の声真似で同調する。
「流石に引くわ」
テンションの低い口裂け。
「……あの、いいですか」呆れた口調で鮫島が口を開く。「吸血鬼が十字架に弱いと言うのは、邪悪な存在であるが故に神の加護や信仰に弱いという意味合いで、身も蓋もない言い方をすればキリスト教の権威付けのための後付け設定となる訳なんですけど――いずれにせよ、十字架というのは神聖なものであるがあるが故の吸血鬼の弱点である訳です。それは何ですか、全然違いますよ。おばあちゃんに車輪を付けたら自転車になるって言ってるようなもんです。良い機会です、一つ覚えておくといいですよ、杉原君――ゾンビから切り取った手足で作った十字架は、神聖から最も遠い存在ですよ」
「だから何ですかァ!? 効くかどうかが大事なんじゃないですかねェ!? アンタらは、全員殺す!」
「あまり強い言葉を遣わない方がいいですよ――弱く見えます」
「アタシらがゲラゲラ笑ってるんだから効いてないのなんて見りゃ分かるデショ⁉︎ ば〜〜〜〜〜っかじゃナイノー!」
叫びながら爪を振りかざす愛理。
彼女が飛び掛かってくるより数瞬だけ早く、河童がとある物を投擲する。
それは愛理の足に絡みつき、彼女はその場に転倒する。
「な、何ですかコレー!」
「タッセルだよ。今僕にバカって言ったか?」
「タッセルって何デスカ……」
愛理の質問に答える人間はいない。
彼女の横では口裂けも同様にタッセルか絡みついて身動きが取れなくなっている。
「それが何だって言うんですか。そんなもの簡単に解け――」
鮫島が言い切るより早く、フランケンが俺の右脚を全力で投擲し、それは風を切りながら一直線に飛んでいって、ドス、と鈍い音を立ててホッケーマスクの胸に突き刺さる。
スローモーションで、両手を広げて後ろに倒れる殺人鬼。
同じように右腕も投擲し、それは白塗りマスクの胸に突き刺さる。
猩々が投げた左脚は皮袋の胸にヒット。
続く左腕は八尺様に投げられたが、僅かに狙いが逸れて左脇腹を抉るだけで貫通してしまった。
だが吸血殺人鬼三人の胸に俺の脚や腕を突き立てることには成功した。
「僕からも一つ教えて差し上げますよォ! 吸血鬼はね! 心臓を杭で貫かれると死ぬんですよ!」
『そんなのあらゆる動物がソウデショ⁉︎』
八尺様が愛理の声でもっともなことを言うが、無視された。
「十字架じゃなくて、杭だと――バカな! 杭って、ゾンビから切り取った手足じゃないですか! こんなのノーカンですよ! ノーカン!」
鮫島が珍しく声を荒げる。
「だからタッセルって何デスカー! こんなのほとんど紐じゃナイデスカ!」
ようやく解いたタッセルを地面に叩きつけながら、布地面積が少なすぎる水着にキレるグラビアアイドルみたいなことを言ってしまう愛理。
「と言うか、いくら怪力でも、投げた手足が体に突き刺さるものなの」
もう普通に喋っている口裂け。
もちろん多少の工夫はしてある。姦姦蛇螺に吹き飛ばされる直前に両手とも五本指をすぼめて尖らせた形にしておいたのだ。足の指で同じことをするのは難しかったが、それでも出来るだけ鋭角な形にした。
そこを雪女の吐息で凍結させ、硬度を増した。
要するに指先を矢尻にして突き刺さりやすくした訳だ。
とは言え、それを質問主に教えてあげたりはしない訳だけれども。
皆が皆、自分が言いたいことを言っている状況の中、利人は一拍置いて落ち着いた口調で言う。
「……別にこれで本当に吸血鬼が倒せると思った訳ではありません。ただの奇襲です。余裕綽々の相手が焦る様子を、僕も観察したかったのでね。やることはこれまでと変わりませんよ――ほら、今も」
利人が顎をしゃくる先、ホッケーマスクの肩には首を伸ばしたろくろ首が齧りついている。いつの間にか眼球は取り戻している。
そして白塗りマスクには杏子の首が、皮袋には鬼の首が咬みついている。
「あっ、いつの間に!」
慌てて近くにいた吸血鬼モンスターが蹴散らすが、すでに遅い。
吸血殺人鬼はゾンビ化して、ゾンビ殺人鬼になる。
青く爛れた肌のゾンビと白い肌で牙を剥き出しにした吸血鬼――咬んだり吸血されたりで、パタパタと立場が入れ替わる。
将棋と言うより、これではオセロだ。
「どうせ大蒜も銀の銃弾も効かないんでしょ!? 貴方がわざわざ口にするってことはそういうことだ。一縷の希望を持たせて、こっちが頑張って弱点を突いたところで『実は弱点じゃありませんでしたあ』って言うんですよねェ!? 貴方はそういう人間だ! こっちも馬鹿じゃない、付き合ってられるかってんだ! だから弱点はもういい! ここからは純粋に、数と力の勝負だ!」
結局――そうなるのか。
奇襲は一回しか通用しない。
ここからはもう総力戦だ。
咬んでゾンビ化させて、吸血されて吸血鬼化されて。
それはもう、将棋でもオセロでもない。
「よろしい――ならば戦争だ」
鮫島が両手を広げて宣言した。
死霊のはらわた(1981) 監督:サム・ライミ 主演:ブルース・キャンベル
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#HELLSING(よろしい、ならば戦争だ)




