性 SAGA
ゾンビの大群が山を行軍する。
生首杏子を抱えた桃、半魚人と、見えないがそこにいるであろう透明人間、愛理と口裂け女、鬼の首を胸元に抱えた河童、天狗、猩々に雪女、ろくろ首――皆一様に青く爛れた肌をしている。
ただでさえ脅威であるモンスターがゾンビ化、それが集団。
しかも、それを束ねるのは知将・杉原利人だ。
「ろくろ首は首を伸ばして索敵、見つけたら合図。一番大柄な猩々がタンク役になって、機動力が高くてかつ火力の高い愛理、口裂け、半魚人は前衛、天狗は葉団扇で巻き起こすつむじ風で、雪女は凍結させる息で後方支援。桃は杏子の首を、河童は鬼の首を投擲して攻撃。相手との相性もあるから攻撃が通らないと思ったら無理しないで下がって。あと、攻撃自体は自分の得意なスタイルでいいけど、ある程度ダメージを与えて戦闘不能にしたら、必ず咬んで感染させて」
先程までのバカみたいなテンションは押さえて、即興で戦術を練り上げている。
軍師、あるいは棋士。
さっき口にした将棋発言ははあながち戯言ではないようだ。
「杉原、ちょっと待て」
後ろからの声。
寺生だ。
「オメェは、何が目的なんだ?」
「目的? 愚問ですねェ、寺生さん! そんなの勝つために決まってるじゃないですかァ!」
またバカテンションに戻る。うるさい。
「いやだから、何のための勝利かって聞いてんダヨ。オメェがゲームに巻き込まれた無関係の第三者じゃなく、ゲームの参加者だってのは、はっきり言って最初から察してた。で、それはさっきの話で確信に変わった」
「聞いてたんですかァ!?」
「盗み聞きとか言うなよ。あんな狭い小屋だ、そりゃ聞こえるよ。正直、オメェが口裂け女に刺された頃には半覚醒状態で、話は全部聞こえてたんだよ」
「そうですかァ! そりゃさぞガッカリしたでしょうねェ! 秀才だと思ってたのに、嘘つきのサイコパスだったなんて!」
「いや大方予想通りだったよ」
つれない寺生の返答に、バカテンションのゾンビ利人は唇を突き出し、右手を腰の後ろに回して左手をパーの形にして頭上に掲げる。
「いや何でトムとジェリーのさかなのポーズなんだよ――話を戻すぞ。ゲームの参加者で勝利を目指すのであれば、殺すべき人間はまずオレだよな? 運営側含め、ゲーム参加者はもうオメェとオレしか残ってねンだ。あとは召喚されたモンスターと、主催である鮫島だけだ――まァ、東野があちこち咬んだせいで色々ゾンビ化してややこしい状況になってる訳だが――」
そう言われると何だか申し訳ない気持ちになる。
俺だって、こんな状況になるとは思わなかった。
「確かに、バトルロイヤルの優勝を目指すなら貴方! 寺生さんを倒さなければならないし、はっきり言っておタカさんをなくしてなおかつ霊力を使い果たした今の貴方なんて、その気になればいつでも殺せました。朝飯前の赤子の手を捻るより容易です!」
「朝飯食ってない赤子の手を捻るなよ。可哀想だろ」
「そうしなかったのは何故か! そう! 僕が貴方のことを尊敬しているからです! 僕は今まで周囲から頭がいいだの要領がいいだの言われてきましたけど、そんな僕から見ても貴方は優秀で、殺すには惜しい人材だと思ったんです!」
「そうかい。そりゃ、どうもね」
全く嬉しくもなさそうに寺生は言う。
「寺生さん――貴方も、ゾンビになりませんか?」
「はあ?」
「ゾンビはいいですよ。老いないし、死なない。至高の領域に踏み入れるんです。ゾンビになれば百年でも二百年でも戦い続けられます。強くなれます」
「それにオレがイエスと言う訳ねェだろ。露骨な流行りネタに乗っかかりやがって。と言うか、質問に答えろや。優勝が目的じゃないンなら、何のために勝とうとしてンだ」
「僕が狙ってるのは、貴方の首じゃないーーもっと上だ」
人差し指を上に向けて、利人は笑う。
「ドフラミンゴみてェに言うな。上ってのは鮫島のことか」
「話を聞いてたならご存知でしょうが、僕は今まで三十二人の人間を殺めてきたんです。その内、半分はこの山に埋めました。どうやらそれを監視されていたようで、殺人及び死体遺棄の証拠をガッチリ掴まれてるんです。仮にバトルロイヤルに優勝して生きてこの山を降りたところで、首根っこを掴まれている状態だ。自由に動けないんじゃ、生きている意味がない」
「オメェの言う『自由に生きる』ってのは、気に入った女の首を絞めて社会生活を送るってことか?」
淡々と聞く寺生。
「悲しい性ってヤツでしてねェ! どうやら僕はゾンビになっても殺人衝動が捨てられそうもない! むしろより顕著になったとも言える!」
「ああ、そうかい……別にここで倫理をとやかく言うつもりはねェよ。ただ――オメェ、ゾンビになったんだぞ? それで人間社会に溶け込むつもりか?」
「メイクをすれば余裕でしょう。僕の擬態能力を舐めてもらっちゃ困りますよォ!」
「ちなみに優勝した暁にはそこの東野もついてくるんだけど、ソイツにもその『擬態』させるつもりか」
「大丈夫ですよ。どこからどう見ても人間だし」
「どっから見ても人間だと? どこに首とれる人間がいンだよ。頭腐ってンのかバカゾンビ!」
山小屋でオレともした問答を繰り返すが、寺生はさらにばっさりと切り捨てる。
「いくら何でも舐めすぎだ。やめとけ」
「ご忠告どうも! でももう進軍は止められませんからねェ! 僕たちは必ずや全てのモンスターを殲滅して、鮫島の首を取って見せますよ!」
「……好きにしな」
もう何を言っても無駄だと判断されたのか、寺生はそっぽを向いてどこかへ行ってしまう。
彼が去って数秒、後方と前方から同時に押し寄せる影があった。
後ろから来たのは、目玉を内包した青い球体と、青い肌をした蛇女、大男、怪人、魔女という西洋妖怪集団。
こちらもしっかりゾンビ化して、加勢してくれるらしい。
そして前から来たのは、ろくろ首。
利人の指示通り長い首をにょろにょろと伸ばして索敵していたらしいが、敵襲を知らせに来たらしい。
愛理と違い言語能力を持たない彼女だが、それでも接敵したことは一目で分かった。
利人に伸ばした首の先の顔――本来あるべき二つの眼球が、完全に失われていたからだ。
劇場版『ゾンビランドサガ ゆめぎんがパラダイス』(2025) 監督:宇田鋼之介 主演:本渡楓
#さかな(トムとジェリー)
#鬼滅の刃猗窩座語録(お前も鬼にならないか?)
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