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こどものあそび Child's Play

 何かないかと体中を探した俺は、そこで天啓を得る。

 尻ポケットに入っていた『それ』を、俺は向かってくる蔦に突き刺す。


 それとは、さっき俺が噛み折った人狼の牙だ。


 何かに使えるかと思って尻ポケットに入れておいたのが役に立った。

 むしろ何故今まで忘れていたのだろう。

 体のキレとは反対に、どうも頭の働きは緩慢だ。

 牙を刺された妖怪樹は怯んで蔦を引っ込める。

 痛覚があるようだ。しめたとばかりに、俺は胴を拘束している方の蔦にも同様に牙を突き刺す。

 期待通り、アッサリと拘束は解かれる。

 これで安心してはいけない。どうせ次の攻撃が来る。

 やられる前にやれだ。

 俺は牙を握り直し、妖怪樹本体に向かって突進を開始――しようとしたところで、利人に待ったをかけられる。

「文也! 後ろ!」

 咄嗟に身を屈めて横に回転する。

 数瞬前まで俺がいた所には、小さな影。


 フランス人形が、そこにあった。


 何故今、ここに人形が⁉︎


 しかし、驚くのはまだ早かった。

 なんとその人形、こちらに顔を向け、右手を振り上げたのだ。

 その手には小型ナイフ。

 ロココ調の水色のドレスに身を包み、ボンネットをかぶったフランス人形が持つアイテムとしてこんなに不釣り合いな物もない。

 そして何より驚いたのが、その表情だ。

 本来なら可愛らしい澄まし顔をしている――していなければいけないのに、その人形は目を見開き、大きく歯を剥き出して笑っているのだ。

 こんな醜悪な表情、見たことがない。

 あまりの驚愕で、動くのを忘れていた。

 それがよくなかった。

 気がついた時には人形は高くジャンプし、俺の顔面に飛びかかって――こなかった。

 その寸前で、妖怪樹が振り回した蔦が人形を叩き落としたからだ。


「あああっ! マリーちゃん!」


 人形が吹き飛ばされた、まさにその方向にはまた人がいた。


 女性――か?


 眼鏡をかけた、やたらと太った人物だ。

 グレーのスウェット姿で、髪はボサボサ。

 歳は四〇は超えていると思われる。

 そんな人物が、自分の足元に吹き飛ばされた人形を拾い上げ、ハラハラと涙を流しているのだ。

「ひどい、ひどいよ……かわいそう……」

 ギュッと抱きしめる女性。

 しかし人形はその愛情表現に答えることもなく、女性の手から身じろぎをして飛び降り、どこかへ走り去ってしまう。

「ああっ、マリーちゃんどこ行くの! 待って! 一人にしないで!」

「へへ……お人形さんがバウムに敵う訳ねェんだよなァ」

 さっきヘラヘラ笑っていた中年男が初めて喋る。

 バウムって、この妖怪樹のことか?

 あと、マリーちゃんってのはさっきの殺人人形のことだよな。

 何だコイツら?

 モンスターに名前つけて可愛がってるのか?

 祠はどこ行った?

 この山、何がどうなってるんだ?

 意味不明な出来事の連続で混乱する。


「……史也、大丈夫!?」


 今頃になってようやく利人が姿を現す。

「遅かったな」

「ゴメン、ちょっと得物になるものがないか探してた」

 ほら――と言いながら、俺の足元目がけて何かを滑らせる。

 

 それは、大振りの鉈だった。


「本当はもっと武器らしいものがよかったけど、何もないよりはマシかと思って」

「いや、充分だよ」

「へへ、バカか。そんなもんでバウムの蔦を防げるかっつーんだよ」

 笑う中年男。

 それがきっかけだったのか、妖怪樹の蔦攻撃が始まる。

 しかも今度は悠長に一本ずつではなく、同時に複数の蔦が攻撃してくる。

 振り回したり、叩きつけたり、直線的に突き刺してきたりと動きも多彩だ。

 俺は右手に鉈、左手に牙を持って必死に防戦する。

 四、五本同時攻撃に対して二本の腕では多勢に無勢、フットワークで何とかしようとするが、それも限界がある。

 実際、いくつか攻撃を喰らっている。

 胸を強く叩かれたし、左肩を突き刺された。一瞬で身をよじって抜いたけど、それでも少し、養分を吸われた。

 それだけで、軽く意識が飛びそうになる。体の動きも鈍くなる。だが猛攻はやまない。

 また、ジリ貧だ。

 いっそのこと、全力疾走で逃げた方がいいのではないか、と何度も思う。

 所詮相手は地に根を張る木なのだし、移動はできない。追ってくる蔦だけ気を付ければいい。

 だけど、そうしたら利人は?

 今まで見た限り、この親友はフィジカルより頭脳派といった感じだし、俺ほど戦えるとは到底思えない。

 ここで逃げて利人がやられたら――それは俺の責任になる。

 それは嫌だ。

 だけど、どうする。

 何も打開案が思い浮かばない。

 ここまでか――と思ったその時、


 傍らを通り過ぎていく影があった。


 どこかに行ったと思われていた、フランス人形だ。

 赤いプラスチック製のタンクを抱えている。

「あ、マリーちゃん! 戻ってくれたのね!」

 女性が歓喜の声を上げるが、人形は一瞥もせず妖怪樹の足元まで行ってタンクの蓋を開き、移動しながら内容物を木にかけていく。

 少し離れた位置でも、特徴的な臭いが鼻をついた。


 ガソリンだ。 


「お、お前、何やってんだ!」

 中年男が焦った声を上げる。

 人形はそちらに視線を上げ、タンクを投げつける。

「うわっ」

 両腕を前に出して防御するが、まだ中身が入っていたらしく、ガソリンを頭からかぶってしまう。

 一連の動作を終えた人形はトトト……と距離を置き、胸元から丸めた新聞紙とチャッカマンを取り出し、点火して新聞紙を燃やし――ガソリンまみれになった木に、投げつけた。


 轟音と共に、引火、炎上。


 すぐ近くにいた中年男共々、業火に包まれる。


「アアアアアアアアアア!」


 燃やされながら悲鳴をあげたのは、妖怪樹か、中年男か。


 紅蓮に揺らめく巨大な炎を前に、美しいフランス人形は、醜く笑っていた。


チャイルド・プレイ(1988) 監督:トム・ホランド 主演:ブラッド・ドゥーリフ

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