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生物災害 BIOHAZARD

 利人の言葉に、俺は耳を疑う。

「かか、咬め? それって、お、お前もゾンビになるってことか?」

「そうだよ……ずっと考えてたけど、もうそれしかない。僕はもう助からない。死を待つのみだ。助かる道は、一つだけ……」

「そ、それがゾンビ化か!?」

 床に顔をつけたまま、ゆっくりと頷く。

「そ、そんな……俺、嫌だよ。お前を咬むなんて」

「……嫌でも、やるんだよ。僕が死んだら、お前も消える……これしか、ないんだ……」

 どんどん声に力がなくなっていく。

 俺と利人は一蓮托生。

 それは分かっている。

 でも、それは理屈だ。

 人には感情がある。

 合理主義の権化で自ら人の心を持ち合わせないと豪語する利人にはそれが分からないのだ。

 いや、分かってはいるのか。

 分かった上で、俺に命令しているのだ。

 そうするしか、ないのだから。


 逡巡する俺の前で、鬼が金棒を振り上げて桃を叩き潰そうとする。

 しかし桃はゾンビとは思えない俊敏な動きでそれを回避。同時に胸元に抱えていた生首杏子を放物線上に投げ、鬼の頸動脈を狙う。

 まんま、俺と利人が桃相手にやった戦法だ。

 しかし完全な奇襲だった俺たちと違い、すでに鬼にネタは割れてしまっている。

 飛びつく生首を金棒を持ってない左手で叩き落とす。

 桃はバレーボール選手のように飛び込み腕を伸ばして生首杏子をキャッチ。

 どうやら桃の動きが緩慢だったのは登場時のみで、むしろゾンビ化したことでかなり身体能力が底上げされているらしい。

 だとしても、だ。

 これで勝てるのか?

 鬼の猛攻に対し桃は回避一辺倒で、生首杏子で攻撃しようにも全く通らない。

 ゾンビだからスタミナ切れの心配はないが、それでも毎回完全に避けきれる訳ではない。

 実際、何度目かの金棒振り下ろしに桃は対処しきれず、左肩をやられてしまった。

 肩を粉砕され、左腕は弾け飛び、桃は生首杏子を抱えたままその場に膝を付く。

 

 そこを狙って、更に鬼は金棒を――振り下ろせなかった。


 鬼は何度も金棒を振り下ろそうと力を込めている。

 だけど、金棒は動かない。

 何かと思えば、金棒の先端部分に何やら奇妙な生物がしがみ付いている。

 全身が紫色の鱗で覆われていて、頭髪はなく、顔の両側には大きな(ひれ)のような部位。

 半魚人だ。

 かつて如月が召喚して――そうだ、コイツも、俺が咬んだのだった。

 確かその時は緑色だった筈だけど、紫色になったのはゾンビ化したということなのだろうか。

 全身の力で金棒の動きを封じているため、鬼も右手一本の力ではどうしようもないようだ。

 ならば、とばかりに今度は左手を振り上げる。

 その手には大きく鋭い爪。

 あんなのにやられたら八つ裂き確定だ。

 だけど――その左手も、中空で、止まる。

 まるで見えない何かに左手の動きを封じられているかのよう。

 見えない何か。

 ああ、透明人間か。

 天才科学者・米津能磨(のま)

 俺を召喚する直前に利人が出会ったという二重人格者・米津能満(ひろみつ)の母親だ。

 彼女も、俺が咬んだ。

 透明で見えないが、ゾンビ化したのだ。

 左右の腕をそれぞれ封じられた鬼はもがく素振りを見せるが、こんなのいつまでも長続きはしないだろう。

 半魚人ゾンビが止めている金棒に至っては手を離せば済む話だし。

 だがしかし、鬼がそれに気が付くより早くに動きがあった。


 窓から何者かの影。


 その人物は高く跳躍してムーンサルトを舞いながら右手の得物を中空で一閃。


 その後、左手と左膝、右足の三点で着地して――少しして、鬼の首が、ゴロリと転がる。


 スーパーヒーロー着地を見せた人物はそこで初めて顔を上げ、今しがた鬼の首を狩った右手の爪に舌を這わせる。


「うひひ、イッチョ上がりデス」

 

 赤と緑のボーダーのセーターにレザーのミニスカート、ツインテールにした頭は真ん中からピンクと黒のツートーンに分かれている。

 月宮愛理だ。

 顔は双子達と同様真っ青で首には利人がつけた締め跡が生々しく残っているが、他の連中と違って喋れるらしい。

 かつて俺の首を落とした時と同じセリフを吐き、こちらに視線を移す。

「……って、何死にそうになってるんデスカ! せっかく地獄の底から蘇ったんですヨ! 本来ならこのアタシを殺したアナタを助ける義理なんてサラサラないんですけど、大サービスデスヨ!? プラス五〇円で豚汁に変更だってできるんですカラネ!」

 相変わらず何を言ってるかよく分からないが、とにかく助けてくれるらしい。

 戦況は好転した。

 と言うか、連携プレイで鬼は倒せた。

 

 問題は、利人の命だ。


「……史也、頼、む……」

 弱々しく呟く利人。

 もう限界だ。

 俺は腕を、腹を、背中をガリガリと掻き毟る。

 ああ、痒い痒い痒い!

 皮膚が破れて血が流れる。


 やるしか、ないのか。


 覚悟を決めた俺は膝を付き――利人の青白い首元に、歯を立てる。

 歯が皮膚を破り、肉を、そして血管を切る感覚。

 痒い。

 大量の血が、俺の口内に流れてくる。

 今まで幾度となく繰り返してきた『咬む』という行為だが、今回はまるで意味合いが違う。

 これまでは『殺す』ために、咬んだ。今回は『生かす』ために咬む。

 だから、大量の血液も、肉も、不思議と甘く感じた。


 かゆい。

 うま。

バイオハザード(2002) 監督:ポール・W・S・アンダーソン 主演:ミラ・ジョヴォヴィッチ


#プラス五〇円で豚汁に変更

#飼育係の日誌 (かゆい うま)

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