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赤鬼

 鬼だ。


 虎柄パンツに上半身は裸。筋骨隆々で身長は二メートルは軽く超えている。髪は縮れていて目は鋭く吊り上がり、口元からは牙が覗いている。そして一番目を引くのは頭の両側から生えた二本の大きな角だろう。手には突起が幾つもついた黒い金棒を持っていて、まさにザ・鬼と言った容姿をしている。

 そんな鬼が金棒スイング一発で小屋の扉を吹き飛ばした。

 緩慢な動作で小屋の中に入ってきて、隅にいる俺たち二人をじろりと睥睨。

 ヤバイ。

 ヤバイヤバイヤバイ。

 俺は歯を食いしばって動きの固い腕を精一杯動かして仕込み銃を拾い上げ、目の前の異形に向かって引き金を引く。

 パン、パンと連続発砲音が響く――が、至近距離で放たれた銃弾は全て体の前で構えた金棒で弾かれてしまう。

 発砲してから防御したのだとしたら、驚くべき反射神経と身体能力だ。

 鬼のように強い――強調表現としてよく使われる言い回しだが、本当に強い。

 鬼は銃弾を弾いた金棒を今度は前方に振り、俺の右手にあった十字架型仕込み銃を粉砕する。

 もうちょっと踏み込んでいたら、俺の右手もろともやられていた。


 こんなの、勝てないだろ。


 おタカさんはもういない。

 霊力を失った寺生は気絶中。

 腹を刺された利人は出血多量で虫の息。

 ゾンビの俺は時間経過で腐敗と硬直が同時に進んでいる。

 ドラクエなら文字色がオレンジになっている。

 勝機はゼロだ。

 逃げるか?

 どうやって?

 鬼は建物出入口の前に仁王立ちになっているんだぞ。

 口裂け女がぶち破った窓もあるが、中途半端に割れたガラスがそのままになっていて、そこを潜って逃げるのは現実的に難しい。

 それより何より、利人と寺生をそのままにしておけない。

 最悪寺生は仕方ないにしても、利人は絶対に見捨てられない。

 友情とかヒューマニズムの次元の話ではない。

 コイツが死んだら俺も祠に戻るのだ。

 そうなればどっちみち全滅だ。

 なら、どうする?

 

「……史也、僕を――」


 いつものように指示を仰ごうとしたのと同じタイミングで利人が口を開くが、次の瞬間、窓から何かが飛んできた。


 バスケットボールくらいの球体の何かだ。

 

 それは床と壁でバウンドして、そのまま鬼へと飛びつき――咬み付いた。


 それまでは動きが早すぎて目で追えなかったが、静止して分かった。


 生首だ。


 肌の色は真っ青で、白目を剥き歯茎を剥き出しにして鬼の右肩に齧りついている。


 頭にはオレンジ色のリボン。


 すっかり人相が変わっているが、俺はこの生首の主を知っている。

「……やっと来たか。遅いよ」

 死にかけの利人が小さく呟く。

「あ、杏子、だよな? 双子の」

「そう……ポルターガイストの、双子の姉の方……おタカさんに首を捩じ切られた……」

「な、なんでゾンビに? お俺が咬んだのは妹の桃の方だぞ」

「……来たよ」

 俺の疑問には答えず、視線だけで鬼の背後を示す利人。

 そこには手を前に突き出し、あーあーと呻く少女の姿。リボンとワンピースの色は、ピンク。桃だ。生首の杏子と同様に肌は青く白目を剥き、首回りは自身の流した血で真っ赤に染まっている。

 そんなゾンビが背後に迫っているのに気が付かないのか気にもかけないのか、鬼は自身の右肩にがっちり咬み付いた杏子にばかり気を取られているようで、その頭を鷲掴みにして大きく振りかぶり、壁に投げつける。

 瞬間。

 それまで緩慢な動きだった桃ゾンビが恐ろしい速度で駆け出し、壁際に回って今まさに叩きつけられようとしている姉の生首をゴールキーパーのように体前面でキャッチングする。鬼のような反射速度だ。ついさっき鬼自身の反射神経の速さをみているため、自然とそう思ってしまう。

「……QRコードの解説ページで、お前の感染力は死体にも適用されると書いてあった。お前から感染されたんだから、その力は当然桃にもある。ゾンビとして蘇った桃は、首を捩じ切られた姉の生首を見つけて咬み付いたんだ」

「な、なんで? あんなに仲のいい双子だったのに。やっぱり理性が――」

「違うよ……仲がいいから、仲間にしたかったんだよ」

 確かに、たった今も目を見張る速度を発揮して壁に叩きつけられそうな杏子を救った訳だし。

「仲間――って、お、俺たちの仲間、でもあるってことか?」

「そうだよ。お前から感染したんだから、お前の支配下だ」


 つまり、僕たちの勝利だよ。


 勝ち誇った利人の声。

 ……流石に勝利宣言は早すぎないか。

 確かに桃と生首杏子がゾンビになって加勢してくれるのは有り難い。

 だけど、はっきり言って鬼に勝てるかと言うと、微妙だ。

 桃も杏子も元は十二歳かそこらの普通の少女だ。

『死の運命』と『ポルターガイスト』という強力な力があったから強敵だったけど、今はそれもない。

 ゾンビとしての能力しかないのだ。

 さっきは生首杏子のトリッキーな奇襲で一矢報いることができたが、はっきり言って正攻法で勝つのはかなり難しいのではないだろうか……。

「……史也、さっき言いかけたことだけど」

 双子ゾンビと対峙する鬼を見て不安になる俺に対して、利人がしっかりとした口調で言う。

 

 僕を、咬みなよ。

青鬼(2014) 監督:小林大介 主演:入山杏奈

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