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死を想え memento mori

 ――現在――

 口裂け女に刺された利人が語った内容に、俺は驚愕した。

 要約すると利人は嘘つきで人殺しのヒトデナシで、俺はコイツに召喚されたゾンビということだった。


 全部、嘘だったのだ。


「そ、そう考えると、い、色々と合点がいくな」

 俺は仕込み銃で射殺した口裂け女の首元の肉を噛み千切りながら、納得の声を出す。

「……うまくいってたんだけどなあ……」

 対する利人は板の間に横たわりながら力のない声を出す。

 腹に手を当てているが、出血が止まらないようだ。

 ここには手当てする道具などない。それでも脱いだ服を押し当てて止血でもしようかと動いたのだけど、史也からはその口裂け女を咬んでと命令されてしまった。月宮愛理の時と同じだ。仕方がなく、俺は真っ赤なコートが更に赤黒く染まっていくのを眺めながら、利人の独白を聞く羽目になったのだった。

「……まあ、初っ端に寺生さんとエンカウントした時は肝を冷やしたけどね」

「あ、あああ、あの時、変だったもんな。そ、そうか、今になってやっと分かったぞ」

 ガリガリと顔を掻き毟りながら記憶を巡らせる。体中のあちこちがむず痒くて仕方がない。

 何だっけ。

 そう。寺生だ。

 最初、あの男は壊れた祠を見て「これやったの、どっち?」と聞いたのだ。

 その時、俺はてっきり祠を壊したのは誰かという意味かと受け取った。

 だが違ったのだ。

 祠は壊せばモンスターになる。

 壊した祠が顕現するのは『モンスターが倒される』『マスターが倒される』『マスターがモンスターの所有権を破棄する』かのどれかである。

 目の前に生きた人間がいる以上、『マスターが倒される』という線は消える。

 そして通常であれば『マスターがモンスターの所有権を破棄する』ことも滅多にないだろうから自然と選択肢から外され、ゲームが開始して一時間も経っていないのにもうモンスターを倒したのかと感心して、前述の台詞が出たということだろう。

 そしてこれは今になったから分かるのだけど――寺生は『普通の人間』と『特殊能力を持った人間』と『人外』を持ち前の霊能力で判別することができる。

 すぐ近くに近寄って――俺が人外のゾンビだと、すぐに分かったのだろう。

 聡明な寺生はサイコパスが何も知らない無自覚ゾンビとトモダチごっこをしていると瞬時に見抜き――だから笑って、激励したのだ。


 死ぬなよ、と。


 後々になって、成り行きとは言えずっと行動を共にすることになるとは、この時は誰も予想していなかったに違いない。

 コングと戦った時、俺の右腕を切り落とそうと利人が発案した時も、その合理的すぎる発想にドン引きはしつつも、切り離された腕が動かせて、何事もなかったかのように戻せたことに関しては一切驚かなかった。奴は最初っから俺がゾンビだと分かっていたのだ。


 その後に出会った人物たちとのアレコレについても、答え合わせが出来る。

「……古賀に説明受けた時も、祠を壊した壊してないでグダグダになっちゃったもんね。まさか運営側の人間があんなペラペラ教えてくれるなんて思わないし」

「そそそれは、お、お前がゲームとは無関係の一般人を装ったからだろ」

「それが僕の作戦だよ。虫も殺さないような無害な人間を装って相手の油断を誘うんだ」

「さ、誘えてたか?」

「効果は抜群だったじゃない。月宮愛理との一戦、お前も見てたでしょ」

 若干声のトーンが高くなる。そんなに喋って、出血が進んだらどうするんだと、俺は気が気ではない。

「そ、それなんだけど……あの女のこと、前から知ってたんだな」

「僕の方はね。獲物選定用の出会い系アプリでマッチングして――アプリ上ではアイリーンと名乗っていたけどね――綺麗な首をしていると思ったから会う約束を取り付けたんだ。僕は阿呆みたいに楽しみにしてたよ。首のいい子がそこで待ってる――それが罠とも知らずに。待ち合わせ場所、随分と人気のない所だと思ったけど、まさか意識奪われて車で拉致られるなんてね……。で、その一連の流れにあの女は関係してなくて、だから僕のことも認知してなかったみたいだね。或いは、あんなキャラだから他人のことなんて興味なくてすぐに忘れちゃうのかもしれないね。ちなみに言うと、あの古賀も僕の拉致には関わってなくて、あの時が初対面になるんだよ」

 一を聞けば百が返ってくる。

 だけど俺が聞きたいのは別のことだった。


「……あの時、何を言ったの?」


 こういう時はスッと言葉が出てくる。

「あの時ってどの時?」

 聡明なコイツだから聞かずとも分かるだろうに、わざわざ聞いてくる。

「月宮愛理の首を絞めた時だよ。『狩る資格があるのは狩られる覚悟のある者だけ』とか色々言ってたけど、最後に何かを耳打ちしてたじゃん」


 僕が殺したのは三〇人だ。


「――そう言ったんだよ。あの女は自分が十二人殺した化け物なんだって繰り返し主張してたけど、誰相手に言ってるんだって話だよね。あ、でも今考えたら三十一人だったね。米津能満のことをカウントしてなかった。で、月宮愛理で三十二人だ」

「ま、漫画や映画でよくあるやつだ。見くびってた相手が実は自分より遥か格上だったみたいな」

「怪物が聞いて呆れるよ――でもまあ、正直言うと、僕は羨ましかったのかもしれないね。自由奔放な彼女の姿勢がさ。僕はさ、ほら、世間に順応するために擬態して演技して、(だま)して(かた)って(たばか)って日常を送っている訳じゃんか。だけど、彼女は違う。正直で、自然体なんだよ。自分にウソを吐いてない。殺人衝動、破壊衝動を隠そうともしない。まあそのせいで相応の社会的制裁は受けてる訳だけど――僕はそれが羨ましくて、嫉妬したのかもしれないね。僕と彼女はコインの裏表だったんだよ。対極の位置にいる彼女を否定することで、自らの安寧を得たかったってところかな。何て人間臭いんだろうねえ。本当、今日この山での殺し合いを通じて、僕は人間性を幾つも得てきた。この、人の心のない人でなしがね。人でなしはたくさんのかいぶつを殺しました。そのばん、ひとでなしはおなかをさされてなきました」


 ――ひとでなしは、もうおしまいです。


「ももももう、喋るな!」


 思わず叫んでいた。

「そ、そんな腹から血をドクドク流してる人間が、ペ、ペラペラ喋るな!」

「いいんだよ。こうやって、喋りながら考えてるんだ。打開策をね。僕は口が回っている方が頭が回るんだ」

 コイツはこの期に及んでまだ諦めていないらしい。

 でも、体に穴が空いてるんだぞ。

 横たわる利人の体を中心に、少しずつ血だまりが広がっていく。

 ああ、ああ。

 体が痒い。

 ガリガリと肩や腹を掻き毟る俺の前で、扉が吹っ飛んで、反対側の壁にぶつかって落ちる。

 扉のあった空間から、赤い肌の大男が金棒を振り切った姿勢で入ってくる。


 鬼だ。


 鬼が来た。


 俺は、本気で死を想った。

メメント(2000) 監督:クリストファー・ノーラン 主演:ガイ・ピアース


#クリアアサヒが家で冷えてる それが罠とも知らずに

#はらぺこあおむし(おなかがいたくてなきました)

#たぬきはもうおしまいです

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