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僕だけがいない山 All You Need Is Kill

 ぽかんとした顔をしている。

 召喚したモンスターは口頭で宣言することで譲渡できると八千代から聞いている。

「アンタが代わりに死に戻りしてくれるってこと?」

「そうです! 僕が毒を飲んで死んで時間を巻き戻して、それでSSRゾンビを獲得するんです!」

「そんなことしたってアンタに利点ないじゃない」

「何言ってるんですか! 僕と先生は一蓮托生ですよ? SSRゾンビという最強の矛と死んでも時間を巻き戻してやり直しできるという最強の盾を得られるんです。ここでこの祠をスルーすれば、『無駄な死に戻りをしなくていい』という結果を一つ得られますよね。でも、これが成功したなら最強の矛と盾という二つの結果を得られるんです」


 逃げたら一つ、進めば二つですよ。


「利点しかないじゃないですか!」

「杉原クンがそこまで言うなら――分かったわ。『タイムループ』を譲渡します」

 宣言がなされる。

 何がどう変わったという訳ではないが、確かに死に戻りの能力が自分に移ったのだという不思議な感覚がある。

「それじゃあ早速やりましょう。先生、毒をください」

 淡々と進める僕に、少し引き気味な表情をする。

「いいけど……あの、本当に苦しいわよ? いいの?」

「覚悟の上です」

 そう言って口に放り込む。

 程なくして酷い頭痛と眩暈、嘔吐感が襲ってきて、口からは泡が溢れ、痙攣してその場に倒れる。

 ああ、確かにこれは苦しいな。

 僕だって痛覚は普通にあるので、不快なものは不快だ。

 だけど、戻れると分かっているのなら、どうということはない。

 必要な手順だ。

 僕は意識を失い――この世界から、僕がいなくなる。


 周囲が光に包まれる。


 僕はまた戻っている。

 祠の陰には大沢たかお。

 無事に戻ってこれたらしい。

 祠のQRコードを確認する。


 『種族:ゾンビ

      腐った死体。人間と同じ速度で重火器の扱いも出来る。

      もちろん咬み付き攻撃も出来て、感染させて仲間を増やす。

      あらゆる傷は時間をかけて回復し、手足や首がもげてもくっつけることが出来る。

      頭部を破壊しない限り動き続ける。

 個体名:小場野(おばの)(だん)

     二十七歳。自衛隊員。妻帯者。強く、賢く、指示に従順に従う。』


「これ、良くない?」

「悪くないですけど、SRよりのRですね。まだ上を狙えます」

「採点厳しくない? これから引くのが軒並みこれより下だったらどうするの」

「だったらもう一度巡り合うまで一周するだけですね。封印されている総数が五〇なら、どれだけ運が悪くても五〇回死に戻りを繰り返せばまた必ず引き当てられます」

「総数が千ならどうするのよ」

「千回繰り返すだけですよ」

 事もなげに言う僕に、相手は薄く笑う。

「……ヤバいわね、アンタ」

「さあ、次行きましょう」

 毒を喰らい、倒れて死んで、この山から僕が消える。

 光。

 時間が戻る。

 ガチャを引く。


 『種族:ゾンビ

     腐った死体。ノロノロとした動きで、脅威を感じたらすぐに逃げ出す。

     臆病で一切の攻撃が出来ない。

      あらゆる傷は時間をかけて回復し、手足や首がもげてもくっつけることが出来る。

      頭部を破壊しない限り動き続ける。

 個体名:有働(うどう)栄人(えいと)

     二十三歳。ニート。コミュ障の引きこもりで家族とも何年も会話していない。』


「ほら言わんこっちゃない! 大外れじゃないの!」

 頭を抱える。

「恐らくこれが最低のラインでしょう。なら次は上しかないでしょう。次です」

 どんどん進める。

 光。

 

 『種族:ゾンビ

      動く死体。死後硬直のために前に腕を伸ばしてピョンピョンと跳ねて移動する。

     相手への咬みつき攻撃の他、毒素のある爪での攻撃もできる。

     霊力を込めた札を額に貼り付けることで動きを封じることも出来る。

 個体名:来斗(らいと)恵土賀(えどが)

     四十二歳。ラーメン屋店主。バツイチ。頑固で高圧的な性格。』


「これ、ゾンビと言うよりキョンシーじゃない?」

「同じですよ」本当は細かく違うのだけど、説明するのが面倒なので流しておく。「パンセポンセとベイクドモチョチョみたいなものです」

「パンセポンセって何よ。ベイクド……え、何の話?」

御座候(ござそうろう)とも言いますけど」

「ああ! あの、餡子を詰めて丸く焼いた和菓子のこと!? それ、今川焼とか大判焼とか回転焼とか、何て呼ぶのか戦争だねって話でしょ!? アッハハハ! 何よパンセポンセって聞いたことないわよ! バカじゃないの! あー、おっかしい……」

 大笑いして、目尻に浮かんだ涙を拭っている。

 何だ、笑うことが出来るんじゃないか。

 僕も、一緒になって笑った。

 それはそれとして、今回も自衛隊ゾンビより下なので、次だ。

 光。


『種族:ゾンビ

    腐った死体。死んだことに無自覚で、パッと見には普通の人間にしか見えない。

    時間経過により腐敗と死後硬直が始まる。

    自我があって自分で考えて行動し、武器を使った戦闘も出来る。

    咬み付き攻撃も出来て、感染させて仲間を増やす。死体も感染させることがきる。

     あらゆる傷は時間をかけて回復し、手足や首がもげてもくっつけることが出来る。

     頭部を破壊しない限り動き続ける。  

個体名:東野史也

     二十一歳。大学生。記憶を失っている。』


  ――これだ。

  とうとう引き当てた。

  六回目の試行で引き当てるなんて、本当に運がいい。

「……やりましたよ。これがSSRです」

「そう? 自衛隊の方が良くない?」

「いえ、これがいいんです! 人間と変わらぬ知能と首や手足が付け外しできるトリッキーさ、そしてゾンビ本来の頑健さと感染力、その全てを併せ持つ! これこそ僕が求めていた最強ゾンビです! やった! やりましたよ!」

 僕は相手の手をとって、ピョンピョンと飛び跳ねて見せる。

「そう、なの。フフフ。やったわね」

 困惑しながらも、同調して顔を綻ばせる。

「ええ、という訳で、今までありがとうございました」

 パッと手を離し、背後に回ってポケットから取り出したロープで首を絞める。

 グエっと間抜けな声を出す。

「な、なんで……」

「用済みだからです。まあタイムループを譲渡した時点で役割は終わってたんですけど、せっかくなのでここまで付き合ってもらいました。楽しかったですよ、貴方との絆ごっこは。ちなみにこのロープは私物です」

 言い終えた頃には相手は絶命していた。

 その場に崩れ落ちる。


 逃げれば一つ、進めば二つ。


 奪えば全部だ。

僕だけがいない街(2016) 原作:三部けい 監督:平川雄一朗 主演:藤原竜也

オール・ユー・ニード・イズ・キル(2014) 原作:桜坂洋 監督:ダグ・リーマン 主演:トム・クルーズ


#逃げたら一つ、進めば二つ、奪えば全部

#小麦粉からなる生地にあんこを入れて円筒形ないし分厚い円盤状に焼成したあの和菓子の名称

#真ゲス(楽しかったぜ、お前との友情ごっこ)

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