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悪の教典 Japanese Psycho

 頭が良くて優しくて温厚。

 昔からそう言われてきた。

 実際、勉強は出来た。

 少し見聞きすれば大抵のことは分かったし、どんなことも僕の予想通りに進んだ。

 加えて口も上手く人を安心させる声音だったようで、誰もが僕の話を信じたし、信用した。


 だから、それを利用した。


 僕を慕って集まってくる周囲の人間は一人残らず僕の手駒だった。

 全てを思い通りにすることなんて造作もなかった。

 皆、面白いように僕の嘘を、芝居を信じた。

 そう、全ては演技だ。

 優しく温厚で人当たりのいい杉原利人なんてのは、虚像。

 そう見せているだけに過ぎない。

 本当の僕は良心を持たず共感性に欠けた、平気で嘘を吐く人間だ。


 反社会性人格障害――ということになるのだろうか。


 やろうと思えば何でも出来たし、そのためには手段を選ばない。

 ただ――何かをしたいという情熱も、僕には欠けていた。

 先読みできてしまうのだ。

 結果が見えてしまう。

 例えば高校時代はバスケ部に所属していたが、ある程度やったところで醒めてしまった。

 何をやってもそうだ。

 何も面白くない。

 勿論、快と不快は感じるし、肉体的な欲求も当たり前にある。

 だがそんなものを満たしたところで、精神は満たされない。

 心が、動かないのだ。

 僕の世界は常に白黒で、薄暗く、底冷えしていた。

 外側から見れば僕は才能に溢れた順風満帆な優等生に見えただろう。

 だが、内側の僕はただの伽藍堂人形だ。







 

 

 初めて人を殺したのは十四歳の夏だった。








 

 隣の家に住む一つ上の幼馴染だった。

 彼女は中学三年に上がった辺りから不登校になり、家に引き籠るようになっていた。

 学校のイジメだかグループでハブられただか、詳細は覚えていない。

 興味がなかった。

 それでも、僕は彼女に会いに行った。

 カーテンを閉め切った部屋で、彼女は「死にたい」と話した。

 立ち上がる僕の目の下、膝を抱える彼女の、白いうなじ。

 首筋。

 だから。

 それで。


 彼女の死は首吊り自殺で処理された。


 誰も疑わなかった。

 警戒心の強い僕は極力その日その場所にいた痕跡を消したのだけど、それでも十四歳の少年のすることだから杜撰な部分も多かったように思う。

 それでも、上手くいった。

 運がいい。

 死神に魅入られているのかもしれない。


 その瞬間、その感触は今でも覚えている。

 ロープで絞めた触覚、力を入れて気管や血管が推し潰れる音、漏れる声。

 この手の中で、命が消えていく感覚。

 吊り上げた時の彼女の体重。


 その瞬間だけは、僕の世界が色付いた。


 脳に光が差し、胸が熱くなった。


 もう顔も名前も覚えていない彼女の存在が、僕の人生を変えた。


 僕はこのために生まれてきたのだと、本気で思った。


 空虚だった僕の人生は、そこから変わった。

 僕の知性も、話術も、人心掌握術も、すべてはその――殺人衝動のために費やされた。

 殺せれば何でもいいわけではなく、殺し方は絞殺のみに限られた。

 対象は、首筋の美しい若い女性だ。

 はじめは同級生を狙っていたが、同じ学校、地区内で首吊り自殺ばかり起きるのはいくら何でもおかしい。

 高校に進学した辺りからは遠出して獲物を物色することが増えた。

 街行く女性に声をかけることもあったが、繁華街に多くいる私娼――所謂立ちんぼと呼ばれる女性は、格好のターゲットだった。

 隙を見て首を締めて公園の木で首を吊ったように見せかけたり、敢えて路地裏に放置して暴漢に襲われた風に見せかけた。

 誰にも目撃されぬよう、物的証拠を残さぬように最大限の警戒は常に行ってきたが、危険な目に遭ったことは一度もない。

 やはり、その点僕は豪運の持ち主らしい。

 大学に進んで免許を取ってからは親の車を借りて〝狩り〟を行った。

 犯行の度に頭を悩ませていた死体処理の手間は、これでかなり軽減された。

 遺棄する場所は数時間走らせたところにある阿波鬼山と決めている。

 何故何十キロも離れたその山を選んだのか――合理的な説明はできないし、思い出せない。

 それこそ、山に引き寄せられた、としか説明できない。

 その山に埋めた死体、十は優に超えているだろう。


 まさか、全部バレていただなんて。

悪の教典(2012) 原作:貴志祐介 監督:三池崇史 主演:伊藤英明

アメリカン・サイコ(2000) 原作:ブレット・イーストン・エリス 監督:メアリー・ハロン 主演:クリスチャン・ベール

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