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 向かう先は無数の祠群だ。

 ああそうか。おタカさんを亡くした寺生は今、使いモンスターを持ってない状態だ。だから、この場で祠を壊して相方の役割を継承させようということか。都合のいいことに、彼はどの祠にどんなモンスターが封印されているか全て暗記している。いくらでも強力なモンスターを召喚できるという訳だ。

 墓地のように整然と立ち並ぶいくつもの祠――その中の一つの前で立ち止まり、素早く前蹴りで祠を倒す。

 紫色の魔法陣。

 そこから現れたのは――小さな悪魔、だろうか。

 七〇センチ程の小柄な体型で、爬虫類のような皮膚と指先の鋭い爪、大きな耳朶が特徴的だ。

「機械に悪戯する妖精、グレムリンだ。色々特性があるが、今この状況で重要なのは『水をかけると増殖する』ってことだな。だから水をかけて増やす。取り敢えず物量作戦だ」

 早口で寺生が言う。

「え、でも水なんて、ここには――」

「ゴメンね、史也」

 振り返ると、手斧を振り上げた利人の姿。

 親友の手によって、俺の左肩はバッサリと斬られ、左腕がボトリと落ちる。

「本当に悪いな、東野」

 そう言って寺生は落ちた俺の左腕を拾い上げて素早く振り抜き、飛び散った血液を登場したばかりのグレムリンにかける。

 血がかかった箇所に大きな水膨れが出来たかと思うと、そこからポンポンと五体ほどの個体が飛び出してくる。なるほど、確かに増殖している。寺生はそれを何度か繰り返し、一気にグレムリンを五〇体ほどにまで増やす。

「よし、行けー!」

 ゴーをかける寺生。

「おお、ありがとうなあ! 餌を増やしてくれて!」

 ピエロが両手を挙げて喜んでいる。

 グレムリンたちは俊敏な動きで合成鮫に飛び掛かるが――


 全て


 一匹残らず


 捕食されてしまう。


 当然だ。


 サメと狼と熊が並んでいるのだ。


 こんなの、肉食獣の三大将だろうが。

 

 おまけに腕は四本。


 文字通り、手数が多い。


 飛びかかったところで四本ある腕のどれかに捕まり、三つある口のどれかに放り込まれてムシャムシャされて終わりだ。

 さらに言えば、仮に致命的な攻撃を受けそうになったとしても、合成鮫は逃走経路が三通りある。縮んで回避、瞬間移動で退避、地中に逃避の三つだ。攻守揃って完璧な化け物相手に、悪戯好きで獰猛で増殖するくらいしか能のないグレムリンが勝てる訳がない。

 結局、十分と持たなかった。

 途中、切り取った俺の腕を振って血液を飛ばして更に増殖させたが焼け石に水だった。最後の一匹が捕食され、壊れた祠が現れる。

 我々の負けだ。


 だが寺生は諦めない。


「じゃあ次は――これだ!」

 一瞬考えた後で、少し離れた位置にある祠を蹴り倒す。

 魔法陣。

 そこからバサバサと羽ばたく無数の影。

 鳥だ。

 鳩、カモメ、(トビ)(スズメ)(カラス)

 バサバサと羽ばたき、ある者は縦横無尽に宙を舞い、ある者はその巨大な影を(くちばし)でついばむ。

「あれはどういうモンスターなんですか」

「鳥だよ、凶暴化した鳥の大群だ」

 利人の問いに寺生はシンプルな返答をする。

「それは見れば分かります。特色は何ですか。一羽ごとに人間並みの知能があるとか、どれだけ叩かれても耐えられるくらい頑強だとか」

「……いや別に、普通の鳥ダヨ。鳥は鳥頭だし、叩き潰されれば普通に死ぬ。凶暴化した鳥の大群、それ以上でもそれ以下でもねェ」

「え」

「鳥は強ェぞ。翼があって、空を飛べる」

「どうしました? 急にIQが下がりました?」

 利人のツッコミがだんだん容赦のないものになっていく。

 とは言え、鳥は実際強い。空中移動できるということは前後左右だけではなく前後左右上下と移動軸が一つ多いと言うことで、対処の難易度も一つ上がる。それが大群で襲ってくる訳だから、いくら三つ頭四つ腕の怪物と言えども易々と撃破できる訳ではない。

 ……ただまあ、『易々と』できないだけであって、できない訳ではない。いくら大群で嘴を突き立てようと、ズルズルと地中に潜られてしまっては地中までついていくこともできず地面に取り残される形になる。そこを、高所に瞬間移動した合成鮫が大口を開けて落下がてら、パクリだ。結局、多少もたついただけで全ての鳥を喰い尽くされてしまう。

 全滅を示すように現れる壊れた祠。

「鳥料理とは豪勢だねえ! ご馳走様! 今日はフルコースだな、こりゃ!」

 ピエロの高笑い。

 寺生は俯いてしまう。

「寺生さん?」

「つ、次は、えっと……こいつだ!」

 逡巡の様子を見せながら、また寺生は別の祠を蹴り倒す。

 魔法陣。

 そこから現れたのはバスケットボールくらいの大きな赤い玉。

 僅かに光沢があり、僅かに平べったくて、頭頂部にあたる部分には緑色のヘタ。

 どう見ても、巨大なトマトだ。

 それがポンポンと飛び跳ねながらサメに向かっていく。

 何体も、何体も。

 無数に跳ねるバスケットボールくらいの、トマト。

「寺生さん! あれは!?」

「殺人トマトだ。捕まったら死ぬ」

「トマトがどうやって殺人を!?」

「知らん」

「え!?」

「いいんだよ。トマトはいいんだよ。ビタミン類が豊富だし、リコピンには抗酸化作用があって生活習慣病の予防になる」

「寺生さん!」

 少し前から薄々思っていたが、どうやら寺生は相方のおタカさんを失ったことで、精神の均衡を崩してしまっているようだ。ここまで利人と共に頭脳と戦略で白星を挙げてきたのに……。

 一方で件のキラートマトはと言えば、ピョンピョン飛び跳ねてサメに向かって行って――そのまま捕まって、次々に口に運ばれていく。何の攻撃も与えられない。グレムリンよりも鳥よりも戦力にならない。ただ数だけは多いから時間はかかっているが、全滅は時間の問題だ。

「全然相手になってないですよ寺生さん!」

「――鶏肉のトマト煮」

「え!?」

「――塩をかけた冷やしトマト――BLTサンド――カプレーゼ――」

「ああ駄目だ、完全にメンタル崩壊してる! 好きなトマト料理発表人間になってるよこれ!」

 利人が文字通りお手あげ状態になっている。

「おいおいおいおい! そりゃオイラがフルコースって言ったんだけどさ! そっちから寄せてこなくてもよかったんだよ!? 悪いね野菜まで! 鳥料理の後に前菜じゃあ順番がグチャグチャだけどね!」

 ピエロがはしゃいでいる。

 壊れた祠。

 大量のトマトを食べ終えた合成鮫は毛むくじゃらの腕で真っ赤に染まった口元を拭い――僅かに痙攣する。


 そして。


 突如としてサメの頭頂部から大量の黒髪が生えだし、それは瞬く間に伸び――前髪が目を隠す、長い黒髪になる。


 おタカさんと同じ髪型だ。


 消化吸収が、終わってしまったのだ。


 その数分後――辺りに、絶叫が響き渡った。

ザ・メニュー(2022) 監督:マーク・マイロッド 主演:レイフ・ファインズ


#好きな総菜発表ドラゴン

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