ロープ Rope
恐る恐る近付くと、全体像が見える。
それは、黒い膝丈のスカートに白衣を纏った大柄な若い女性だった。
首に梱包用ロープが巻かれ、目を剥いて絶命している。
人狼の次は死体か。
一体どうなっているんだ。
俺は利人を見る。利人も、俺を見ていた。
「覚えてない、んだよね」
落ち着いた口調。
だけど、俺は逆にそれが恐ろしい。
「何だよそれ。お前は知ってるのか。って言うか――」
俺が殺したのか!?
絞り出すような声が出た。
利人は視線を逸らし、眼鏡のフレームを上げる。
「……連絡が来たんだ。痴話喧嘩の果てにうっかり殺してしまったって。どうすればいいか分かんないって――ね」
俺が殺した?
俺が?
俺は恋人を殺めて、それで親友に相談してこの山に死体を埋めに来たってことか!?
その挙句、祠を壊して祀られていた人狼を呼び覚まして襲われて――
どれだけ最低なんだ、俺は。
「大丈夫だよ。大丈夫。親友の僕が全部やってあげるからね。史也は何も考えなくていい。全部、僕に任せておけばいいからね」
利人の優しい声。
最悪だった気持ちが、それだけで浄化される。
「元々、少し情緒のおかしい人だとは思ってたんだよ。史也のやること全部監視して、少しでも女の影があると発狂して怒鳴りつけてさ――何度も、別れなって忠告したんだよ。この人はよくない。このままじゃ史也は潰されるって――だけど、お前は好きだからの一点張りで、そう言われたら僕も何も言えないからさ、注意深く見守っているつもりだったんだけど……まさか、こんな最悪な結末を迎えるなんて、ね」
最悪、か。
確かに、それはそうなのだろう。
親友の言うことも聞かずメンヘラ彼女の言いなりになって、その挙句が――これだ。
申し開きのしようがない。
「ここで穴掘って埋める予定だったんだけど、史也が祠壊して、頭打って気絶しちゃったでしょう? 目が覚めたら人狼に襲われるし――今はとにかく、この場を離れよう。危ない気がする」
言うが早いか、白衣に身を包んだ遺体など一瞥もせずに先に進む利人。
俺も、先に進んだ。
ロープ(1948) 監督:アルフレッド・ヒッチコック 主演:ジェームズ・スチュワート