表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/73

怪物の誇り The Pride of the Monster

(うひひ、まずはイッチョ上がりデスネ)

 鉤爪に舌を這わせ、愛理はニィッと不自然に口角を上げる。

(……今時、狂気を演出するのに刃物舐めるってのはどうかな。もう令和だよ?)

 呆れ顔の利人。

 それを、ほぼ地面と同じ視点から見上げている。


『俺』は今、生首になって地面に転がっている。


 首を失った体は膝立ちの状態で崩れ落ちている。

 

 靄のかかった視界。

 水中にいるみたいな籠った音声。

 杏子の投げた額縁で首を切られた時と同じだ。

 今度は、愛理の爪で――人の首って、こんなに簡単に落ちるモノなのか。


(うるさいデスネー! 優れた表現は普遍的ナンデスヨ!)

(なんか障害ありそう。山を下りたら福祉センターに行ったら?)

(言われ飽きたことを言わないでクダサイ!)

(いきなり親友の首を切られたんだ。言葉もきつくなるだろ)

 そう言って、地べたに落ちた『俺』を拾い上げて胸元に抱える。

(可愛いとこ挙げてかないと切るの首だって予告シマシタヨネ? 冗談だと思ったンデスカ? わたし冗談言わないンデスヨ?)

(まあ存在自体が冗談みたいな人だしね)

(わたし、今日楽しみにしてココに来たんデスケドネエ。血で血を洗うコロシアイがデキルッテ。今日ばかりはどれだけ人の顔を切り刻んでも許サレル。無礼講ならぬ無惨講とでも言うんデスカネエ)


 それが、これはナニ?


(蓋を開けて見れば祠壊してのモンスター使役バトルばっかじゃナイデスカ! 面白くないとは言わないけれど、わたしが望んでるのはそんなのジャナインデスヨ! わたしは人間同士のコロシアイがしたいんデス!)


 左手にはめた鉤爪をビッと斜め下に振り、僅かに残った俺の血を払い落とす。


(祠モンスター同士が戦うのをただ眺める……ウェェ……)

 自身の左側に右手の平を突き出し顔を顰めて拒絶の姿勢を見せる。


(人間同士が血で血を洗うコロシアイをする……イイネ!)

 左手の人差し指を左方向に突き立てて笑って好意を見せる。


 カナダのラッパー、ドレイクか。


(さっき、サメの攻撃から僕たちを助けてくれたのは?)

(そんなの、獲物を横取りされたくないからに決まってマス! 古賀オヂサンのサメは確かに強力デスケド、わたしだって強いんデスカラネ! 正々堂々、人間同士のコロシアイをしてクダサイ!)

(ああ、そう……そっちがその気なら、僕としても応えるしかないかな)

 冷静な利人な声がボワンボワンと響く。

 

 その声が、不意に近くなる。

 

 『俺』を抱き上げて耳元に口を近づけたのだろう。


(チェストパスで愛理に投げるよ。後は、桃の時と同じで)


 言われた数秒後に世界が並行方向に高速移動する。

 利人が事前予告した通りに『俺』を愛理に投げたのだろう。

『俺』は愛理の胸元に――投げ込まれるかと思ったのだけど、そこに到達する数センチ前で、阻止される。

 ザシュ、という籠った音。

 

(ワンパターンナンデスヨ!)


 目の前に愛理の顔がある。

 利人のパスで『俺』は彼女の首元に噛みつく予定だったのだが、それより愛理の爪の方が速かったらしい。

 さっきのは、首の切断面に突き刺した音か。


(この月宮愛理を馬鹿にシテルンデスカ! アンタたちのやり方は散々目の前で見てきたんデスカラネ! 人のことをコケにする連中には、〝こう〟デス!)

 そう言って彼女は『俺』を右手で抱え込み、切断面に対して鉤爪を高速で上下させて連続突き刺しをする。

 痛覚はない。

 ただ、衝撃と肉がグシャグシャ言う音が不快だ。


(別に人のこと変態だのイカレ女だの言うのは構いマセン! だけど馬鹿にされるのはプライドがユルサナイ! イイデスカ! アンタたちは、十二人もの人間を殺した怪物を相手にしてイルンデスカラネ!)


(そう――じゃあ、ちゃんと相手しないと失礼だね)


 後ろから利人の声。

 愛理に近付いたらしい。

(エ……)

 あまりに自然かつ突然の動きで、しかも『俺』への攻撃で両手が塞がっている愛理は反応が遅れた。


(グェ――)


 蛙が潰されたような音が、愛理の口から洩れる。

 彼女の手から『俺』が落ちる。

 ヤシの実のように地面に転がる『俺』。

 視線の上、利人が愛理の背後に回って首をロープ紐で締め上げている。

 あのロープは地底人を欺くために使ったものか。まだ持ってたんだ。

(殺し合いがしたいって言ってたけど、君がしたいのは一方的な殺戮だよね? 殺し合いなら、立場は対等じゃないと。よく言うじゃない。狩る資格があるのは、狩られる覚悟のある者だけだって。頭脳専門のうらなりに戦闘能力なんてないと思った? そっちこそ、馬鹿にしないでね)


 愛理を締め上げながら淡々とそう語り――最後に、彼は彼女の耳元に口を近づけ、何かを告げた。


 ここからでは聞き取れない。


 ただ、それを聞いた愛理は大きく目を見開き、ガクガクと足を震わせ、泡を吹いて白目を剥く。


 絶命したらしい。


 利人が力を抜くと、愛理の体は重力に従ってその場に崩れ落ちる。


 それを一顧だにせず、利人は『俺』を持ち上げ、首無しになった体の方に持っていって、本来あるべき場所に、戻す。


 それで、『俺』は俺に戻る。


「ケガはない?」


 優しい利人の声。

 柔和な顔。

「ケ、ケガって言うか……俺は……」

 俺は、無事だ。

 見える。聞こえる。喋れる。立って、動ける。

「大丈夫そうだね」


 じゃあさ、これ、噛んで。


 何でもないことのように、利人は命令する。


 ぐにゃりと倒れた、愛理の死体に向かって、言っている。


「え、でも、もう死んで――」

「だから? そんなのは知ってるよ。いいから。出来るでしょ?」

 利人に言われたら、俺は逆らえない。


 俺は赤い締め跡が生々しい月宮愛理の首元に、歯を立てた。

怪物の木こり(2023) 原作:倉井眉介 監督:三池崇史 主演:亀梨和也

モンスター(2003) 監督:パティ・ジェンキンス 主演:シャーリーズ・セロン


#みいちゃんと山田さん(なんか障害ありそう)

#Drakeposting(ドレイクが好き嫌いを主張する2コマネタ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ