怪物の誇り The Pride of the Monster
(うひひ、まずはイッチョ上がりデスネ)
鉤爪に舌を這わせ、愛理はニィッと不自然に口角を上げる。
(……今時、狂気を演出するのに刃物舐めるってのはどうかな。もう令和だよ?)
呆れ顔の利人。
それを、ほぼ地面と同じ視点から見上げている。
『俺』は今、生首になって地面に転がっている。
首を失った体は膝立ちの状態で崩れ落ちている。
靄のかかった視界。
水中にいるみたいな籠った音声。
杏子の投げた額縁で首を切られた時と同じだ。
今度は、愛理の爪で――人の首って、こんなに簡単に落ちるモノなのか。
(うるさいデスネー! 優れた表現は普遍的ナンデスヨ!)
(なんか障害ありそう。山を下りたら福祉センターに行ったら?)
(言われ飽きたことを言わないでクダサイ!)
(いきなり親友の首を切られたんだ。言葉もきつくなるだろ)
そう言って、地べたに落ちた『俺』を拾い上げて胸元に抱える。
(可愛いとこ挙げてかないと切るの首だって予告シマシタヨネ? 冗談だと思ったンデスカ? わたし冗談言わないンデスヨ?)
(まあ存在自体が冗談みたいな人だしね)
(わたし、今日楽しみにしてココに来たんデスケドネエ。血で血を洗うコロシアイがデキルッテ。今日ばかりはどれだけ人の顔を切り刻んでも許サレル。無礼講ならぬ無惨講とでも言うんデスカネエ)
それが、これはナニ?
(蓋を開けて見れば祠壊してのモンスター使役バトルばっかじゃナイデスカ! 面白くないとは言わないけれど、わたしが望んでるのはそんなのジャナインデスヨ! わたしは人間同士のコロシアイがしたいんデス!)
左手にはめた鉤爪をビッと斜め下に振り、僅かに残った俺の血を払い落とす。
(祠モンスター同士が戦うのをただ眺める……ウェェ……)
自身の左側に右手の平を突き出し顔を顰めて拒絶の姿勢を見せる。
(人間同士が血で血を洗うコロシアイをする……イイネ!)
左手の人差し指を左方向に突き立てて笑って好意を見せる。
カナダのラッパー、ドレイクか。
(さっき、サメの攻撃から僕たちを助けてくれたのは?)
(そんなの、獲物を横取りされたくないからに決まってマス! 古賀オヂサンのサメは確かに強力デスケド、わたしだって強いんデスカラネ! 正々堂々、人間同士のコロシアイをしてクダサイ!)
(ああ、そう……そっちがその気なら、僕としても応えるしかないかな)
冷静な利人な声がボワンボワンと響く。
その声が、不意に近くなる。
『俺』を抱き上げて耳元に口を近づけたのだろう。
(チェストパスで愛理に投げるよ。後は、桃の時と同じで)
言われた数秒後に世界が並行方向に高速移動する。
利人が事前予告した通りに『俺』を愛理に投げたのだろう。
『俺』は愛理の胸元に――投げ込まれるかと思ったのだけど、そこに到達する数センチ前で、阻止される。
ザシュ、という籠った音。
(ワンパターンナンデスヨ!)
目の前に愛理の顔がある。
利人のパスで『俺』は彼女の首元に噛みつく予定だったのだが、それより愛理の爪の方が速かったらしい。
さっきのは、首の切断面に突き刺した音か。
(この月宮愛理を馬鹿にシテルンデスカ! アンタたちのやり方は散々目の前で見てきたんデスカラネ! 人のことをコケにする連中には、〝こう〟デス!)
そう言って彼女は『俺』を右手で抱え込み、切断面に対して鉤爪を高速で上下させて連続突き刺しをする。
痛覚はない。
ただ、衝撃と肉がグシャグシャ言う音が不快だ。
(別に人のこと変態だのイカレ女だの言うのは構いマセン! だけど馬鹿にされるのはプライドがユルサナイ! イイデスカ! アンタたちは、十二人もの人間を殺した怪物を相手にしてイルンデスカラネ!)
(そう――じゃあ、ちゃんと相手しないと失礼だね)
後ろから利人の声。
愛理に近付いたらしい。
(エ……)
あまりに自然かつ突然の動きで、しかも『俺』への攻撃で両手が塞がっている愛理は反応が遅れた。
(グェ――)
蛙が潰されたような音が、愛理の口から洩れる。
彼女の手から『俺』が落ちる。
ヤシの実のように地面に転がる『俺』。
視線の上、利人が愛理の背後に回って首をロープ紐で締め上げている。
あのロープは地底人を欺くために使ったものか。まだ持ってたんだ。
(殺し合いがしたいって言ってたけど、君がしたいのは一方的な殺戮だよね? 殺し合いなら、立場は対等じゃないと。よく言うじゃない。狩る資格があるのは、狩られる覚悟のある者だけだって。頭脳専門のうらなりに戦闘能力なんてないと思った? そっちこそ、馬鹿にしないでね)
愛理を締め上げながら淡々とそう語り――最後に、彼は彼女の耳元に口を近づけ、何かを告げた。
ここからでは聞き取れない。
ただ、それを聞いた愛理は大きく目を見開き、ガクガクと足を震わせ、泡を吹いて白目を剥く。
絶命したらしい。
利人が力を抜くと、愛理の体は重力に従ってその場に崩れ落ちる。
それを一顧だにせず、利人は『俺』を持ち上げ、首無しになった体の方に持っていって、本来あるべき場所に、戻す。
それで、『俺』は俺に戻る。
「ケガはない?」
優しい利人の声。
柔和な顔。
「ケ、ケガって言うか……俺は……」
俺は、無事だ。
見える。聞こえる。喋れる。立って、動ける。
「大丈夫そうだね」
じゃあさ、これ、噛んで。
何でもないことのように、利人は命令する。
ぐにゃりと倒れた、愛理の死体に向かって、言っている。
「え、でも、もう死んで――」
「だから? そんなのは知ってるよ。いいから。出来るでしょ?」
利人に言われたら、俺は逆らえない。
俺は赤い締め跡が生々しい月宮愛理の首元に、歯を立てた。
怪物の木こり(2023) 原作:倉井眉介 監督:三池崇史 主演:亀梨和也
モンスター(2003) 監督:パティ・ジェンキンス 主演:シャーリーズ・セロン
#みいちゃんと山田さん(なんか障害ありそう)
#Drakeposting(ドレイクが好き嫌いを主張する2コマネタ)




