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猩々の王 King Kong

 二人が離れた場所でほぼ同時に祠を破壊したことで、紫色の魔法陣もほぼ同時に現れる。

 それぞれの魔法陣から現れる異形の怪物。

 

 如月の魔法陣から出てきたのはボロボロの包帯を全身に纏った怪人。


 愛理のからは全長一〇メートルは優に超える巨大なゴリラが出てくる。


「古代エジプトから蘇ったミイラ男です」

「コングちゃんデスヨー!」

「露骨に解説の情報量が減ったね……」

 あまりツッコミをしない利人がボソリとこぼす。式紙を剥がされたために詳しい情報が分からないのだろう。どの祠にどんなモンスターが封じられているかは覚えているようだけど、さすがにモンスター情報までは頭に入っていないらしい。

 普段キレキレのツッコミを見せる寺生は何も言わずに眉間に皺を寄せている。

 それよりも。

 これ――どうするんだ。

 さらりと言ってるけど、巨大ゴリラとミイラ男だぞ。

 どう戦えってんだ。

 指示を仰ごうと利人を見る。


「隙を見て噛み付いて」


 ウチの軍師、ここに来て戦術が雑になってきている。

 いや、違うか。

 今までの戦果を考えると、俺が単独で倒したのは桃と半魚人の二戦だけで、そのどちらも俺は噛みつき攻撃を用いている。

 要するに、俺は噛んで攻撃するのが一番強いのだ。

 ならば利人の指示は理に適っているのか。

 どこか釈然としないものを感じながら、俺は緩慢に体を動かす。

 頭の動きと同様、徐々に体の動きも鈍くなっている気がする。

 疲労とダメージが蓄積しているのだろうか。脚も腕も強張って上手に動かせない。

 そんな俺の横をおタカさんが颯爽と駆け抜けていく。

 目指す先にいるのは大猿だ。

 おタカさんも相当な長身だが、それでもゴリラの膝下にも届かない。この身長差でどう攻撃するんだ――と思った矢先、彼女は重心を下げてゴリラの右脚に全力のタックルをお見舞いする。もちろんゴリラとて無抵抗の訳はなく右腕を振り下ろして払おうとするが、おタカさんはそれより速く組み付いた右脚を怪力で持ち上げ、バランスを崩して倒す。

 凄い。もうダウンを取ったぞ。霊長類最強だ。

 

 ――なんて、感心していちゃダメだ。


 俺も、戦わないと。


 強張る手足を無理矢理動かし、俺は倒れたゴリラの右の太腿に犬歯を立てる。

 太腿には太い血管が通っている。それを破ることが出来れば大量出血が狙える。

 とは言え、体毛は金たわしのように硬く、皮膚も樹皮のように硬質だ。

 関係ない。俺は歯を進める。

 口の中が切れる。顎に強い負荷がかかる。正直、かなり辛い。丸太に歯を立てているようだ。メキメキと顎から嫌な音がする。

 これは、無理だ。

 文字通り歯が立たない。

 口を離し、顎をさすりながら顔を上げると、ゴリラの体の上を疾走するおタカさんの姿が目に入る。頭部に向かっている。これだけ硬い体毛と強靭な肉体相手に徒手空拳は厳しいから、目や口などの粘膜を狙いに行ったのだろう。

 勿論、そのまま大人しくしている相手ではない。

 太腿付近で座り込む俺と胸あたりまで到達したおタカさんを両手でムンズと掴み、少し振り上げて、そのまま地面に叩きつけられる。

 咄嗟に受け身を取ったが、全身に強い衝撃が走る。

 その間に奇襲でダウンを取られた巨大ゴリラは素早く立ち上がり、両拳で胸を叩きながらその場で激しく地団駄を踏む。俺たちは慌てて逃げるが、奴が大地を踏みしめるたびに振動するために上手く移動できない。そんな俺たちの状態が分かってるのか、次にゴリラは両手でそこら中の地面を強くスラップする。その巨大な手の平に叩き潰されないように、また振動で体勢を崩さないようにと俺は全神経を集中して距離をとろうと努める。だが追撃は止まらない。今度は体勢を低くし、雑巾掛けをするような姿勢でその場で半回転。これは流石に避けようがなく、俺たちはその巨大な手に薙ぎ払われて五メートルも後方に吹っ飛ぶ。トラックにでも跳ねられたようだ。

 ダメだ。

 無理だ。

 こんなの、敵う訳がない。

 モンスターはモンスターでも、『怪物』ではなく『怪獣』だ。ジャンルが違う。

 こんなのを倒せるのは重火器を搭載した軍隊か、さもなくば別の怪獣だ。


 どうしよう。


 途方に暮れた俺はいつものように利人の方を振り向こうとした。

「……ぐっ」

 だけどそれより早く、首に何かが巻き付く。

 瞬く間に食い込み、気管と頸動脈を圧迫する。

 渾身の力を込めて振り向くと、薄汚れた包帯の塊が視界に入る。

 ミイラ男が、自身の包帯を使って俺を締め上げているのだ。

「貴方はどうも、目の前のことに気を取られると他への注意力が散漫になるようですねえ。二対二だと言ったばかりじゃないですか」

 如月が薄笑いを浮かべながら呆れた声を出す。

 腹が立つが、正論だ。

 完全にミイラ男のことを忘れていた。

 こんなところで、こんなことで俺は死ぬのか――。


 と思ったところで、救いの手が差し伸べられる。

 いや、そんな穏当なものではない。

 おタカさんが、吹っ飛んできたのだ。

 見ていなかったが、恐らくコングに向かって行って掴んでぶん投げられたのだろう。

 俺たち二人はそのまま三メートル、一緒になってゴロゴロと転がる。

 考えうる限り最も荒っぽいやり方だしおタカさんも意図した訳ではないだろうが、その衝撃で包帯は切れて縊死の危険性は消え去った。

 取り敢えず、ではあるが。

 転げまわって起き上がった俺は、慌てて辺りを見渡す。

 如月に馬鹿にされたからではないが、周囲への警戒は大切だ。

 巨大ゴリラのダイナミックな範囲攻撃とピンポイントの掴み投げ攻撃に隠れて、ミイラ男が背後から包帯で締め上げるという戦法なのは分かった。

 だけど、どれだけ探しても解けた包帯が散乱しているだけでミイラ男の姿が見えない。

 ……どこに行った!?

 この山頂部分は無数の祠があるだけで、他には建造物も、木の一本も生えていない。隠れられる場所なんて、どこにもないのに。

 いや、あるにはある。

 コングの体の陰だ。

 一〇メートル越えの大猿ならば、細身のミイラ男は余裕で身を隠すことが出来るだろう。

 しかし、コングはドッタンバッタンと絶えず暴れているのだ。常に動き回る怪獣の身に隠れるのは、あまり現実的とは――


「史也、前!」


 利人の声に、弾かれたように前を向く。

 ゴリラがこちらに向けて巨大な手を振り下ろしている。周囲への警戒を怠らないようにと思ったばかりなのに。

 避けようとしたが、どういう訳か体が動かない。


 何だこれは⁉︎


 金縛りか⁉︎


 モタモタしている間に大猿の手は俺の体を吹き飛ばし、十メートルも山肌を転げ回る羽目になる。身体中から嫌な音がする。あちこちの骨が折れたのだろう。

 続いて、今度は握り拳をおタカさん目掛けて振り下ろす。

 勿論彼女も避けようとするが、俺と同様、動けないでいる。

 助ける間もなく、彼女は叩き潰される。

 ゴリラが上げた拳の下、おタカさんはカートゥーンのようにぺしゃんこになっていた。

 これでは上手くヘッダーに収まってしまう。


「おタカさーーーん!!!」


 思わず叫ぶ。

 身体中に激痛が走った。

「二人とも何で避けないの⁉︎」

 利人が当然の疑問を口にする。

「か、体が動かなくて...」

 小さい声で、それだけ呟く。

「ファラオの呪いですよ! これぞミイラ男の真骨頂! 呪いには呪いをぶつけるんだってことですね!」

 如月が身を捩って笑っている。俺たちが苦しんでいるのが楽しくて仕方ないらしい。

「ふざけンなよ、クソがッ!」

 寺生は足元の式紙を足蹴にし、QRコードが描かれた無数の紙は広範囲に散乱していった。

キングコング(1933) 監督:メリアン・C・クーパー、アーネスト・B・シュードサック 主演:フェイ・レイ


#うまくヘッダーに収まらない……

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