スマホを見ていただけなのに
歯型だらけの骸の向こう、派手なスーツの如月が引き攣った笑みを浮かべている。
「へ、へえ……結構やるじゃないですか」
と思えば、向こうでは愛理がまた頓狂な声を上げている。
「あーん、ゼノちゃんがやられマシター!」
顔を上げると、押し倒した異星人の腹の上に馬乗りになり、引きちぎった頭部を誇らしげに掲げるおタカさんの勇姿が目に入る。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーー!」
彼女なりの勝鬨だろうか。引き絞ったような不気味な声音だが、それでも誇らしさのようなものが伝わってくる。
やはり暴力――暴力は全てを解決する。
異星人の頭部からは緑色の体液がしたたり落ち、それが夕陽に照らされて一種異様な美しさを演出している。完全な白星を上げたおタカさんだが彼女とて無傷と言う訳ではなく、異星人の槍のような尾は彼女の腹に大きな風穴を空けているし、返り血ならぬ返り酸をまともに浴びたために顔の右半分はデロデロに溶解している。ただ、何度も寺生が説明したように彼女は呪力をエネルギーに変換させて受肉している存在で、元から血は通ってないし、一般の生物であれば致命傷となるダメージも少しずつ自己修復してしまう。こんなの、無敵じゃないか。
普通のメンタルならこんなバケモノ相手にしたら心が折れてしまいそうなものだが、月宮愛理はへこたれない。
「では張り切って二回戦とイキマショー!」
意気揚々とスマホを持つ右手を振り上げるが、その動きはピタリと止まる。
「……あれ⁉︎ シキガミがありませんヨ⁉︎」
大きな目を見開き、目の前の祠を凝視している。釣られて俺も祠を見る。
沢山並ぶ祠に変化はないが、正面に貼られていた紙がなくなっている。
「シキガミってのはこれのことか?」
別の方向から声がする。
寺生だ。
見れば彼は祠に貼られていたであろう紙を全て剥がし、その裏面に何やらマジックで落書きをしているようだった。
「アー! 落書きしたらダメなんですヨー!」
「うるせえな。裏面だしいいだろ。表には何もしてねェよ――ってか、面白いこと考えるなァ。確かにこりゃオレにはねェアイデアだよ」
「それ何ですか」
「よくぞ聞いてくれました」
俺は寺生に聞いたのだけど、答えたのは如月の方だった。
「それは僕が独自に開発した『式』を打ち込んだ特別な紙なんです。式の紙、故に式紙」
式紙か。音だけだと『式神』か『敷紙』かと思ってしまう。
「式、ねえ――これがか」
呆れたような声で、寺生は紙の表をこちらに見せる。
それはパッと見、グレーの正方形に見えた。
だがよく見るとグレーなのではなく、縦横に黒白が幾何学模様を描いているために遠目にはグレーに見えたのだ。
と言うか、これ――。
「それをスマホで読み込むことで祠モンスターの情報が分かるんです。縦横のマトリクス型二次元コードですね」
「世界はそれを、QRコードと呼ぶんダゼー!」
左手の鉤爪を高く振り上げながら愛理が叫ぶ。サンボマスターか。
なるほど、如月も愛理も紙にスマホを向けながら召喚したモンスターの説明をしていたが、それは祠に貼られた紙のQRコードを読み取ってのことらしい。
「……まあ、そういう呼び方もありますが」
「オメェ今、自分が独自に開発したって言ったけど、これ発明したのは九〇年代のデンソーだからな。ちゃっかり自分の手柄にするンじゃねェよ」
「…………」
ナチュラルにパクリを行った如月に対し、今さっき高らかにツッコんだ愛理は半身振り向いた姿勢でドン引きした顔をする。M1決勝戦の高比良くるまか。
「とは言え、これが『式』だってのは面白いぜ。式ってのは、決められたやり方であり、作法だ。そのまま英訳すればセレモニーやスタイルになるが、今風の気取った言い方をするならアルゴリズムだな。『こうしたらこうなる』っていう決まりを形にしたもので、そこに舞台装置と衣装と人の動きを当てはめれば『儀式』だし、定数や変数を入れれば『方程式』になる。んで、力と形を与えれば『式神』だ。言ってみれば祠壊して召喚して使役するモンスターも、一種の式神と言えなくもない。式神を呼び出すのに式を用いるってのは洒落てると思うぜ――ただぁ!」
と、そこまで持ち上げていたのに一転、鋭い双眸を如月に向ける。
「これ、必要あるか? わざわざスマホかざして読み込んだりしなくても、最初から全部覚えとけば済む話だよな?」
「あのね、祠は108つもあるんですよ? 貴方、そこに封印されてるモンスターをどれだけ覚えてるって言うんです?」
「全部だよ」
「全部!?」
人を小馬鹿にした薄ら笑いを浮かべていたのが一変して驚愕の表情に変わる。半沢直樹の大和田常務か。
「そうだよ。それが祠管理するオメェの仕事だろ。現にオレは全部覚えてるぜ」
「嘘だ! ハッタリだそんなの!」
「スマホに頼っているようじゃ無理か。祠の場所はね、入れとかないと。スマホがないと管理できないなんてのは九割甘え。暗記力があればなんとかなる。要するに便利さを手放せないだけだ。スマホに頼るなって言ってンじゃないの。頼りすぎるなって言ってンの」
菊池風磨のように始め、ネット上の識者のように続け、池袋ウエストゲートパークの窪塚洋介のように締める寺生。
「そこまで言いマス!? スマホを見てただけナノニ!」
愛理が悲鳴を上げる。いや、アンタも無言で加担してたけどな。
「い、言わせておけば勝手なことを! 僕だって祠の場所くらい頭に入っている! これはあくまでゲーム参加者にモンスターの情報を与えるためのサービスだ! 使役するモンスターのことを熟知していた方がゲームが盛り上がりますからね! こっちはゲーム運営のことを考えて動いてるんですよ!」
「嘘つけ。おタカさんの祠に式紙なんて貼ってなかったぞ」
「川町孝子の祠は間違いなく貴方――寺生丁が壊すと分かっていましたからね。情報提供は無用と判断しました」
「何が『無用と判断しました』だよ。横着しただけじゃねェか」
そう言えば、古賀が壊したチート鮫の祠にもこんな紙はなかった。あのオッサンは他の参加者に見つからないように迷彩シートで隠してたと言っていたが、そもそもあの祠は古賀が壊すことを想定していたのだ。あ、そう言えば――
「貴方は何が何でも僕のやることに文句をつけないと気が済まないようですね! もういいでしょう、これ以上の問答は不毛です! 二回戦と行こうじゃないですか! 祠はまだこれだけあるんだ!」
腕を広げ、紅に染まった無数の祠を示す如月。
何か思い出しそうな気がしたが、今の如月の発言で霧散してしまった。
俺の頭には依然として霧が立ち込めている。
「望むところだ。おタカさんも、準備はいいな?」
聞く寺生に、すでに異星人から受けた傷を完全修復した怨霊がコクコクと頷く。
「あ、待ってクダサイヨ。おタカっちの相手はあたしデスヨ? 如月サンはこっちのオニーサンデショウ?」
「もうこうなったら細かいことは抜きですよ。2vs2です」
早口でそう言って、一瞬視線を彷徨わせた後で少し離れた所にある祠を斧で小突いて壊す如月。
数瞬遅れて、愛理も別方向に離れた場所の祠を鉤爪で引っ掛けて倒して壊す。
本当に祠の場所を覚えているのだろうか。
対する寺生は無言で持っていた式紙の束を前方に投げ捨て、俺は――無言でファイティングポーズをとる。
宣戦布告の、意味を込めて。
俺はまだ死なねぇぞ。
スマホを落としただけなのに(2018) 原作:志駕晃 監督:中田秀夫 主演:北川景子
#あーん! スト様が死んだ!
#暴力は全てを解決する
#「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」のサンボマスター
#ドン引きする令和ロマンの高比良くるま
#霜降り明星粗品の1人賛否
#驚愕する大和田常務
#菊池風磨構文
#9割甘え構文
#IWGPの窪塚洋介
#ニート「真夜中になると部屋でファイティングポーズをとる」コピペ




