異邦人 ALIEN
「ん、美しい夕陽。心安らかなり」
霧が晴れて夕陽に照らされた無数の祠の前で、目を細め仰ぎながら鮫島は呟く。
「元理事長みたいに言うな」
寺生がいつもの調子で突っ込むが、さすがに今はそんな状況ではない。
「て、寺生さん、これは――」
「これはも何も見ての通りだヨ。いくつもの悪しき者を封じ込めたって言ったろ。祠は山全体に散らばっているが、特にこの山頂付近に集中している。
その総数は、108だ」
眩暈がした。
108?
百と八つも、モンスターを封じ込めた祠があるのか?
「――人狼、妖怪樹、殺人人形、ヒグマ、チート鮫、アナコンダ、地底人、殺人ロボット、死の運命、ポルターガイスト、怨霊……今まで僕らが見てきたモンスターが11。残りは、97か。もちろん会ってないモンスターも多いだろうけど……」
利人が素早く計算する。
そんなの、どうするんだよ。
「さあパーティーの始まりダゾー!」
無数の祠をバックに、右手人差し指を天高く掲げて宣言する愛理。
しなこか、と誰かが突っ込むより早く、彼女は少し離れた場所にある祠に右手の鉤爪を引っ掻け、倒すようにしてそれを破壊する。
ガシャンと音を立てて祠は倒壊し、木と石と紙の瓦礫に変わり、それは瞬時に紫色の魔法陣へと姿を変え、そこからモンスターが姿を現す。
なるほど、今まですでに呼び出されたモンスターしか見てこなかったが、召喚の瞬間はこうなるらしい。
魔法陣から、異形の存在が姿を現す。
まず目を引くのが、異様に大きい頭部である。
それは前後に伸びていて、エクレアみたいな形状をしている。ただ色調は濃く暗い緑色で、眼窩はなく、鋭い歯は剥き出しで、唾液は酸になっているのか地面の砂利に垂れるたびに白煙を上げる。二足歩行で手には鋭い爪、尾は長く先端は槍のように尖っている。
昆虫や甲殻類を人型にしたようにも見えるが、どこを切り取っても攻撃性の塊のような存在で、むしろ無機質な殺戮兵器のような雰囲気を纏っている。
「こちら、遠い宇宙からやってきた異星生物、ゼノ君デース!」
愛理がまた調子っ外れな声でたった今出てきた異形の存在を紹介する。
「全身は金属室の硬い甲羅に覆われていて体液は強い酸性で鉄をも溶かす。二重の口、インナーマウスも強く敵の装甲を簡単に貫く――おお、これは初手から強キャラデスヨー!」
左手の鉤爪に紙が突き刺されていて、それに右手のスマホを向けて画面を見ながら喋っている。
何だあの紙は。
気になったが、それよりもこの異星人の方が脅威だ。
現に俺が身構えるより早く奴はこちらに向けて踏み出す。
「いけおタカさん! 本気出していいからさ!」
寺生が言い終わるより早く長身の怨霊が飛び出し、突っ込んできた異星人とお互いの両手を掴む形で正面からぶつかる。重心を落として力任せをする二つの異形の存在。ズズ、と僅かに異星人が押される。おタカさん優勢か、と思われた次の瞬間、異星人は大きく口を開き、瞬時に細長いインナーマウスがおタカさんの顔面に突っ込んでくる。
が、彼女は首の動きだけでそれを回避。
逆に伸び切ったインナーマウスをむんずと掴み、更に体勢を低くして背負い投げをする。
まともに地面に叩きつけられた異星人は受け身を取ってすぐに立ち上がるが、おタカさんは隙を見せない。ダッシュで踏み込みガラ空きの顎に跳び膝蹴りをお見舞いし、怯んで前屈みになったところにボディブローのラッシュだ。これには異星人もたまらず酸を吐き出し、その場に膝をつく。
「メチャクチャ強いじゃないですか!」
「呪力を質量に変えて実体化してると言っただろ。質量と言うのは、つまりエネルギー、パワーだ。おタカさんは呪いの力も充分だが、ステゴロだっていけるんだよ」
俺の方を見ながら、親指で後方のおタカさんを指し示しながら自慢気に言う。
見なよ、オレの孝子を――とでも言わんばかりの態度だ。
「思ってたのと違う!」
愕然とする俺の耳に、パチパチと手を叩く音が届く。
横を見ると、鮫島村長が笑顔で拍手している。
「いやぁ、凄い凄い。流石は稀代の大怨霊だ。強敵だと思ってこちらも強いモンスターを当てがったんですが、思いのほかに熱いマッチになっていますねえ」
まんまコロシアムを見る貴族の立場だ。寺生は何か言うのも嫌なようで、黙って中指を立てている。
「僕のことを忘れていませんか」
また別の方から声。
如月だ。
「マッチングは一つではありませんよ。僕もいるんですから」
並ぶ祠にスマホを向けながら白い歯を見せる。それを見て寺生は軽く溜息を吐く。
「刹那で忘れてたわ」
「ふざけたことを言ってるんじゃ――まあいいでしょう。貴方は相方と異星人のマッチを見ていてください。僕はこちらの二人に用があるので」
そう言って、俺たちの方を向く。
「貴方がたのお相手は――こちらです!」
スマホを持った手で祠に貼られた紙を引っぺがす。
今まで気が付かなかったが、沢山ある祠には一つ一つにA4サイズの紙が正面に貼られていた。
距離があってよく分からないが、何やらごちゃごちゃとした黒い模様のようなものが印字されている。
呪文か梵字の類だろうか。
要するに、封印のためのお札だ。
キョンシーが額につけられると動きを制止する、アレだ。
如月はスマホと紙を右手に持ち、左手に持った手斧で紙を剝がした祠を小突いて崩す。
魔法陣――から、異形の存在。
二足歩行だが全身は緑色の鱗で覆われていて、頭髪はなく、顔の両側には大きな鰭のような部位が広がっている。
「半魚人のギルマンです。獰猛な性格と高い知能を併せ持ち、水陸両方での呼吸が可能。鋭い爪と牙で相手を亡き者にする恐ろしいモンスターです!」
手斧を脇に挟んだ如月は左手に持った紙をスマホで撮影し、その画面を見ながら半魚人の解説をしている。
さっき異星人を出した愛理も同じことをしていたが――何だ? あの紙をスマホで映すと解説文が読めるのか?
などと下らない考察をしている暇などなかった。
出現した半魚人が、こちらに向かってきたからだ。
おタカさんは相変わらず異星人と死闘を繰り広げている。
俺が、闘わないといけないらしい。
なんでだ。
俺も利人も、ゲームの参加者じゃないのに。
今まではかかった火の粉を払うつもりで嫌々ながら戦ってきた。
本当は今すぐにでもこの山を降りたい――と言うか、部外者なのだから降りなければならない。
それなのに、今こうして運営側を相手取ってバトルが開始している。
逃げよう。
咄嗟にそう思った。
利人の手を取って脱兎の如く逃げるのだ。
寺生やおタカさんの行く末が気にならないでもなかったが、無理くり連れて来られたとはいえ寺生はゲームの参加者で、おタカさんは彼に召喚された存在だ。
俺たちとは違う。
こんな百鬼夜行バトルロイヤルにこれ以上関わっていられるか。
そう思って利人の方を振り返ったのだけど――
「噛んで」
無慈悲にも、親友はそう言い放った。
「噛み千切って。今の史也はそれが一番強い。もう武器とか殴る蹴るとかしなくていい。噛んで噛んで噛み千切って。それで勝てるから」
そんな。
俺は。
それじゃ――
そうするしかないじゃないか。
全身緑色の半魚人は右腕を振り上げ高く跳躍して襲い掛かってくる。
手の先の鋭い爪が、夕陽に照らされてキラリと光る。
俺は身をよじって半魚人の爪をすんでのところで避ける。
いや、少し肩をえぐられた。
――それが、何だ。
跳躍なら人狼の方が高かったし、スピードなら地底人の方が速かった。
パワーならヒグマの方が、痛みなら妖怪樹の蔦攻撃の方が鋭かった。
全てにおいて、今までに戦ってきた相手の下位互換。
……馬鹿馬鹿しい。
俺は、半魚人の腕を掴んで引き寄せて首筋に歯を立てる。
鱗が硬く口内で飛び散って幾らか切ったけど、別にそんなの関係ない。
噛む。
噛む。
噛み千切る。
鱗こそ硬かったけど、その下は皮膚があって皮下脂肪があって筋肉があって、その途中に動脈や気管や神経があるだけのことだ。
全て根こそぎ、噛み千切る。
味も匂いも感じない。
ただ、血の通う存在を噛む顎の感触だけは強く感じる。
触覚だけが突出している。
ああそうだ。視覚も聴覚もどうにかなってしまったのか、苦しむ相手の姿も断末魔もほとんど気にならない。
噛む。
噛む。
噛み千切る。
気が付いた時、目の前には俺の歯型が無数についた血まみれの半魚人が事切れていた。
エイリアン(1979) 監督:リドリー・スコット 主演:シガニー・ウィーバー
#籠池構文
#しなこミーム(〇〇するゾ~!)
#見なよ…オレの司を…
#ライトウィング(刹那で忘れてたわ)




