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変な家

 勝利宣言をした寺生はゆっくりと立ち上がり、額縁を手にして階段へと向かう。何の説明もない。

「ちょっと、一人で行くつもりですか!?」

 焦った声を出す利人。

「一人? 一人じゃねえよ。まあ見てろって」

 そう言って再び背中を見せる。

 そこで、俺は気が付く。

「……おタカさん、どこ行った?」

 辺りを見渡すが、どこにもいない。定位置である寺生の傍らにもいない。さっき倒れた時もそうだったが、大柄な割に出たり消えたり神出鬼没な人だ。

「悲嘆に暮れてるところ悪いけど、邪魔するぜ」

 俺たちがキョロキョロしている間に、寺生は階段を登り切り、杏子の手前五メートルの位置にまで到達していた。俺たちは身を低くして階段を上り、少し後ろから様子を窺う。

「…………」

 寺生の登場に対して杏子は無言だ。ただ、物凄い目力で睨みつけているのはここからでも分かった。視線にエネルギーがあれば、今頃寺生の顔には風穴が空いている。

「残念だったなァ、仲のいい姉妹だったのに。ご愁傷様。いやァ、あれだけ死ね死ねってイキっていた張本人が真っ先に()()ぬなんて、世の中は残酷だねェ。ご冥福をお祈りいたします」

 煽ってる。

 煽っているよ、この人。

 今の杏子にそんな態度を取ったらただでは済まないだろうと思ったのだが、案の定ただでは済まなかった。


 

「アアアアアアアアアアアアアーーーーーッッッ!!!」



 杏子の絶叫と共に、二階にあった全て窓ガラスが同時に割れ散る。


「クソボケのーッ!

 バカガキ共が図に乗ってーッ!

 妹の仇! 絶対に許さんッ!!!」


 事実として桃の命を奪ったのはこの俺で、杏子もそれは目の前で見ていた筈なのだけど、寺生の挑発に完全に我を失ってしまっている。

「バチギレ百人一首を披露してもらったところ悪ィんだけどさ。それでもオレらの勝ちは確定してるんだわ。悪く思うなよ」

 怒りで紅蓮の炎を滾らせる杏子に対しても余裕の態度を崩さない寺生。

 それほど己の策に自信があるのだろうか。

 何をするのかと固唾をのんで見守っていると、腰を落とした寺生、身体を捻って――右手に持っていた額縁を、水平に振りぬいた。

 フリスビーを飛ばすフォームだ。

 縁が鋭利に削られているため、チャクラムというか、巨大な手裏剣のようになった額縁は回転をかけて杏子目掛けて飛んでいく。

 普通なら、その巨大な回転刃は杏子に多大なる傷を負わせ、命を奪うまではいかなくてもそれ相応のダメージを与えるのだろう。

 でもこの家は普通ではない。

 この場は、杏子の――正確に言うなら杏子が祠を壊して召喚したモンスター『ポルターガイスト』の支配下にある。

 利人の読みでは、この家にある全てが凶器で脅威なのだとか。


 だから。


 杏子を目がけて飛んでいった禍々しいフリスビーは、彼女に到達する前に進行を阻止され、弾かれ、杏子の前に落ちる。

 何が障害物になったのかと目をこらすと、フローリングの床板の一部が剥がれて持ち上がり、障壁となったらしかった。

 床板まで、操るのか。

「やばいですよ寺生さん! 逃げた方がいいです! 窓から飛び降りましょう!」

 押し殺した声で利人がアドバイスを送る。

 だがしかし、その声に反応したのか、今さっき窓ガラスを割った全ての窓の雨戸が凄い勢いで閉まっていく。

 暗くなる室内。

 もう、簡単には逃げられない。

 

「おい、窓から出られねェぞォォォ!」


 寺生が焦った声を出す。

 と言うかこの人、縁を削った額縁が手に入ったから――それだけの理由で勝利を確信していたのか!

 それを投げてダメージを与えれば、杏子の方も倒せると?

 だとしたら、さすがにそれは舐めすぎている。

 杏子はこの家の全てを操れるのだ。

 でもまさか、フローリングの床板までとは思わなかったけど。


「アアアアアアーッ! 死ね死ね死ねーーーーッッッ!!!」


 ガラスが割れて雨戸が閉まって一切の役割を果たさなくなった窓だが、そこにもカーテンはついている。

 そのカーテンを束ねる紐――ラッセルと言うのか――それは、両端にカラフルな球を付けた紐であった。

 見覚えがある。

 ああ、トイレで水攻めに遭っている時に俺を襲って拘束したあの紐ではないか。

 不自然な動きをすると思っていたら、この球付き紐も家の一部だったのだ。

 それが俺の感じる違和感で――愚鈍な俺がようやく違和感の正体に気が付いたと同時に、それら複数のラッセルは高速で発射され、瞬く間に寺生の手足を拘束していた。

 もちろんそれで終わりではない。

 メキメキと、辺り一帯のフローリングの床板が剥がされているのだ。

 それらは当たり前のように宙に舞い、空中で鋭利に折られ、その切っ先が寺生を向く。

 さっき割られた窓ガラスの破片も同様だ。

 それだけではない。

 かつて食器棚から落ちておタカさんを仕留めた――と思われていた――食器類や、椅子、ソファ、テーブル、棚、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、エアコン、アイロン、照明具、それら一切合切が凶器となり宙に浮き、寺生を、そして俺と利人を狙っている。


 もう、駄目だ。


 絶体絶命だ。

変な家(2024) 原作:雨穴 監督:石川淳一 主演:間宮祥太朗


#ブチギレ百人一首

#察しの悪い雨穴

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