超常現象 Paranormal Activity
「寺生さん、落ち着いて聞いてください。寺生さんが気絶している間におタカさんと史也が負傷しましたが、逆に史也が単騎無双して桃の首をナイフで切って殺して勝利しました」
階段の真下、階上の手摺が見える場所で身を低くしながら、目が覚めたばかりの寺生に現状を説明する。
だけど――あれ?
今、利人は『俺が桃の首をナイフで切って』と説明した。
本当は、生首状態になった俺をスリーポイントシュートの要領で利人が投げ、俺が桃の首に嚙みつき、頸動脈を食いちぎって殺したのだ。
事実と違う。
だけど、親友は真っすぐ寺生の目を見ながら言っていて、嘘を吐いているようには見えない。
どうせ本当のことを言っても信じないだろうから適当なことを言って誤魔化す――という感じでもなく、本気でそう思っている口ぶりだ。
……俺の頭が混乱しているのか?
視界や物の聞こえ方はクリアになったが、今度は思考の方が混濁してくる。
「ふぅん……思った以上にやるんだな」
話を聞いた寺生は素直に感心している。
「でも、事実と違うところが一つだけあるな」
寺生の指摘に俺は一瞬身構える。
俺と同じ違和感に気付いたのだろうか。
いや、そんな訳がない。
ずっと気を失っていた寺生に分かる訳がない。
「おタカさんが負傷したって言ったか? そりゃ嘘だ」
案の定、別のことだった。
「いやでも、倒れた食器棚から落ちて割れた皿の破片やらナイフやらが飛んできて、それを全部体の正面に受けて倒れたんですよ」
「だからおタカさんは『そういうの』じゃねェっての。なあ?」
そう言って右を見ると、膝を曲げてしゃがみこんだおタカさんが寺生の顔を見返してコクコクと頷いている。
「あれ!? 確かにさっき――」
「そりゃまあ、物理的な干渉で多少怯むことはあるかもだけど、ンなもん長くて数分だよ。それでやられるようなタマじゃねェの」
「えっと、この人は一体――ああいや、そのことは後でゆっくり聞きます。今はあまり時間がないので、まず僕の話を聞いてください」
ようやく、ずっと気になっていたことを聞かせてもらえるかと思ったのだけど、まだお預けされるらしい。
「結論から言います。トイレを脱出してからの一連の攻撃は、杏子の使いモンスターによるものです。ソファーや椅子、食器棚や絵の額縁に至るまで、この家にあるあらゆる物を自在に動かす怪異――」
つまり、ポルターガイストです。
利人の言葉が静かに響く。
「和訳すると『騒がしい霊』、だから見えないという点では桃の『死の運命』と共通している。ただ、桃のそれがある程度距離を詰めないと発動しないという点と、あくまで自然法則に従うというのに対し、杏子のポルターガイストはこの家にいる限り、この家の構成要素の全てが脅威になるし、その動きは重力も慣性もガン無視で自由自在に動き回る。この二つの怪異を混同して捉えていたせいで全滅寸前にまで追い詰められてしまったんです。……まあ、史也の活躍で『死の運命』の脅威は消え去ったみたいですけど」
利人の視線の先――階上の手摺の近くに、壊れた祠が現れている。
桃が、死んだのだ。
マスターの死はそのまま使いモンスターの無力化を意味する。
壊れた祠が出現したということは、そういうことだ。
「モモーーーーーッッッ!!! アアアアアーーーッッッ!!!」
杏子の絶叫が家を揺らす。
「アアアアアーーーッ!!! モモがッ! アタシの妹がーーーーッ!」
手摺の向こう、大量の血を流して動かなくなった桃の横で、杏子が髪をグシャグシャと掻き毟っている。
「桃が逝きました。杏子も今は錯乱状態ですがすぐに冷静になるでしょう。いや冷静にはなりませんね。片割れを奪った僕たちに対する憎悪と憤怒で羅刹に変貌するでしょう。恐らくこの家のもの全てが凶器になって襲い掛かってくる筈です。その前にこの家から脱出する必要があります。ここから出れば、取り敢えず杏子の攻撃は無力化できる筈ですから」
相変わらず冷静というより冷酷なまでの状況判断を見せる利人だが、寺生はそんな彼の案を一蹴する。
さっき俺を切り裂いた絵の額縁を拾い上げながら、ニヤリと笑う。
「脱出? バカ言えや。こっちの勝ちが確定してるのに、逃げ出す奴がいるかよ」
パラノーマル・アクティビティ(2007) 監督:オーレン・ペリ 主演:ケイティー・フェザーストン
#いいですか、落ち着いて聞いてください




