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雷光 The Shining

 崖を登り切った箇所には柵があって、それを乗り越えた先には舗装道路が左右に伸びていた。

 ずっと獣道のような場所ばかり移動してきたから、老朽化したアスファルトでも随分と新鮮に感じる。

 道路は向かって右手方向に傾斜がついていて、上り坂の途中には軽トラックが停まっているのも確認できる。

 人工物はそれだけではない。

 道路の脇には白い外壁の二階建てらしき建築物。

 見上げるとバルコニーが迫り出しているのが見える。

 民家と言うより、小さな宿泊施設のような雰囲気だ。

 こんな山奥にホテルやペンションがあるとも考えづらいけど――


「……また、生きて会えたな」


 建物に気を取られていたせいで、すぐ近くに腰掛ける人物に気が付かなかった。

 寺生だ。

 外壁に背中をつけ、長い脚を前方に放り出して自分の左腕を目の前に持って来て何か作業をしている。

 半袖の黒いTシャツから覗くその腕には所々細かいガラスの破片が突き刺さっていて、それを丹念に抜き取っているのだ。

 彼の相棒だと言う両目を前髪で隠した髪の長い女性も、すぐ傍に寄り添って破片を取る作業を手伝っている。

「それ、どうしたんですか」

 利人の言葉に、寺生はほんの少し顔を上げ、眩しそうな表情を見せる。

「最悪だよ。ついさっき、変な双子とすれ違ってヨ、『あの人、どんな死に方するんだろうねー』とかクスクス笑ってるからさ。お前らがやられたんじゃないかと思って、柵に手をかけて崖の方を覗いてみたんだよ。そしたらメタルブレードみたいなのが凄い勢いで飛んできてよ、まあ俺は身をよじって避けたんだけど、メタルブレードはそのままそこの壁をギャリギャリ上がっていって、上の階のガラス突き破ったらしくて、ガラスの雨だよ。そんで何かにぶつかって跳ね返ってきたのがまた身を掠めるしでよ、そっちに気を取られてガラス避けるのまでは無理だったって訳。マジで最悪だわ。クソがよ」

 堰を切ったようにベラベラと己の身に降りかかった災難を話す寺生。

 なるほど、キックバックして外れて暴走した挙句にマスターであるカメラマンの首を刎ねたアシモフの丸鋸は、その前にここで寺生にも襲い掛かっていたらしい。

「……そんなことあります?」

「実際にあったんだからしょうがねえべ。まあ死ななかっただけ儲けものと考えて――」


「あれえ? お兄さんたち、死ななかったんだー」


 寺生の話が途中で遮られる。

 声のした方を見ると、そこには先程の双子が並んで立っている。


「運がいいんだねー」

「運だけじゃ生き残れないけどねー」


 歳は十二歳ほどで、黒目がちな瞳に外国人の様な整った顔立ちをしている。それが、並んで二つ。

 顔立ちだけでは分からないが、ピンクとオレンジのワンピースの服の色と、同色のリボンをしているのでどうにか見分けがつく。

 その美少女双子が、クスクスと笑いながら俺たち四人を見ている。 

「お前らも、ゲーム参加者か」

 腕に刺さったガラス片を全て取り去った寺生がそう言って、立ち上がる。

「だからここにいるんじゃん」

 ピンク色のワンピースの方が目を細めて言う。

「お兄さん、バカなのかな?」

 オレンジ色の方が目を見開いて言う。

「おい――さっきから聞いてりゃ何だその態度は。あんま大人を舐めるんじゃねえぞ?」

「えっと、君たちのモンスターは?」

 気色ばむ寺生の横から利人が口を出す。俺もそれが気になっていた。

「……どうする、杏子?」

 ピンク色が、オレンジ色を見て言う。

「……教えなくていいんじゃない、桃」

 オレンジ色が、ピンク色を見て言う。

 どうやら、ピンク色の方が『桃』、オレンジ色の方が『杏子』という名らしい。


「そうだね――どうせ、死ぬし」


 笑う桃。


 瞬間、天が光った。


 そして轟く雷鳴。


 並ぶ双子の顔が、一瞬逆光で見えなくなる。


「よけろ!」

 寺生の声でハッとなる。

 状況確認より先に体が動いていた。

 いつものように利人の肩を押さえて背後に飛び退く。寺生も同様に、相棒の女性と一緒にバックステップしている。

 一秒後、俺たちがいた場所に細長い鉄の棒が突き刺さっていた。

「――避雷針!? 今の雷で落ちたのか」

 寺生が顔を歪ませる。

「運動神経はいいんだねー」

「死ぬのが少し遅くなっただけだけどねー」

 桃、杏子の順に話し――再び、雷鳴。

 今度はさらに激しい。

 それは坂の少し上の軽トラックに直撃したようだった。

 瞬く間に炎上する軽トラ。

 ゆっくりと、動きだすのが見える。

「マズい! ブレーキ機構が壊れたんだ! こっちに来る!」

 利人が焦った声を出す。

「いや、まだ距離がある。炎上しようがなんだろうが、車なんてものは基本真っ直ぐにしか進めねえもんだ。冷静に対処すれば問題ねえよ」

 寺生が言う。

 それはそうだ。だけど、嫌な予感がする。

 そしてその予感は当たる。


 唐突に、突風が吹いた。

  

 その場で倒れそうになる強風だ。

 俺たちは何とか踏ん張る。

 上の方でパリンと音がする。

 飛来物が窓に当たって割れたのだろう。すぐにガラス片が落ちてくる。

 さっき寺生に降りかかった災難とまるで一緒だ。

 俺たちはそれを避ける。

 風が吹く。

 追撃とばかりに、バルコニーに置いてあったらしき植木鉢がいくつも落ちてくる。

 素早く足を動かしてそれを避ける。

 次にポリタンクが落ちてくる。

 避ける。

 風が吹く。

 寺生が転倒する。

 足元に新聞紙が絡まっている。飛んできたらしい。

 そこを目がけて、さっきの炎上軽トラが突っ込んでくる。

 俺は寺生の腕を掴んで引っ張り、軽トラとの直撃を回避させる。

 建物の外壁にぶつかって止まる軽トラ。

 軽トラはガソリンを垂れ流しながら滑走したらしく、瞬く間に地面に火柱を走らせる。そして、その火種はさっき落ちてきたポリタンクに到達し――爆発を起こす。

 ポリタンクの中身もガソリンだったらしい。

 こちら目がけて飛んでくる炎上タンク。


「破ッ!」


 寺生が右手の平を突き出して掛け声を発する。

 瞬間、突き出した手の先が僅かに光り、飛んできたタンクが吹っ飛ぶ。


 全てが数十秒の間に起こり、まるで状況が飲み込めない。


「フフフ、なかなかやるね、お兄さんたち」

「フフフ、その調子でせいぜい頑張ってね」


 不気味な笑い声を残し、双子は建物の扉を開けて中に消えていく。


 再び、雷鳴。


 坂の上の方から、炎を纏った中型4トンのトラックがこちらに向かってくるのが見えた。


「マズい! 俺たちも建物に避難するぞ!」


 寺生に言われるまでもなく、俺たちは駆けだしていたのだった。

シャイニング(1980) 監督:スタンリ・キューブリック 主演:ジャック・ニコルソン


#寺生まれのTさん



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