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夜に蠢くもの Nightcrawler

 そこからのことはあまり描写したくないが、大雑把に言えば、ドクターは丸鋸とレーザービームを駆使して、生きたままサイコロステーキにされた。

 ある程度切り刻まれたところでショック死したとは思うが、それまで想像を絶する苦痛を与えられていたに違いない。

 鬼畜の所業、という表現すら生温い。

 実行したのはロボットだが、指示したのは人間だ。

 その彼は、今も瞬き一つせずにファインダーを覗き込みシャッターを押し続けている。

「何が有能な外科医だよ――立ちんぼ何人も家に連れ込んで生きたまま縫って繋いで喜んでた変態野郎がよ」

 鬼畜なのはドクターも一緒だったらしい。

 古賀は強制参加させられたプレイヤーの中でも最も悪しき連中を『人の形をしたモンスター』だと表現したが、なるほどこういうことか。

 俺はどこか他人事のように目の前の光景を傍観していた。

 きっと、あまりに現実離れしていて映画でも見ている気分だったのだろう。仮に映画だとしたら、それはそれでこんなグロテスクなシーンが続いたら観客の半分は途中退席していただろうが。

 利人に袖を引かれて、俺はようやく身の危険を思い出す。

 本格的に脳の働きが鈍くなっている。

「……今のうちに逃げよう、史也」

 親友の囁き声に、俺は一度コクリと頷き、ロボットとカメラマンから視線を外さずに後退りを始める。


『逃ゲヨウトシタッテ助カラナイノニ』


 アシモフが、カメラマンが俺たちに気がつく。

 メタルフレームの先の丸鋸が、こちらに向けられる。

「悪い。完全に忘れてた。次はお前たちだな」

 肉塊に向けたカメラのファインダーから視線を外し、感情の一切篭っていないくせに、やたらギョロギョロとした視線をこちらに向ける。

「調理方法を選ばせてやる。何がいい。カットか、三枚おろしか。挽肉にすることもできるけどな」

「なんでアシモフなんですか」

「何?」

 利人の質問に、僅かに眉を顰める。

「ロボットの名前です。アイザック・アシモフから取ったんですよね。ロボット三原則の。人間に危害を与えてはならない、人間に従わなくてはいけない、自身を守らなけばならない――殺人ロボットにつけるには相応しくないと思うんですけど」

「気に入らないか? 自分では洒落てるつもりなんだけどな」

「悪趣味です」

「そうか。感性が合わないな。残念だ」

 全く何も思ってない声色でそう言って、カメラマンは右手を挙げる。

 メタルフレームがこちらに伸びる。

 思わず、手にした鉈で思い切り叩く。

 腕が痺れる。

 ビクともしない。

 止められないのは分かっているが、かと言って無抵抗に刻まれる訳にもいかない。

 何度も鉈で叩く。

 丸鋸が、眼前一メートルまで近付く。

 フレームを両手で押さえる。

 もちろん、人の力が機械に敵う訳がない。

 丸鋸の接近は止められない。

 高速回転する鉄の、熱と、匂い。

 危害を加えようとする機械相手に、人間が何と無力なことか。


 クスクス。


 誰かの笑い声が、崖の上から聞こえた気がした。

ナイトクローラー(2014) 監督:ダン・ギルロイ 主演:ジェイク・ジレンホール

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