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来る。

 とんでもないことに巻き込まれた。

 俺と利人は山道を走る。

 密度の濃い木々の間、ウネウネとカーブしながら伸びる未舗装の道だ。

 それなりに傾斜があるのでキツイと言えばキツイ。

 ただ俺は鍛えていたのか知らないが、山道を走ってもスタミナ消費することはない。

 一方の利人はかなり息切れしているので、そちらのペースに合わせなくてはいけない。

 背後を気にするが、古賀のサメが追ってくる気配はない。

 地中を泳ぐ、サイズ可変で瞬間移動もするチートサメだが、必ず古賀は近くにいる筈だ。

 その彼の姿が見えないのだから、取り敢えず安心していいのだと思う。

「少し休むか。サメは来てないみたい」

「……ありがとう」

 息を切らし、利人は木の幹にもたれ掛ってずるずると腰を落とし、地面に尻をつく。

「あの古賀って男、なんで祠壊したんだろうね」

 息を整えながら利人が言う。

「なんでって――言ってただろ。あの祠に封印されてたサメはとっておきのモンスターだったんだよ。実際チートだよ。何だよ、淡水で生きてるのまではギリ許せるとしても、地中を泳いでサイズを変えて瞬間移動までするなんてさ。反則だよな」

「そうじゃなくてね。古賀は祠の管理人――つまりは運営側の人間だ。湖畔の祠がサメのだって把握してたとこを見ると、多分この山の全ての祠の場所と、封じられてるモンスターを把握してるんだと思う」

「まあ、自二分でもそう言ってたよね。何だっけ。午後二時からは運営陣も参加する――だっけ」

「運営陣ってのがどれだけいるか分からないけど、話に出てきた若い村長ってのも当然そこに含まれるんだろうね。でもさ、変じゃない? 祠壊してモンスター召喚して、最後の一人になるまで山から逃げられないんだよ? いくら強力なモンスターを召喚したって、最終的に運営陣同士の潰し合いになる。運営陣が古賀と村長の二人だったとしても、どっちかは必ず死ぬんだ。なんでそんなことするんだろう」

「狂ってるんだろ」

「うーん、頭おかしいのはそうなんだけど、狂者には狂者の論理がある筈なんだよ。古賀もアル中ではあるけど頭はキレるタイプに見えたし……何だ?」

 利人は更に何か言いたかったようだが、道の向こうを見て立ち上がる。

 つられて振り向くと、向こうから一組の男女が走ってくるのが見える。

 

「おお、お前らか! 生きてたな!」


 目覚めた直後に壊れた祠を見ていた長髪の男だ。

 今は煙草は咥えておらず、さっきはいなかった白い服の女性を連れている。背が高く、髪が物凄く長くて、両目とも前髪で覆われてしまっている。

「さっきの……」

「悪い、立ち話してる場合じゃねェんだ。お前らもこんなとこで座ってると死ぬぞ。ああ、来てるわ。じゃあ行くわ」

 そう言って駆け出す。女性も、無言でついていく。


 後ろを見ると、そこには恐ろしい軍団。


 先頭を走るのは四足歩行の人を形をした何か。

 髪がなく、色白、全裸で、耳が真横に尖っていて、本来目のある部分には何もなく落ち窪んでいる。


 その横には人間よりも小柄で、円柱型の体に半球型の頭を乗せたロボット。

 足の部分がキャタピラ状になっていて、それで高速移動を可能にしている。

 半球型の頭に丸い目が二つと長方形の口が一つ――これ以上ないほど簡略的な顔の造作をしている。

 だが、左手はアームになっているものの、右手はドリルになっていて、かなり殺意が高そうではある。


 その後ろは、これも人間よりずっと大きい大蛇の姿。

 アナコンダだ。

 巨大な鎌首を持ち上げ、スプリットタンを覗かせて這ってくる。


 それから後ろに少し距離を置いて、三人の人間が走っている。


「走ろう!」

 言われるまでもなく、俺と利人は駆け出す。

「何ですか、あれ!」

 少し先を行っていた長髪男の背中に俺は声をかける。

「地底人と殺人ロボットとアナコンダに襲われている」

「何で⁉︎ バトルロイヤルでしょ⁉︎ 三対一じゃないですか⁉︎」

「知るかよ。それだけオレとおタカさんが強そうに見えたんだろ」

「おタカさん……?」

「相棒だ。オレは寺生(てらお)。悠長に自己紹介してる場合じゃないから、名前だけな」

「杉原利人です」

「東野史也です」

「ご丁寧にどうも。オレは本来平和主義者なんでね、友好的な相手は攻撃しない主義なんだ。つまり、そうでない相手にはそうでないってことだけどな」

「やられたらやり返すってことですね」

「倍返しはしねぇよ? 平和主義者だからな――二時の方向に傾斜の緩い崖がある。オレたちはそっちに逃げる。お前らは真っ直ぐ逃げろ」

「僕たちも崖に逃げちゃ駄目ですか?」

「あの三匹はオレたちを狙ってる。オレたちと一緒にいたら、お前らが巻き添えを食う。だからお前らは真っ直ぐ道を進めって言ってンだよ」

 先を走る寺生が吐き捨てるように言う。

「道は遮蔽物がなくて襲われたら避けるのが困難です。一方で、崖は疎らに木や茂みが生えていて、攻撃をやり過ごしやすい。僕らと寺生さんたちは崖の別方向に分かれて逃げればいい。僕はそう判断しました」

 理路整然とした利人の言葉に、寺生は左口角だけを上げる。

「ふうん――好きにしろや。ただ、死ぬなよ」 

来る。(2018) 原作:澤村伊智 監督:中島哲也 主演:岡田准一

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