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深い青 Deep Blue PM2:00

「祠を壊して――ない?」

「試しに話してごらんよ。どういう状況で祠壊したの。と言うより、どういう状況になって、自分が祠を壊したと思ったの」

 言われて記憶を巡らせる。

 脳の働きが緩慢なせいで、それだけでも随分な時間がかかる。

「……えっと……最初、俺は意識を失ってて……目が覚めて、それで自分が何も覚えてない――記憶喪失であることに気付いて、それで親友の利人に色々教えてもらって……それで、壊された祠を見て、自分が祠を壊したんだって言われて……」

「今考えるとおかしいよね、それ」

 違和感に気が付いたのは利人の方だった。

「祠を壊したら、それがそのままモンスターに形を変えるんでしたよね。つまり、その場に『壊れた祠』は残らない。『壊れた祠』があるってことは、その場で倒されたモンスターがいたってことです。僕は史也が祠に当たって崩したと思い込んでいたけど、元々祠は壊されていたんですね」

「そういうこった。お兄さんたちは祠を壊してない」

「じゃあ、生きて帰れるってことですか!」

 急に希望が出てきた。

 俺はゲーム参加者ではない。

 だったら山を出ることも出来る。

 わざわざ、こんなバカげたゲームに参加する義理もない。

「でも史也、死体が……」

 利人が耳打ちしてくる。

「今さらコソコソしなくていいだろ。そのうち死体の山になるんだから、気にしなくていいって古賀さんも言ってたろ」

「まあ、言ったね……うん」

 首の後ろをポリポリと掻く古賀。何だか歯切れが悪い。

 ちらりと湖の方を見て、左手の腕時計を見る。

「参ったねどうも……また話が変わってきちゃった。二転三転、また暗転ってなもんだ」

 古賀は堆積した落ち葉に手を伸ばし、ズルズルと何かを引っ張る。

 それは迷彩柄の上に落ち葉を貼り付けたビニールシートで、引っ張った下からは――


 祠が出てくる。


 「いい隠し方でしょ。これはさ、とっておきだから誰にも壊されたくなかったんだよね」


 そう言って、古賀はシャベルを両手で握り、野球のバッティングのように振りかぶり――


 祠を、破壊した。


「何やってるんですか!」

 利人が叫ぶ。

「ベラベラ喋ったのはオイラだけどさ、さすがにここまで知って、生きて帰す訳にはいかないよ」

 いつものと変わらない古賀の口調が、逆に恐ろしい。

「まあ、お兄ちゃんたちの事情がどうであれ、祠は壊すつもりだったけどね。そのためにここに来たんだから」

 古賀は湖を向いている。

 ガラガラと崩れた祠が、湖に落ちる。

 その湖面に――巨大な影。


「午後二時ちょうど――ここから、運営陣も参戦ってことで、まあヨロシクね。ヨロシクって言ったって、すぐ死んじゃうんだけどね」


 肩を震わせ、クククと笑う。


 瞬間、湖面が盛り上がり――三メートルほどの巨大な魚が、宙を舞う。


 木々の間を縫い、ニヤニヤ笑う古賀の横を掠めて、巨大魚は俺たちに向かってくる。

 グレーで流線型の魚体、大きな鰭、大きく開けた口に並ぶ鋭い歯――


 サメだ。


 巨大鮫が、俺たちを丸呑みにしようとしている。


 俺は咄嗟に利人を抱き抱えて横に跳ぶ。

 空振ったサメはそのまま地面に着地――いや、『着水』した。

 地面に着いた瞬間、何故かその周囲だけ泥水のように柔らかくなり、そのままスイスイと背ビレを覗かせて地中を泳いでいる。

 そして、再び口を開いて襲ってくる。

 だけど、これには反応できた。

 俺は宙を舞う巨大鮫の首元目掛けて鉈を振るい――今度は俺が空振りする。

 なんでだ⁉︎

 あんなデカい的、外しようがないのに!

「史也、左肩!」

 利人の忠告と同時に、左肩に激痛が走る。

 見ると、三〇センチ程のサメが噛み付いている。

 もう一匹いたのか⁉︎

 でも、そうしたらさっきの巨大サメは――と考えている場合ではない。肩に噛み付くソイツを鷲掴みにして、俺は近くの木の幹に力一杯叩きつけた。

 だが、木に激突する瞬間――サメはスッとその場で消える。どこへ行ったのかとキョロキョロしていると、今度は右太ももに激痛。サメが、噛み付いている。

「な、なんだぁ⁉︎」

「とっておきって言ったでしょ。ソイツ色々と『カスマイズ』してあるから。淡水でも平気だし、地中も潜るし、サイズも変えられるし、瞬間移動もできるからね」

「なんでもアリかよ⁉︎」

「史也、ここは逃げよう! こんなのどうしようもない!」

 利人に言われるまでもなく、俺は駆け出していた。 

ディープ・ブルー(1999) 監督:レニー・ハーリン 主演:サフロン・バロウズ

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