暗い森 Wrong Turn PM0:30
青臭い匂いで目が覚めた。
視線の先に木々の梢。その先には青空が広がっている。
どうやら屋外で横になっていたらしい。
肘を使って上体を起こす。
ズキリ――と、酷い頭痛が襲う。
両手で雑草を押し潰したことで、青臭さが強くなる。
――ここは、どこだ。
「お、気が付いた?」
背後からの声に飛び上がる。
振り向くと、メタルフレームの眼鏡をかけた若い青年が立っている。
「大丈夫、かな」
「ええと……」
形のいい眉を寄せて心配そうな顔をする青年。その口ぶりから察するに、俺の友人なのだろう。
だけど、名前が全く思い出せない。
「誰だっけ……」
「オイオイ、杉原だよ。杉原利人。親友の名前も忘れちゃったの?」
親友。
そう言うのなら、そうなのだろう。
「……頭が、痛くて……」
「ああ、だいぶ強く打ったみたいだからね。無理に動くことないよ。しばらく休んでたらいい。僕はいつまでも待つから、ね?」
柔らかく笑う利人。
色が白く鼻梁が通っていて、大きな二重の目はやや垂れているが、全体的な造作は整っている。声と物腰が柔らかく、この短い遣り取りですでに俺はこの男に魅了されていた。……親友なのだから、それはそうか。
利人と、俺。
どれだけ頭を巡らせても、その関係は思い出せない。
……それより、重要な事実に気が付き、驚愕する。
「……俺って、誰だっけ」
ポツリと呟いた言葉に、利人は目を剥く。
「えええええ!? 自分のことも分からなくなっちゃった!? 本格的な記憶喪失じゃない! そんな、漫画やドラマじゃないんだからさ……」
「教えてくれよ、俺は誰だ」
「東野史也だよ! W大学経済学部経営学科2年の!」
そう言って、学生証を見せる利人。
『W大学経済学部経営学科 東野史也』
利人が言った通りの肩書きと一緒に、目つきの鋭い短髪青年の顔写真が貼られている。
これが俺――東野史也なのだろう。
それは分かった。
そうなると次に気になるのは、今の状況だ。
痛む頭を我慢して首を回すと、辺りは木々が鬱蒼としていて、地面は堆積した落ち葉や折れた木の枝などが敷き詰められていて、目の前には僅かに露出した土が左右に伸びて道となっている。今、俺が寝ているのはその横の少し開けた、短い雑草ばかりの狭い原っぱのような空間で――少し離れたところに、何かがある。
瓦礫、だろうか。
崩れた石と、木。
元々は何かの建築物――小屋――いや、それにしては小さすぎる。もっとこじんまりとした、何か――
「その祠を壊したのも、覚えてないんだね」
クライモリ(2003) 監督:ロブ・シュミット 主演:デズモンド・ハリントン