表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気のいいおにいさんがヤンデレになるとは聞いてない!  作者: 夜星 灯
気のいいおにいさんがヤンデレになるとは聞いてない!
86/88

私の出した答え

 座ったまま後退るのは、逃げる方法としては悪手であると、頭では理解していても、うまく立ち上がることができなくて。朱羅はゆったりとした足取りで、私との距離を詰めていく。それがまるで獲物をいたぶる肉食獣みたいで、恐ろしくなる。


「なぜ逃げる?」


 壁に背があたって、これ以上逃げられないことを悟ったと同時に、私に朱羅の影が覆い被さる。スッと目線を合わせるようにしゃがんだ朱羅が、私の頬に触れる。圧倒的な強者として、種族の違いを感じさせているくせに、私に触れた手は優しくて。


「先程の質問に答えていなかったな。華を俺の妖力で染め上げて、ようやく本当の意味で俺のものになるからだ。これで理解できるか?」

「わからない、わからないよ……妖力で染め上げるって何?朱羅は私をどうしたいの?」


 迷子のように途方に暮れたきもちで見上げた朱羅の顔は、少し陰になっていて。表情があまりよく見えない。けれど、黄金色の瞳が爛々と輝いているのは、よく見えた。


「華と一緒に生きたいだけだ」


 ささやくように落とされた呟きは、甘い響きだけを持っているのに。きっとその裏には何か他の意味があるのかもしれないと、目を伏せる。


「一緒に生きたいだけなら、そんなことする必要ないよ。だって、私は朱羅が好きで。朱羅と別れることは考えてない。それじゃダメなの……?」


 問いかけながらも、それではダメなのだろうなと漠然と理解している。朱羅は無意味にこんなことしないと、わかっているから。


「華は」

「うん」

「華は、俺より先に死ぬだろう?俺はそれが耐えられない。だから、こうするしかないんだ…!」


 血反吐を吐くような、痛切な声音に胸がぎゅっと痛くなる。衝動的に朱羅の頬に触れると、朱羅はその手に、私に触れている手とは反対の手を重ね合わせて。すり寄るように頬を寄せる。


「頼む、拒まないでくれ。俺のところまで堕ちてきて。それで、永遠にも等しい生を、俺と生きてくれ……」

「朱羅……」

「華がいない年月を繰り返すのは、もうたくさんなんだ……」


 ぽつりとこぼされる朱羅の本心に、言いようもなく心が震える。どんな言葉をかけたらいいかわからなくて、口がはくはくと無意味に動く。私にとっての二年間の空白は、朱羅にとっての数百年だったと、改めて突きつけられて。その想いの重さに、胸が締め付けられる。ひたむきに、一途に私のことだけを求めていたのだと、態度や言葉で朱羅は示し続けてくれていた。それこそ、再会してからもずっと。


「朱羅は、私が欲しいの?」

「ああ。俺は、お前が欲しい」


 ジッと私を見つめる瞳には、嘘の色なんてなくて。ただゆらゆらと熱が灯っているだけだった。その視線に呑まれぬように、目を閉じる。

 そうして、色々と考えた。永遠にも等しい生を一緒に生きてくれ、ということは人間を辞めてくれってことだろうなとか。今ここで朱羅のお願いに頷いて後悔しないかな、とか。けれど。


「……しょうがないなぁ。いいよ、朱羅に全部あげる」


 けれど、結局。私だって、朱羅が好きだから。だから、朱羅のきもちに応えてあげたくて。きっとこうやってこの先もいろいろと許しちゃうんだろうな、と小さく笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ