核心に触れる
ところ変わって。現在朱羅と私は、そこそこ広い部屋で机を挟んで座っている。式がお茶を置いて、サッと部屋を出て行ってから数分が経過しているけれど、朱羅に話し始めるような気配はなくて。どことなく緊張感が漂っているような気がして、あえて朱羅にもわかるように深呼吸をひとつ。そうして、緊張から渇いた口のなかをお茶で潤してから、口火を切った。
「……それで、説明してくれるんだよね?」
「ああ。どこから聞きたい?」
私からの問いかけに対して、先程までの沈黙はなんだったのかわからないくらい、あっさりと先を促す朱羅に拍子抜けする。けれどどこから聞きたいか、なんて漠然とした質問に、どこから聞いたらいいかわからなくて困惑して。
「聞かれたことには正直に答えるさ」
「それって、私が聞かなかったら教えてくれないことがあるってこと?」
「そうなるな?」
頬杖をついた朱羅が、そう言って口端を片方持ちあげて笑う。既に言葉遊びのようなやりとりになっているせいで、少しだけ不安なきもちに襲われて。とりあえず聞きたいことを頭で整理しようとしたのだけれど。朱羅が私の思考を遮るように、手を伸ばして私の髪を撫で付ける。
「……で、質問は?なければこれで終わりということでいいか?」
「ま、だ質問してない!」
動揺から声が揺れると、朱羅はくつくつと楽しそうに笑って肩を揺らす。すぐにからかわれたのだと気がついたのだけれど。それにムッとしたせいで、頭の中で考えていたことがすっぽ抜けてしまって。慌てて散り散りになってしまった質問を脳内でかき集めた。
「えーと、まず最初に。私に何かした?」
「何かとは?問いかけが抽象的すぎる」
「目の色が違うような気がするんだけど、朱羅のせい?」
「そうだ」
朱羅は宣言通り問いかけには答えてくれるようだった。けれど、質問が抽象的だと感じたら答えるつもりがないらしいこと。短く答えられるものには、必要最低限の言葉でしか返すつもりがないようだということがわかった。
「具体的には何をしたの?」
「それは手段を聞いてるのか?」
「えっと……そう、なるのかな」
「ならば、それの答えは華に飲ませた、になる」
朱羅はいつもとは打って変わって、いっそ冷ややかにも感じるくらいに淡々と答えを返す。それが少し寂しく感じてしまって、咄嗟に頭を振ってその考えを追い出した。朱羅は私に知られたくない何かがあるから、こういう態度を取っているのだ。だから、私が問いかけるのを辞めれば、朱羅はいつものように笑って優しくしてくれるのだろう。けれど、それではダメだとなんとなくわかる。きちんとその何かを解明するまではと、ぐっとお腹に力を入れて、膝の上で、ぎゅっと手を握りしめて。そうして、朱羅を正面から見つめ直した。
「何を、飲ませたの?」
「妖力を」
「どうして?」
「言っただろう?俺のものになろうなって」
クスクスと笑ってそう告げる様は、朱羅の顔と相まって妖しげな魅力に満ちていて。三日月の形に撓んだ目は、とろりと蜂蜜のような甘さを孕んで、私の視線を絡めとって離さない。
「しゅら、の」
その視線から逃れるように、発した声はひどく頼りなく部屋の中に響く。続く言葉を探そうとして、頭の中にポンっと質問が浮かんだ。これを確認しなければいけないと、第六感が知らせるように。
「ん?」
「朱羅の、告白を受け入れて。祝言、結婚もするって言った。元の世界に戻ってきたけど、朱羅とこうしてまた会えたし、きもちは変わってない」
「ああ」
「なのに、なんで。どうして、まだ。
——俺のものになろうなって、言うの?」
その質問を聞いた朱羅は、しばらくの間沈黙していた。けれど、唐突に哄笑しだして。それに思わず後退ると、朱羅がそれを察知したのか顔をあげて私を見た。
鬼らしい笑みを浮かべて。




