変わったのは
式に案内されたのは、どこかの施設みたいに豪勢な大浴場だった。お湯の温度もちょうど良く、浸かるとほうっと感嘆の息がこぼれた。しかも広々としているのを独占できて、それもなんだか嬉しい。手足をのびのびと伸ばして、肩まで浸かると、ほかほかに温まれて最高な気分だった。それを充分に満喫した後、そろそろあがろうかなとお風呂からあがって。現在、さっぱりとした気分で髪を拭いているところである。
「ん〜?」
そのときタオルの隙間から見えた、鏡に映った自分に違和感を覚えた。手を止めてまじまじと鏡を見つめても、すぐにはどこがいつもと違って感じるのかはわからなくて。角度を変えてみたり、表情のせいかと表情筋を動かしてみたりしても、全然わからない。不意に、パッと自分の姿が見えた瞬間に何か気がつくかも、と閃いた。それを試そうと鏡の中の私を見ながら、ぱちぱちと瞬きを繰り返して。
——そうして、ようやく違和感の正体に気がついた。
「瞳の色、もうちょっと暗い茶色だった気がするような…?光の加減?」
少なくとも私の記憶の限りでは、角度によってはアンティークゴールドに見える色ではなかったはずなのだ。けれど、カラコンをしているわけでもないのに瞳の色が変わるかと言われると、素直に頷けなくて。ならば気のせいでは、と信じようとしても、明らかに違うせいでそれもできない。
「っくしゅん!」
鏡の前でずっと考え込んでいたせいか、少し湯冷めしたらしい。くしゅんとくしゃみが飛び出た。考えてもわからないのだから、これも朱羅に聞こうと決めて脱衣所の扉に手をかけた。
「わ、」
「ああ、驚かせたな。すまない」
そんなことを考えていたからか、脱衣所の扉を出てすぐのところに人がいて、びっくりして肩が跳ねる。聞き慣れた声から、朱羅だと思って見上げたら羅刹さんの姿で。予想していなかった姿に、反射的に後退ってしまった。
「華?」
「ごめん。えっと、朱羅だよね?」
「ああ。華は羅刹の姿が苦手か?」
純粋に尋ねられてたじろぐ。別に、苦手なわけじゃない。けれど、何と言えばいいのか。自分の中で適切な言葉を探しながら言葉を口にする。
「苦手、というか……朱羅じゃないみたいで、嫌、かな。朱羅に触れられるのは好きだけど、羅刹さんだと触らないでってきもちが先行しちゃう、みたいな。伝わるかな?」
そこそこ恥ずかしいことを言っている自覚はあるから、ちょっとだけ顔に熱が灯る。でも本当に、朱羅だから許容できているのだ。手を繋ぐのも、ハグもキスもすべて。
「あー、そうか」
むず痒そうな表情でそう言った朱羅は、どことなく嬉しそうで。瞬きをした次の瞬間には、元の姿に戻っていて。チョコレート色の瞳は、いつものように蜂蜜みたいな琥珀色をしていた。
「うん、そっちのほうが朱羅って感じで好きだよ」
そう言って笑うと、朱羅も笑って私へと手を伸ばしてきて。ぎゅっと柔い力で抱きしめられたかと思うと、まだかすかに湿った髪に指を差し込む。そうして、梳くように動かすと、髪から水気が消えて。サラサラに乾いたので驚く。
「ドライヤーいらずだ……」
「前に共にいたときに、髪を乾かせないことを嘆いていただろう?これくらいのことは、できるようにしたさ」
そのまま朱羅は乾いた髪に、ひとつくちづけを落とした。様になっているそれに、ときめきかけてハッと思い出す。
「そういえば、私に何かした?」
抽象的な問いかけだったにも関わらず、朱羅は思い当たる節があったらしい。ジッと見つめる私の瞳から逃げるように目を逸らして、軽いため息をひとつ。
「思ったより、バレるのが早かったな。その事について説明しても?」
「当然。それと今更だけど、朱羅が横文字使いこなしてることに慄いてる」
「まあ、時代とともにそれくらいはな。そのおかげで、あのとき華が気を使って言い直してくれていたことがよくわかるわけだが」
そんなことを言うので、お互いに顔を見合わせて笑った。




