朱羅……?
私の返答を聞いた朱羅は、嬉しそうに目を細めると、すりすりと額を擦り付けてくる。それがくすぐったくて。クスクスと笑いをこぼすと、朱羅もつられたように喉を鳴らして笑った。
「なあ、キスしてもいいか?」
「さっきまでは聞かずにしてたのに?」
そう言いながら、至近距離で見つめた朱羅の瞳には、確かな熱が灯っていた。ゆらゆらと揺れるそれが、伏せられたまぶたに覆われて見えなくなって。長いまつげが濃い影を落とす。
(あ、キスされる)
そう思って、慌てて私も目を閉じた。その数秒後、やはりというべきか、柔らかな感触がくちびるに重なって。すぐに離れていくかと思ったそれは、角度を変えて何度も何度も重なる。息継ぎのタイミングがわからずに、離れた瞬間を狙って息を吸うと、朱羅はそれに構わずまたくちびるを押しつける。息を吸うのを中断させられて、だんだんと頭がぼうっとしてくると、朱羅はようやく顔を少し離した。
「前にも鼻で息しろっていったろ?」
「……は、鼻息が、かかるの…!恥ずかしいっ……!」
不満そうにした朱羅に、息も絶え絶えになりながら反論したけれど、気にした様子もなくて。それどころか、体の熱を冷ますまいとするかのように、いつのまにか後頭部に回していた手で、頸をすりすりと撫でてきて。
「息も整ったみたいだから、もういっかい、な?」
そうして私の返答を待つことなく、再度朱羅の熱が触れる。今度は最初から喰らいつくようなキスで、朱羅の熱が口腔内に潜りこむ。驚いて思わず開いた目には、妖しげな光を湛えた朱羅の瞳が映って。
(朱羅……?)
朱羅の何かがおかしいと本能的に感じて、咄嗟に離れようとする。けれど、先程頸を撫でた手が私の頭を固定して逃がしてくれない。流石に舌に噛みつけば離れるだろうと、勢いよく口を閉じようとした瞬間、朱羅の親指が口を閉じるのを防ぐように入ってきた。
「ハハ、華は勘が冴えてるなあ?」
うっそりと笑った朱羅に、背筋に氷が滑り落ちたかのような寒気を覚える。もしかして、朱羅はこの領域に私を招いたときから、何かを仕掛けるタイミングを伺っていた?
「さっき言っただろう?俺のものになろうなあって」
朱羅が捩じ込んできた親指のせいで口が閉じられないまま、また朱羅とくちびるが重なる。そのとき、朱羅からとろりとした何かが流れ込んで来て。それを押し返そうとした舌は、何の感触も捉えないばかりか、朱羅の舌が絡みつく。その間も、ゆっくりと喉をとろとろと何かが通り過ぎていく。それは胃のあたりに、どんどんと溜まっていく感覚がし、て?
「……ぁ、」
ある程度蓄積されたのか、それはじわじわと熱を持ったかと思うと、突然体の中を這い回るように循環する。それがあつくて、喘ぐように呼吸を必死に繰り返す。その様子を見ていた朱羅の顔に、悲痛さと喜びの混ぜ合わさった複雑な表情が浮かんでいるのが、掠れていく視界のなかで見えて。
「愛してる、華」
その言葉を最後に、視界がブラックアウトした。




