ふたたび、重なる
それから朱羅は気を抜いたように、どさりと私の横に倒れこんで。私を抱き寄せて、頭を撫でた。添い寝するのすら久しぶりで、どきどきと弾む胸の鼓動の音が聞こえたらどうしよう、なんて考えたのに、朱羅は胸元に耳を寄せて。どくどくと脈打つ音に耳を澄ませると、くつくつと喉を鳴らして笑った。
「変わらないな」
「しょうがないじゃん、ドキドキするんだもん」
「嬉しいよ。もし華が会わない間に俺への好意を他の人間の男に渡していたら、相手を殺さなきゃいけなくなるところだった」
冗談かどうかもわからないそれには、苦笑いしか出てこないけれど。私のことをそれだけ想ってくれているのだともわかって、頬が緩む。
「なあ。俺は華を、あの日からずっと待ってたんだ。湖面に映る月に沈んで消えてしまったあの日から、ずっと。途方もない時間だったが、こうしてまた会えた」
「うん。待たせてごめんね」
「いや、会えたのだからそのことはもういいさ。華は、この世界に戻ってきてからどう過ごしていたんだ?」
朱羅の問いかけに、この世界に戻ってきてからの日常を思い出す。どこか胸の奥にぽっかりと穴が開く、という表現は恋した相手がいなくなったときの感情表現としてよく聞くけれど、私はそれとは違う感覚だった。私の場合は、すべて朱羅と過ごしていたら、という夢想がついて回っていたのだ。嬉しかったできごとを話したら朱羅は一緒に喜んでくれるだろうな、とか、悲しくて泣いていたら慰めてそばに寄り添ってくれていただろうな、とか。
「朱羅は?」
「ん?」
「朱羅は、どうしてたの?」
「おそらくつまらないだろうが……聞くか?」
「うん。聞かせて欲しい」
私の話ばかりを聞いて満足気な表情を浮かべた朱羅に、朱羅の過ごしてきた日々を聞かせて欲しいとねだる。朱羅は、つまらないと思うと前置きした上で、ぽつりぽつりと追憶するようにしながらゆっくりと語ってくれた。
「俺は、遠くにある星のように感じる華の気配に手を伸ばし続けた。重要な選択を迫られる局面では、わずかに華の気配が遠ざかったり、近づいたりを繰り返した。そのわずかな違いを逃さずに、気配が近くなるように選択を繰り返したんだ」
「それって……」
「ああ。もしかしたら俺の選択のせいで、華の元々の世界の過去とは少し違う結果になったところもあったかもしれないな。おそらく、もうここは華が元々いた世界とは少し違う世界になってしまったと思う。パラレルワールド、と呼ぶべきものに」
壮大な話だと思う。けれど、その可能性を否定することも、またできなかった。朱羅には私と出会った記憶があり、私のいるはずの未来を目指して選択を繰り返したのだ。だから、本来の元々の世界の軸からは、その時点から外れている。朱羅と出会わなかった世界線は、もう朱羅と出会った時点で存在しなくなっていたのだから。そこまで考えて、難しくて頭がこんがらがってくる。
「えーと、つまり?」
結論を朱羅に丸投げすると、朱羅は仕方なさそうに笑って。
「とどのつまり。華と俺がもう一回出会ったのは、運命ってことだ」
「ほんとにそれであってる??」
「ハハ、さあな?もう一回一緒にいられる。それでいいだろ」
朱羅はそうやって雑にまとめると、私のことを抱きしめなおして。本格的に眠ろうとしているのだとわかって、おとなしく私も体から力を抜いた。恋しく思っていた、温かな腕の体温と、落ち着く朱羅の香りが、私をゆっくりと眠りの淵へと引っ張っていく。
「ああ。少し、疲れた……」
「うん…」
「起きたら、はなし、のつづき、を……」
朱羅の言葉は途中で、すぅという寝息にとって変わられた。その寝息は、私の眠気をさらに強いものにしていく。次第に、すぅ、すぅという朱羅の寝息と私の呼吸が重なる。
「おやすみ、朱羅」
私も眠ってしまおうと、目を閉じて睡魔に身を任せた。




