表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気のいいおにいさんがヤンデレになるとは聞いてない!  作者: 夜星 灯
気のいいおにいさんがヤンデレになるとは聞いてない!
75/88

羅刹さんの正体

 羅刹さんの持つ目の色はチョコレート色だったはずだ。あの講堂で、確かに見たのだから。それなのに、今私を見つめている瞳の色は、昏い色に染まった黄金で。


「あの女、戯言ばかりだと思っていたが……まさか、一番嘘だと思っていたことが本当だったとはなぁ」


 ぽつりと呟かれた言葉の真意を尋ねようと口を開く前に、羅刹さんは私の腰に跨って。ズシ、とした重みを感じると同時に、逃げられないようにされたのだと悟った。


「さて、華には選択肢がある。諦めてもう一度俺を好きだという演技をするか、今度こそ俺を拒絶するかだ」


 その言葉を聞いて、心臓が跳ねる。でも、それは恐怖ではなくて、期待からだった。そろそろと伸ばした手は、途中で止められることなく、触れたいと願ったところまで届いた。


「ハ、ご機嫌取りか?それとも前者を選ぶという意思表示を行動で示したって?」


 皮肉げに嗤いながら告げられた言葉も、今はうまく処理ができない。それほど、頭に浮かんだ考えに思考が占拠されている。あの感触を探すように、手を動かす。私の予想通りなら、そこにあるはずなのだ。大理石のようにつるりとしたあの感触が。


「?なにをしている」


 手の感覚だけで必死に探している私に、怪訝な声色に変わった問いかけが落とされる。それにハッとして。諦めて、手から力を抜いた。パタっと力なく腕が布団に落ちる。


「違う……」


 必死に探したつるりとした大理石のような手触りのツノは、ついぞ私の手に触れることはなくて。じわじわと視界が滲んでいくのを悟られないように、再び目を閉じようとした、そのときのこと。不意に手を掴まれて、その手がどこかへと導かれていく。


「まさか……これを探してるのか?」


 怪訝そうな声色が、ぺたりと私の手を何かに触れさせる。それは頭の中で描いていた感触と同じで。何度か触れて、夢じゃないことを実感した後は、あのときのように遠慮なく撫でまわす。そうすると、これまたあのときと同じようにもにもにと頬をつままれて。


「しゅら…?」

「なんだ、もしかして気がついてなかったのか」


 恐る恐る尋ねた問いに、険のとれた声がぽろりと降ってくる。それに激しく頷いて、気がついてなかったことをアピールすると、仕方なさそうに笑って。


「羅刹は、あくまで人間社会に擬態するための姿だ。あんなに熱心に見つめて、気がついたのかと思えば、一気にそっけなくなるから。あの女が吐いた言葉通り、俺には既に嫌気が差したのだと思ってた」


 少しだけ悲しみの滲んだ声音に、咄嗟に首を横に振った。私だってずっと朱羅に会いたくて堪らなかったんだと伝えたいのに、色々なきもちが湧き上がってきてうまく言葉にできなくて。それでも音にできない言葉が口から出たがって、くちびるがはくはくと動く。


「ゆっくりでいい。時間ならあるから」


 その様子を見ていた朱羅はそう言って、優しく頬を撫でる。その手の温もりを懐かしく感じるのと同時に、また触れてもらえたことが嬉しくて。言葉が今はうまく話せないけれど、決して嫌ではないのだと示すために、その手に頬を寄せる。一瞬ぴくりと動いた手の指先が、褒めるように目元をくすぐった。


「え、っと」

「ああ」

「私もね、朱羅に会いたかった。迎えにきてくれるって、ずっと待ってたの」

「そうか」


 拙い言葉でも、朱羅は優しい相槌を返してくれる。それに安心したのか、言葉が次から次へと思いついた順番に口から出て行って。


「2年間待ってたの。でも途中で何回も朱羅は私なんか迎えに来ないって考えて」

「ああ」

「でも、簪をくれたときのきもちは嘘じゃないって。嘘にしたくないって思って。それで、」


 ひぐ、と情けなく震えた喉に、自分がいつのまにか泣いてしまっていたことを悟る。朱羅の手は、私が流している涙を拭い続けてくれていて。喉がつっかえるせいで言葉に詰まってしまうと、朱羅は慰めるように片方ずつ、目尻に丁寧にキスを落とす。


「待たせて悪かった」


 ぽつりと囁いた声が、あの日々の中で聞いた声と変わらない優しい響きを持って、私の鼓膜を揺らす。それがいっとう愛おしくて、またひとつ涙が頬を滑り落ちた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ