朱羅の後悔 2
「……ちょっと待て。俺の聞き間違いか?」
「もういっかい?」
「ああ」
「ほなもういっかいな。交換条件は、その人間の子ぉとの惚気を聞かせること」
まさかと思って聞き直しても同じ答えが返ってくる。それに、朱羅は何とも言えないきもちになって。はぁ、と大きく空気を肺から吐き出した。
「それを話せば加護も貰えて、この領域からも出す、と?」
「せやね。わっちはこう見えて、愛っちゅうもんに興味があってな。それが種族を超えてなんて、興味津々にもなる」
どこかひとつところで形成されたわけではなさそうな、訛り混じりの言葉は耳慣れない。けれどそれが狐里に、やけに似合っている。掴みどころのないその話し方は、狐里の胡散くささを増長させるようだった。
「信用できるかどうか、俺にはわからない。先にここから出してもらうことはできるか?」
「ええよお。普通の鬼やったら許さへんけどな。あんさん、蘇芳のとこの子ぉやろ。蘇芳には世話になってるから、今後もよろしゅう言っといて」
ニコッと笑った狐里が、突然手を叩く。その様子を具に観察していると、柏手の音が反響したかのように耳にこだまして。そのことを不思議に思う間もなく、幕が剥がれ落ちるように、偽の夕空がぽろぽろと天から降っては空間に溶けて消えていく。スンっと吸い込んだ空気は、夜の冷えた匂いがした。
「ハァ。あまり長々話すつもりはない。だが、約束は約束だ。印象的だった話をいくつかしてやる」
「楽しみやわあ。あ、一鱗を交換した話は絶対してな?」
その言葉に、咄嗟に胸元にある一鱗を隠すように握りしめた。月白の鱗に紐を通しただけの、簡単な加工しか施していないそれ。触れていると、華の気配を強く感じるから、こういう加工をしてもらったのだ。それに、華には言っていないが、一鱗の交換が活発になったのは相手の色に染まるからだけではない。
「相手に自分の色に染めた一鱗を渡すと、自分の妖力がどこにあるかわかるから、どこにいても追えるっちゅう話を聞いたんやけど、ほんま?」
「ああ、わかる。それに、多少の様子もな」
試しに見てみようかと、目を閉じて妖力のある場所を探る。今は寝るために簪を外しているせいか、床に置かれている布の上に安置されているのだなと、なんとなくわかった。
「何ともなさそうだ、寝てる。この様子なら3つくらい話しても問題ない」
「なら、一鱗を交換した話は最後のお楽しみで。そのほかは朱羅のおすすめを聞かせてーな」
いつの間に用意したのか、切り株がふたつ、話しやすい距離で並んでいた。そこに腰掛けるよう促されて、朱羅はその片方に座ると、追いかけるように狐里があまりの方に座る。
「あれは、月の輝いていた夜のこと——」
狐里の、早く話して欲しいと主張する目や表情、雰囲気に少しだけ口元を緩めて。あの日、華と出会った日のことを思い出しながら、ゆっくりと語りだす。すまほ、と呼ばれているものがなければ導かれなかった、朱羅と華の出会いの話を。




