おにいさん、妖力って意外となんでもできるんですか?
行きと違い、帰り道は私も朱羅と並んで歩いて帰ることにした。朱羅は魔魚に興味を持った私のために、他の種類の魔魚のことも教えてくれて。改めて妖の世界って意味がわからないけれど、すごいおもしろいなということがわかった。
「あ、そういえば帰り際に貰ってた鱗はどうするの?」
一鱗から関連して、七宝柄で金色の個体しかおらず、種族によってはお金の代わりに使っていることもあるという魔魚のことを教えてもらっていたとき。ふと、一枚だけ持って帰るといって、カワウソさんから一鱗の色の変わった鱗を朱羅が受け取っていたことを思い出す。その言葉を受けて「ああ。そろそろ頃合いか。見てみろ」と言いながら朱羅が袂から取り出した鱗は。
「……これってほんとにさっき受け取ったのと同じもの?」
思わずその言葉が出てしまうくらい、鱗の色は様変わりしていた。あの鮮やかで目を惹く赤が、絵の具のパレットで他の色が混ざったかのように、赤っぽさがわずかに残るだけの汚い色に変色していたから。
「もちろん、同じものだ。一鱗が染め上げた鱗は剥がした後、色を定着させないとこうなる」
「え、と。それじゃあさっきの生きたままのやつは……?」
「剥がれる前なら他の干渉は受けない。だからあの状態で運んで貰って、他の色が入らないうちに妖力で定着させるんだ」
「そう聞くと、妖力って意外となんでもできる感じがする」
ここでも妖力が使われてると知って、感嘆の言葉が出る。妖の世界では妖力が、私の世界の電気とかと同じように使われてたり…?なんて、創造を働かせていると、朱羅は喉の奥をくつくつと鳴らして。
「ただ、固定するのには並大抵じゃない妖力が必要になる。例えば、さっきの獺にはできない。俺でギリギリだ。蛟や蘇芳なら余裕だろうがな。だから業者がいるんだが」
「確か朱羅って結構妖力あるほうって言ってた気がするから、大体の妖怪は無理だよね?」
「そうなるな。妖力は増やせないわけではないが、並大抵のことでは増えないから」
いつだったかに聞いたことを思い浮かべながら聞くと、朱羅は覚えていたことを褒めるように私の頭を撫でながら頷いた。妖力って不思議がいっぱいで、まるで魔法のように感じてワクワクする。
「はい!それじゃあ妖気をつけられた私も何かできたりする??」
さっき朱羅からのキスで妖気をつけられたのだから、もしかしたら何かできるかもしれないと逸るきもちを抱えながら質問する。妖気は、いうなれば妖力がくっついたことによるマーキングのはずだから、内側にがっつり妖力を注がれたといっても過言じゃない私にも、少しは可能性があるはず。期待にきらめく目を真正面から見た朱羅は、少しだけ悪そうな顔をして。
「俺たちみたいなことはできないが、妖力を生命力に変換するから、飯とかは食べずに済む」
「あ……言われてみれば確かにお腹減ってない!」
「馴染みが悪いと消化効率が悪くてお腹も変わらず減ったり、体調を崩したりするらしいんだが」
「さらっと体に悪影響あるじゃん!」
「でも華にはないだろ。……俺たちは相性がいいようでなによりだな?」
「……っ?!?!」
小さく潜められた声はどこか艶めいた色を帯びていて。先程の深いキスを思い出させるような雰囲気を作り出した朱羅は、ゆっくりと私のくちびるの縁を辿るように優しく撫でた。それに慌てて距離を取ると、朱羅は途端にその気配を霧散させて、どこか愛おしさの孕んだ顔で笑った。




