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気のいいおにいさんがヤンデレになるとは聞いてない!  作者: 夜星 灯
おにいさん、ヤンデレの片鱗が見えてます
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遊びにも強いおにいさんと過去

 ジッと目を凝らして、ずらりと並べられた貝を見る。どれもこれも同じに見えてかすかに模様の違うそれは、朱羅の優しさによって貝の上下の置き場所が左右に分かれている。つまり、右からひとつ、左からひとつ選べばいいという仕様になっている、のだけれど。


「それじゃないな、残り2だ」

「わかんないよお!」


 朱羅からのヒントに、手に触れた貝を捲ることなくそっと戻した。というのも、普通は上下の組み合わせ関係なく貝は伏せた状態で雑多に混じっているのだが、デモンストレーションを兼ねた5対の貝でおこなった1回戦目のボロ負け具合があまりにもひどくて。なんと私は1枚も合わせることができなかった。それを考慮した朱羅が、私が楽しめるようにするために、3回までは合ってないことを教えてくれるというハンデつきで、現在2回戦目をしているところなのだ。


「おかしい…。なんでこんなにあわないの…?」


 3回のヒントを使い果たしても揃えられずに、がっくりと肩を落とす。その様子を哀れみの籠もった目で見たくせに、朱羅はあっさりと貝を揃えて。また場の貝が減っていく。


「もしかして、揃うものの配置覚えてたりする?」


 何度やってもあまりにポンポンと揃えていくので、だんだんと朱羅がズルをしているんじゃないかという気すらしてきて。つい、思ったことが口に出てしまう。問いかけると、朱羅は途端に言いづらそうに口をまごつかせて。もしかして、もしかするのかな、と更に疑いが強くなったところで、朱羅がひどく重々しく言葉を発した。


「今の華に言うのは酷だと思うが……。蘇芳に、何度も間違えるのは恥ずかしいからね!ちゃんと揃えられるように!と鍛えられてな……」

「…そっかあ」


 つまり今の私、蘇芳基準だとめっちゃ恥ずかしいということになる。しょも、と肩を落とすと朱羅はそっと私の肩に手を添えて。


「俺も最初は一揃えもできなくて、蘇芳に負けてばっかりだったさ」


 そうやって優しい言葉をかけてくれたんだけれど。心の中でそっと、トランプのほうが表面に見える貝の柄で予測できないぶん、公平かもしれないなと思った。


「また負けちゃった……」


 結局、なんとか揃えられたのはほんの数組で。朱羅が番が来るたびに回収していたから、当然といえばそうかもしれないけれど。もう一戦、という気にはどうにもなれなくて、べたあっと床に寝転がる。


「どうした、華。飽きて眠くなったか?」

「んー、そういうわけではないんだけど」


 朱羅に返答をしながらも、ぼんやりと天井を見つめる。飽きたというよりは、経験値の差の前にやる気が削がれたが近いかもしれない。一生懸命勉強して挑んだ模試で、志望校の評価C判定を貰ったような。そんなきもちに似た脱力感に苛まれていると、朱羅も私の横にごろりと転がった。


「……前に、」

「うん?」


 しばらくふたりして無言で転がっていたもんだから、また少しずつ眠くなってきたなあと思ったとき、朱羅がぽつりと小さな声で話し出す。それに相槌を返すと、少し言い淀んだ朱羅が、覚悟を決めたようにしっかりした声で言葉を紡いでいく。


「前に、華が俺の過去を気にしていたことがあっただろう?その話をしようと思う。――聞いて、くれるか?」

「もちろん、聞くよ。朱羅が話していいと思ってくれたなら」


 少し真剣な気配に、寝転がるのをやめて居住まいを正すと、朱羅は苦く笑いながら、同じように起き上がって体勢を整える。


「俺の手を取れと願っておきながら、華の気にしている俺の過去のことを話さないのは不誠実な気がしてな。聞いていてあまり気分のいい話ではないが、それでもいいか?」

「聞きたいって言ったのは私だから」

「そうか……」


 小さく噛み締めるように呟いた朱羅が、記憶を辿るように目を伏せた。自分を落ち着けるためか、大きく息を吸った朱羅がゆっくりと息を吐き出して。そうして、一拍おいてから話し始めた。かつて黄炎村と呼ばれた村で起きた惨劇と、朱羅が朱羅という鬼になるまでの、悲しみに彩られた物語を。


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